伊藤詩織さんvs.安倍官邸ベッタリ記者の法廷対決 被告が墓穴を掘る「ホテルの証拠ビデオ」

■「伊藤詩織さん」vs.「官邸ベッタリ記者」の法廷対決(1/2)


「準強姦逮捕状」が握り潰されて4年。安倍官邸ベッタリ記者・山口敬之元TBSワシントン支局長(53)と彼にレイプされたと訴える伊藤詩織さん(30)が遂に民事法廷で対決した。山口記者が墓穴を掘る証拠ビデオや菅官房長官による経済支援額が明るみに出て……。

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【顧問委託契約】と題されたその書類には、天使が歌っているような、あたたかく優しい文言が並んでいた。

・原則として月1回、意見交換を行なう

・顧問料として月額42万円を振り込む

・必要と認める範囲で交通費その他の経費を支払う

 およそ天使などいそうには思えない我らが「サラリーマン川柳」の面々からは、こんな嘆きと哀しみが聞こえてくるようだ。

〈仕事しろ残業するな成果出せ〉〈この職場ムチはあってもアメはなし〉の部署で、〈ブリはいい!生きてるだけで出世する〉とグチる日々なのに……。退職後も悠々とは行かず、〈再雇用昨日の部下に指示仰ぐ〉日々なのに……。

 この契約で“雇用”されたのは、他ならぬ総理ベッタリ山口敬之(ノリユキ)・元TBSワシントン支局長。サラリーマン川柳の面々が、〈ノリはいい!ベッタリだけで42万〉と詠んでみたくなるのもわからなくはない。

 あるいは、山口記者には、特捜検察に助成金詐欺容疑で逮捕・起訴されることになるスパコン会社顧問の顔もあった。この社は、「ザ・キャピトルレジデンス東急」の家賃月額約200万円の部屋を自由に使わせるという厚遇で彼を迎えていた。だから〈ノリはいい!ベッタリだけで200万〉と詠みたくもなるだろう。

 山口記者は、今年2月1日、「レイプされた」と主張する伊藤詩織さんを相手取り、「名誉を毀損し、プライバシーを侵害した」として、1億3千万円の損害賠償を求めた。詩織さんは2017年9月、「支局長の立場に乗じ、就職斡旋をチラつかせ、レイプした」と、山口記者に1100万円の損害賠償を請求していたから、彼は「反訴」したことになる。

 冒頭の契約書は、その「山口反訴状」から図らずも捲(めく)れ出た内容である。要は、彼女の告発のお蔭で、月額42万円の企業など、顧問先を二つ失った。1億3千万円の請求額にその逸失利益も含まれるというわけだ。そこには菅義偉官房長官の関与が見え隠れする。その点について詳しくは後章に譲るとして、詩織さんと山口記者、この両者が尋問を受けた7月8日、東京地裁709号法廷の模様からお伝えしよう。


■苛烈を極めた反対尋問


 午前10時過ぎに開廷された裁判は、詩織さんへの主尋問・反対尋問、山口記者への主尋問・反対尋問という順で進んだ。詩織さんは青いシャツに濃紺のダブル・ジャケットとパンツを身にまとう。

 反対尋問は相手方の弁護人から行なわれる。詩織さんへの反対尋問は苛烈を極めた。例えば、「膝にケガを負った」と詩織さんが主張していることについて問われた際、堪えきれず声を震わせ、

「その夜は必死に、これ以上、性行為を続けられないように、必死に膝を閉じ、身体を固くして抵抗していたので。その際に足を開かれ揉み合いになった時のことだと私は感じています」

――ベッドの上ですよね?

「はい」

――ベッドの上で、膝が擦れるようなことはないと思うんですけど?

「その時は必死に、命の危険を感じながら争っているため、どこでどうなったか説明することはできません」

 3人の裁判官のうち1人は女性で、表情の険しさがいや増しに増すばかり。昼休みに入ると、生々しいやり取りに拒否感を抱いた女性傍聴人が涙ながらに退廷する姿も見えた。

 他方、山口記者はグレーのスーツに白いシャツ、格子柄のネクタイという出で立ち。トレードマークのヒゲはない。反対尋問では、「ホテルの居室内でのベッド間の移動」について問われた。浴室隣側をベッドA、窓側をベッドBとする。

――詩織さんはどちらのベッドに寝たんですか?

「ベッドAです」

――あなたが寝たベッドはどちらですか?

「ベッドBです」


■どちらのベッド?


――性行為はどちらのベッドで?

「ベッドAです」

――詩織さんはベッドAに、あなたがベッドBにいたんだけど、あなたがベッドAに行って、性行為をした?

「はい」

 詩織さんの弁護人は山口記者が事件後に彼女に宛てたメールを示す。

――〈ゲロまみれのあなたのブラウスとスラックスを脱がせ、(中略)ベッドに寝かしました〉……ここで言うベッドというのはベッドAですか?

「はい」

――〈私はあなたの髪の毛などについた嘔吐臭が耐えられなかったので別のベッドで寝ました〉……この別のベッドはBのことですか?

「そうです」

――〈その後あなたは唐突にトイレに立って、戻ってきて私の寝ていたベッドに入ってきました〉……この〈私の寝ていたベッド〉というのはどちらですか?

「ベッドAです」

――ベッドAですか?

「そうです」

 寝ていたベッドはAなのかBなのか。山口記者はこう釈明する。

「(この〈寝ていたベッド〉というのは)“この私のホテルの私が寝ていたベッド”という意味です」

――そう読めますか?

「私はそう書いたんだから」

 そもそも山口記者は別のベッドで寝ていなかったのではないか。傍聴席がざわめいたのはうべなるかな。

 閉廷後、山口記者にアプローチをすると、

「新潮さんは著しく偏向したことを書き続けられているので……」

 ここで改めて、「レイプ」から係争に至る経緯を駆け足で振り返っておこう。

 15年4月3日、TBSのワシントン支局長だった山口記者が一時帰国した折、ニューヨークで知り合い、TBSに働き口を求めていた詩織さんと会食した。山口記者のホームグラウンドである東京・恵比寿で2軒目までハシゴしたところから意識を失った彼女は、その後タクシーに乗せられた。車中で彼女は嘔吐しつつも、タクシーは港区内のホテルへ。山口記者の部屋へ連れ込まれ、翌日未明、性行為の最中に目が覚めた。この裁判の関係者によると、

「山口は今回、詩織さんがちゃんと歩行しているのを証明すべく、ホテルの防犯カメラから取り出した画像を証拠として提出しました。しかし、介抱なしに歩けているとは見えず、墓穴を掘った恰好です」

 話を戻すと……詩織さんの刑事告訴を受け、高輪署は捜査を開始。その年の6月、準強姦容疑での逮捕状を携えた高輪署の捜査員が、機上の人となっていた山口記者を逮捕すべく成田空港でスタンバイしていた。しかし、その直前に逮捕は中止された。それは、当時の警視庁刑事部長で現・警察庁ナンバー3の官房長・中村格(いたる)氏が、「(逮捕は必要ないと)私が決裁した」と本誌(「週刊新潮」)の取材に認めている通りである。

 中村氏は菅官房長官の秘書官を長らく務め、その絶大な信頼を得ており、総理ベッタリ記者の逮捕中止命令は官邸への忖度ではという疑問が、世の中に今もなお燠(おき)のように燻(くすぶ)っている。

 捜査を引き継いだ警視庁からの書類送検を受けた東京地検は、ほぼ1年後の16年7月に不起訴と判断。詩織さんは17年5月、検察審査会に審査申し立てを行なったものの、9月に「不起訴相当」の議決が出た。公開中の映画「新聞記者」製作のきっかけはこの「準強姦逮捕状」握り潰し事件にある、と映画関係者は語っている。

(2)へつづく

「週刊新潮」2019年7月18日号 掲載

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