後見人が“ケーキは買うな”“美容院行くな” 成年後見制度に改正の必要性

 2000年にはじまった成年後見制度は、家庭裁判所が選任した後見人が、認知症を患う高齢者の生活を手助けする目的のものである。財産管理もその業務の一環だが、現在、この制度をめぐってトラブルが続出しているという。前回紹介した例では、後見人弁護士がキャッシュカードなどを管理するようになった結果、被後見人の81歳女性には生活費が1円も渡されなかったという。

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■トラブル続出!高齢者を不幸にする成年後見制度――長谷川学(2/2)


 もう一人、大分県に住む山田良子さん(65)=仮名=のケースを紹介する。良子さんは姉さん女房。夫の忠雄さん(58)=同=は2011年に勤務先で仕事中に脳梗塞で倒れ、言葉は話せるが手足に麻痺が残り、脳血管性認知症も発症した。忠雄さんは過重労働による労災認定を受けた。

 夫の希望に従い、良子さんは仕事を辞めて在宅介護に専念したが、自宅は築50年。廊下はギリギリ車椅子が通れる狭さ。老朽化もひどく、隙間風や雨漏りに悩まされていた。

「弁護士さんに相談したら、会社を相手取り損害賠償請求訴訟を起こし、そのお金で家を建て替えたらどうかと提案されました。夫に話すと“ぜひ、やってほしい”と言うので、弁護士さんに伝えると“判断能力が十分でないので裁判を起こすには後見人をつける必要がある”と言われました。それで家裁に後見利用を申し立てたところ、地元の司法書士が選任されたのです」

 ところが、良子さんによると、この後見人は「ご主人のことは書類を読んでわかっているから会う必要はない」と言い、一度も忠雄さんに会わなかったばかりか、初対面の良子さんに対し「なぜ、貯金が少ない? 普通は1年で100万円は貯めるものだ」「携帯電話は必要ない。家族分を解約しなさい」「奥さんは車の運転をしてはいけない。事故を起こすと保険料が上がってしまう」などと、命令口調で指示したという。

「その後も“本人が食べたいと言ってもケーキやお菓子は買うな。欲しいと言っても無視しろ”と言われたり、私が介護に専念しているのを知りながら“あなたの美容院代や雑誌代は、夫と関係ないから払わない”などと言われました。私が“それでは私も夫も何の楽しみもない。いっそ離婚したほうがましだ”と言うと、“ご主人には意思がないから離婚できないよ”とも言われました。この後見人の暴言はあげればきりがないほどです」


■お金を使わせず、長生きさせる


 後見トラブルの相談を受けている一般社団法人「後見の杜」の宮内康二代表によると「職業後見人の報酬は被後見人の預貯金額に比例し、1千万円以下だと年間24万円、5千万円以上だと年間72万円ほど。このため職業後見人はできるだけお金を使わせないようにして、報酬額を減らさないようにするのが一般的」だという。

 この報酬は被後見人が死ぬまで後見人に払われる。つまり、できるだけ被後見人にお金を使わせずに長生きさせるほど、後見人が潤う仕組みなのだ。要は、被後見人が死ぬまで食らいつくのだ。これを俗に“スッポン後見”という。

 堪えかねた良子さんが大分地方法務局(司法書士の監督機関)に、この司法書士の懲戒請求を行ったところ、司法書士は17年9月、後見人を辞任。大分家裁は新たに地元の弁護士を後見人に選任した。

「でもこの弁護士もいまだに一度も主人と会っていません。裁判の結果、会社から損害賠償金が支払われたのに、その額も教えてくれず、自宅の建て替えを繰り返し求めてきたのに、家を見に来たのは今年の3月が初めてで、何も進んでいない。建て替えを楽しみにしていた主人はすっかり落胆し“裁判なんてやらなきゃよかった。死んだ方がましだ”と話しています」

 この間に忠雄さんは体調を崩し、入退院を繰り返し、「何度か生死の境をさまよいました」(良子さん)。昨年6月に74キロあった体重は、いまは50キロしかないという。

 これに対し、前後見人の園田剛士司法書士は「質問には答えられない」と文書で回答を拒否。一方、現在の後見人の梅本哲平弁護士は「本人と会っていないのは事実だが、本人の意思は良子さんから聞いており、それで十分と考えている。建て替えについては、金額が大きいので、家裁の許可が必要。家裁の納得を得るために、狭い廊下や浴室などの写真を送ってくれれば対処すると話してきた」と反論する。


■制度改正の必要性


 今年3月19日、朝日新聞は「成年後見『親族望ましい』」「専門職不評、利用伸びず」と1面トップで報道。それによると、最高裁は、身近な親族を後見人に選任することが望ましいと判断し、各地の家裁に通知したという。

 先の宮内氏は「職業後見人に対するクレームが各家裁で急増。各家裁が“何とかしてくれ”と最高裁を突き上げた結果と聞いています。今後、親族は自分を後見人に追加するよう家裁に申し立てると良い。そうすれば従来の職業後見人は辞任するはずです」と語る。

 成年後見制度導入時に制度設計に関わった小池信行弁護士(元法務省官房審議官)は、こう語る。

「後見を受けている人の多くは、いわゆるまだら状態なんです。意思能力も判断能力もある。それをないと決めつけてしまったら個人の意思の尊重なんてあり得ない。植物状態の人などを除き、程度の差こそあれ、判断能力は残っているわけで、後見人は、極力それを引き出さねばいけません。とくに、どこに住むかは本人にとって最も大事なことですから、本人の意思に反して後見人が住まいを決めることはできません」

 小池氏は、制度の改善策の一つとして「限定後見」の導入を提唱する。

「家の売却や保険加入など専門的な判断を要する問題が発生したときに後見人をつけ、それをやり終えたら後見人は退任するのが限定後見の考え方です。実際、韓国では限定後見を採用しており、日本も限定後見の導入を検討すべきです」

 救済されるはずの認知症高齢者やその家族が苦しみ、弁護士や司法書士が得するいまの制度は、だれが考えてもおかしい。

長谷川学(はせがわ・まなぶ)
ジャーナリスト。1956年兵庫県生まれ。早稲田大学教育学部卒。「週刊現代」記者を経てフリー。著書に『成年後見制度の闇』(宮内康二との共著)、『政治家の病気と死』など。

「週刊新潮」2019年6月20日号 掲載

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