朝日新聞がハンセン病家族訴訟で誤報 誤報の可能性を事前に知っていたことを隠蔽か

記事まとめ

  • ハンセン病家族訴訟で、朝日新聞は「政府は控訴して高裁で争う方針」と誤報を打った
  • この誤報に、安倍晋三首相のイメージダウンを図る思惑があったとの指摘が出ている
  • さらに、朝日新聞は誤報の可能性を事前に知っていたが隠蔽したとの指摘も出ている

朝日新聞「ハンセン病家族訴訟」大誤報、釈明記事でも重大事実を隠蔽していた

朝日新聞ハンセン病家族訴訟」大誤報の舞台裏(1/2)


「ハンセン病家族訴訟」を巡る朝日新聞の大誤報。「朝日はハメられた」などとする説がまかり通っているが、とんでもない。その実態は「第二の吉田調書事件」と呼ぶにふさわしいもので、誤報翌日の「釈明記事」からは、極めて重大な事実が“消されて”いた――。

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 参院選前、朝日新聞の安倍総理批判は激化していた。だが、その憎悪の炎が強すぎるあまり、ついに朝日新聞自体に“引火”してしまったようだ。

 朝日が「ハンセン病家族訴訟」を巡って大誤報を打った背景には、「安倍総理のイメージダウンを図りたい」との歪んだ思惑があった、というのは衆目の一致するところである。それだけでも新聞社としての屋台骨が揺らぐ事態だが、より大きな問題を孕んでいるのは、誤報の翌日に掲載された「経緯説明記事」。その記事において、重大な事実が隠蔽されていることは、まだ全く知られていない。

〈ハンセン病家族訴訟 控訴へ〉

 朝日の朝刊の1面トップにそんな見出しが躍ったのは、7月9日。

〈元ハンセン病患者の家族への賠償を国に命じた熊本地裁判決について、政府は控訴して高裁で争う方針を固めた。一方、家族に対する経済的な支援は別途、検討する。政府関係者が8日、明らかにした〉

 そう伝える記事が掲載された朝刊が朝日の読者、560万世帯に行き渡った9日朝、安倍総理は「控訴断念」の方針を表明したのである。結果、1面トップ記事は大誤報となり、朝日は9日の夕刊に「おわび記事」を掲載。10日朝刊には〈本社記事 誤った経緯説明します〉と題する、栗原健太郎政治部長の署名が入った釈明記事が載った。

 大誤報問題の背後に横たわる、深刻な宿痾。それに触れる前に、目下世間に流布されている誤解を正しておきたい。今回の件を受け、意外に多くの人が「朝日はハメられた」との説を信じているようだが、それは完全な間違い。安倍総理と朝日が敵対関係にあることを背景として編み出されたのであろうその陰謀論は、

「朝日は官邸に『控訴へ』というガセネタを掴まされた。安倍総理は朝日がそれを記事にしたのを知って、『控訴断念』を表明。結果、スクープ記事は大誤報になってしまった」

 といったストーリーで、あたかも朝日が「被害者」であるかのように語られているのだが、そこには事実が一つも含まれていない。むしろ実態はその逆で、朝日が安倍総理を「ハメよう」としていたからこそあの記事は世に出たのだ。

「安倍総理は9日朝になって急遽、『控訴』から『控訴断念』へと方針を変えたわけではありません。少なくとも前日、8日の夜にはその方針を固めていた。だからこそ、9日午前2時1分にNHKが『控訴断念へ』と報じ、毎日新聞も同日朝刊で『政府内に控訴断念論』と書いたのです」(テレビ局の政治部記者)

 また、朝日の関係者も、

「ウチがハメられた、というのは事実ではない。単なる間違いです」

 と言うのだが、今回の誤報は“単なる間違い”で済むような問題ではない。

「誤報の背景には、参院選がある。仮に、安倍総理が『控訴』という判断をすれば、ハンセン病患者の家族からは、総理は人権を無視しているという批判が出て、選挙にマイナスになったはずですから。朝日には『控訴』である方が都合が良かったわけです」(朝日とは別の全国紙の政治部デスク)


■なぜ1面トップだったのか


 思い起こされるのは、福島第一原発事故に関わる「吉田調書」報道における大誤報である。朝日は独自に入手した調書をもとに、原発の所員らが〈所長命令に違反 原発撤退〉したと報じたが、そのような実態はなく、最終的に記事の取り消しに追い込まれた。あの時は東電及び原発を“悪者”に仕立てる意図が記事の背景にあったと見られているが、今回、選挙中の安倍総理率いる自民党にダメージを与えたいという思惑があって「控訴ありき」で取材を進めたのだとしたら、まさに「第二の吉田調書事件」ということになりはしまいか。それを匂わす「状況証拠」もたっぷりある。

「まずそもそも、あのネタを1面トップで報じたこと自体、首を傾げざるを得ない。『控訴断念』であれば異例のことなので1面でもいいかもしれませんが、特に驚きのない『控訴』で、なぜあの扱いだったのか。朝日にぜひ聞いてみたいものです」(先のテレビ局の政治部記者)

 元東京地検特捜部副部長で弁護士の若狭勝氏が言う。

「国が訴えられた時には法務省の訟務局が中心となって控訴するかどうかを検討します。最終判断は行政のトップである首相に委ねられますが、国が賠償を命じられた際、慣習的には控訴するのが通常の流れです。賠償には多額の税金が絡むため、一審の裁判官の判断だけでは、国民への説明責任を十分に果たしていないと考えられるからです」

 さらに、今回の熊本地裁判決では、歴代の厚生大臣などの責任にまで言及しており、政府にとって簡単に承服できる内容ではなかった。実際、

「周囲から取れる情報だけを見ると、官邸が『控訴』という判断に傾いているように見えたのは確かです」

 と、先の全国紙の政治部デスクは言う。

「杉田和博官房副長官は8日朝、“控訴断念というのは、事務方としては承服できない”と発言しています。同時に、“最後は総理が決めることだ”とも言っており、記者たちに釘を刺すことも忘れていません。なお、その囲み取材に朝日は参加していなかったようです」

 大誤報翌日に掲載された「釈明記事」で、朝日は取材の経緯を次のように説明している。

〈8日、「ハンセン病関連で首相が9日に対応策を表明する」という情報とともに、控訴はするものの、経済支援を検討しているとの情報を得ました。さらに8日夕、首相の意向を知りうる政権幹部に取材した結果、政府が控訴する方針は変わらないと判断しました。このため朝日新聞は1面トップに「ハンセン病家族訴訟、控訴へ」との記事を掲載することを決めました。

 しかし、首相は9日朝、記者団に控訴しない方針を表明しました。首相の発言を受け、これを速報するとともに、おわびの記事を配信しました〉

 お気づきだろうか。

 この「釈明記事」では、8日の夕方以降、朝日の記者が“ウラ取り”のために何をしていたのかが一切書かれていないことに――。

「記者の大事な仕事の一つが“夜回り”です。今回のような大きなネタでは、それがより大事になってくる。しかし釈明記事には夜、何をしていたのかが全く書かれておらず、不可解というしかない」(先のテレビ局の政治部記者)


■“大誤報になるぞ”


 ちなみに、朝日が8日夕方に取材した「首相の意向を知りうる政権幹部」とは、

「菅義偉官房長官です。8日夕方、菅さんは新橋で遊説した後、官邸に戻ったのですが、朝日を含む数社だけが官邸入りするタイミングに間に合い、短い囲み取材が行われたのです。そこで記者が“控訴するんですか?”と聞くと、菅さんは“しょうがないでしょう”と答えていました」

 先の全国紙の政治部デスクはそう明かす。

「朝日はその言葉をもって“控訴する方針は変わらない”と判断したわけですが、菅さんの言葉には続きがあり、“最終的には決めていない”とも言っているのです。つまり、最終的に決めるのは総理だ、ということ。常識的に考えれば、総理の意向を確認できていないのに、『控訴へ』とは打てません。少なくとも我々には出来ない。1面の記事ともなればなおさらです」

 8日の段階で安倍総理の意向を確認できたメディアが1社だけある。NHKだ。

「8日夜10時の段階で安倍総理、根本匠厚労大臣、柴山昌彦文科大臣から『控訴断念』のウラが取れており、深夜になって山下貴司法務大臣の話も取れたので打った」(NHK関係者)

 朝日が“敵対関係”の安倍総理から直接証言を引き出すのは無理にしても、他の大臣のところを回っていれば、「控訴断念」情報を取れた可能性があったということだ。ますます8日夜に朝日の記者は何をやっていたのか、という話になるが、驚くべき情報がある。8日夜、朝日も「控訴は難しい」との証言を得ていた、というのである。

「8日夜、朝日の社会部は政府筋から“控訴は難しいのではないか。控訴へ、と書くと大誤報になるぞ”という証言を得ていた。しかし、報告を受けた政治部は、まだ再取材が可能な時間帯だったにもかかわらず、ほとんど何もしなかった」

 事情に通じた政府関係者がそう明かす。

「実は10日の釈明記事も、最初の段階の原稿では、“控訴は難しい”との情報も得ていたことに触れた内容になっていた。しかし、掲載された記事を見ると、その部分がきれいに消えてしまっている」

 客観的に見れば“消えた”その部分は、朝日の上層部が“消した”のであろう。自らにとって都合の悪い事実をなかったことにする。それを何と言うか、朝日の上層部が知らないはずがない。隠蔽――「森友学園問題」などの際に朝日が好んで使ってきた言葉だ。

(2)へつづく

「週刊新潮」2019年7月25日号 掲載

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