ロシア「竹島上空侵犯」の狙い 韓国は日韓関係悪化でロシアに付け入る隙を与えている

 ロシア軍機が7月23日、竹島付近の空域を侵犯。それに対して竹島を不法占拠する韓国側が反応するという事案が発生した。防衛省によれば、侵入したのはA-50早期警戒管制機(コードネームはメインステイ)だという。ソ連崩壊後にロシア軍は弱体化していたが、日本周辺では平成19(2007)年から戦略航空部隊が哨戒活動を再開して以来、長距離爆撃機による飛行が活発化している。強いロシアの再建を目指すというプーチン大統領の方針は、極東の軍事情勢にも大きな影響を与えているといえよう。

 だがこれは露韓2国間の問題などでは決してない。そもそも当該空域は我が国の領空であり、日本政府が両国に対して抗議したのは当然である。ロシアに対しては外務省本省課長レベルから在京大使館に、韓国に対しては同じく本省課長レベルから在京大使館参事官にと、ソウルで在韓国日本大使館参事官から韓国外交部課長に抗議している。

 領空を犯したロシアに対してだけでなく、そこをあたかも自国の空域として「偽りの」対応をした韓国にも、日本の立場を正確に伝達しなければならない。一部の韓国メディアは、昨今の日韓関係悪化と紐付けようとしているようだが、それはお門違いというものだ。国家主権の根幹に関わる事案については、関係の良し悪しとは違った次元で厳正に対処しなければならない。


■年間999回の領空侵犯


 そもそも領空とは、領土及び領海の上空を合わせたものだ。ロシアが侵犯した空域は竹島そのものの上空ではないが、竹島によって生じる領海の上空だったので、れっきとした日本の領空というわけだ。なお領空侵犯に対しては自衛隊法第84条で「防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる。」と明確に定められている。

 竹島に限らず、ロシアによる領空侵犯は我が国の安全保障にとって大きな脅威だ。領空侵犯に対しては、航空自衛隊が緊急発進(スクランブル)するが、平成30(2018)年度は過去2番目に多い999回に上り、その約三分の一がロシア機に対してだった。特異な飛行も多々ある。直近の事例としては、今年6月20日、南大東島と八丈島の領空を爆撃機TU-95(コードネームはベア)が侵犯している。同機は核弾頭を8発搭載可能であり、ロシア核戦力の重要な柱だということを忘れてはならない。

 ロシアといえば北方のイメージが読者には強いかもしれないが、領空侵犯は沖縄や東京でも発生しており、十分な警戒が必要だ。それどころか同機は、アラスカ沖やインドネシア(ビアク飛行場)まで飛んでいる。確かに安倍晋三総理の努力によって、安倍―プーチン関係は親密さが保たれている。今年6月には大阪で通算26回目の首脳会談が開かれた。首脳間の緊密な関係は、北方領土問題を含めた課題解決には不可欠であり、ロシアに対する活発な首脳外交の展開には一定の合理性があるといえよう。

 ただしだからといって、ロシアが極東における軍事的な展開を控えるほど、国際政治は「甘い」ものではない。ロシアからすれば、「それはそれ、これはこれ」の世界であり、現に北方領土での軍事力増強にも熱心だ。国後島と択捉島には従来から1個師団が駐留しているが、昨年には最新鋭の戦闘機や地対艦ミサイルが配備された。千島列島中央に位置する松輪島(ロシア名:マトゥア島)でも軍事化の動きを見せている。平成28(2016)年にはロシア側によってゼロ戦とみられる機体(昭和17年製、製造番号1733)が発見されている通り、旧軍も同島を拠点として活用していたのだ。我々はシンゾーとウラジミールが頻繁に会っているからといって決して油断してはならない。


■中露連携の可能性


 今回の事案の特徴は、ロシアが中国軍と連携していた可能性が高いということだ。竹島での領空侵犯と同時期に、ロシアTU-95爆撃機2機に加えて、巡航ミサイルを搭載可能な中国のH-6爆撃機2機が日本海と東シナ海を飛行し、日本の防空識別圏に入ったのだ。中露は共同訓練を行っていた可能性が高いとみられる。

 空における機体のスピードは陸海に比べると圧倒的に速く、領空に侵入を許してから警戒を始めていては、気付いた頃には領土に達してしまうおそれがある。そこで領空の外側を含めて設定されるのが防空識別圏だ。ただし竹島上空には防空識別圏が設定されていないので、ロシアによる今回の領空侵犯への対応は後手に回らざるをえなかった。

 防空識別圏の線引きが見直された先例もある。平成22(2010)年6月、日本最西端である与那国島の西部が加えられたのだ。これは防衛省訓令によって実施されている。防衛省訓令とは、日本の法形式においては、法律、政令よりもさらに下に位置付けられるものであり、防衛大臣の判断によって発することができる。閣議決定による政令改正を経て運用が見直される予定である輸出管理よりも、手続きはさらに簡便なのだ。竹島地元の島根県及び隠岐の島町の声にも耳を傾けながら、竹島空域への防空識別圏設定を真剣に検討すべき時が来ているのではないだろうか。


■関係悪化を見逃さないロシア


 スクランブルの対象の第2位はロシアだと先ほど書いたが、堂々の(?)第1位は中国で全体の約三分の二だ。日本の空を脅かす中国とロシアが、今回の件で気脈を通じていたとなれば、不気味なことこの上ない。7月24日に中国が公表したばかりの国防白書でも、ロシアとの軍事協力強化が謳われている。なお中国単独でも、小型無人機(ドローン)を用いての尖閣空域での領空侵犯など活発さを増しており、警戒を怠ってはならない。

 このように中露の軍事的攻勢が強まる中で、韓国は自らの行く先を見失っている。冒頭で述べた通り、日本の領空たる竹島空域での領空侵犯は、一義的には我が国への挑発ということになる。だがロシアの矛先は、竹島を不法占拠する韓国にも向けられているということだ。足元のぐらつきを即座にそして巧みに突くロシアの特徴が出た格好だ。日本に対しても平成22(2010)年11月、メドヴェージェフ大統領がロシアの国家元首として北方領土に初めて上陸し、民主党政権による外交「崩壊」を見逃さない狡猾さを見せつけた。

 ロシアが見咎めた韓国の隙とは、もちろん対日関係の揺らぎだ。昨年来、自衛隊機に対する韓国海軍のレーダー照射、旧朝鮮半島出身労働者に関する大法院判決と墓穴を掘り続けて対日関係を自ら毀損したことによるマイナスが、対露関係にも及んでいることがまざまざと見せ付けられた。G20大阪サミットの際の露韓首脳会談には、プーチン大統領はなんと2時間近くも遅れて現れた。遅刻魔のプーチンとはいえ、2時間近くもの遅刻は、韓国への侮りがあるゆえだろう。対日関係の動揺によって、韓国が窮地に追い込まれるのは経済だけではない。

村上政俊(むらかみ・まさとし)
同志社大学ロースクール嘱託講師。1983年大阪市生まれ。東京大学法学部卒。外務省に入り、国際情報統括官組織、在中国、在英国大使館外交官補等を経て、2012年から14年まで衆議院議員。皇學館大学でも講師を務める。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年7月29日 掲載

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