朝日新聞が食いついた! 入管センターで「外国人ハンスト」騒動の裏側

■入管センター「外国人ハンスト」騒動の裏側(1/2)


 この報道だけを見れば「おもてなしの国」のメンツは丸潰れだろう。移民政策解禁に舵を切った我が国で、多数の外国人が人権侵害に晒されているというのだから。だが、その裏側には知られざる入管の苦悩と、大新聞の首を傾げたくなる姿勢が見え隠れしていた。

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 令和元年の今年は「移民元年」でもある。

 4月に改正出入国管理法が施行され、日本は外国人労働者に門戸を開け放ったわけだが、そんな折も折、「開国」ムードに冷や水を浴びせかけるような新聞報道が飛び交っているのだ。見出しの一部を抜粋すると、

〈イラン人男性「出るには体傷つけるしか」〉(朝日新聞・7月10日)、〈「外国人を人間と思っていない」〉(毎日新聞・7月8日)、〈牛久入管100人ハンスト 長期拘束に抗議「ここは地獄。これが正義なのか」〉(東京新聞・7月25日)。

 記事の内容を概説すれば、茨城県牛久市にある「東日本入国管理センター」で、在留資格のない外国人の収容が長期化し、ついにはハンガーストライキが多発しているというもの。

 朝日、毎日、東京新聞と、極めて「人権」という言葉に敏感なメディアがこぞってこの騒動を取り上げているのだが、とはいえ、100人規模のハンストとなるとさすがに穏やかではない。

 果たして、なぜそんな異常事態に陥っているのか。

 入管センターの担当者によればハンストは過去にも例があり、昨年4月にインド人男性が自殺した際にも起きていた。その上で、

「今回のハンストは5月上旬から徐々に広まっていき、現在は60人ほどが行っている状態です。給食は拒否しても、売店の飲食物や差し入れを食べている人もいるのでまちまちですが……」(担当者)

 現在、この入管センターに収容されているのはおよそ310人。すでに退去強制処分、いわゆる「強制送還」の手続きが確定した外国人ばかりだ。

 では、実際にハンストを行う人々の言葉に耳を傾けてみよう。

 アクリル板で隔てられた面会室に姿を現したのは、50代のイラン人男性。頬はげっそりと痩せこけ、虚ろな表情を浮かべている。

 5月からハンストを続けるこの男性は、2009年にまず大阪の西日本入管センター(現在は閉鎖)に収容されたという。

「大阪のセンターからは仮放免されたけど、一昨年になってここに入れられてしまった。理由は誰も教えてくれません。難民申請も認められないし、どんなにお願いしても外に出してくれない。私には別れた日本人の元妻との間に2人の子どもがいます。子どもたちに会えないのは本当に辛い。早くここを出て日本で生活したいです……」

 別の30代のイラン人男性は車椅子で取材に応じた。

「ハンストを始めて88キロだった体重が63キロまで減りました。日本人は好きだけど、日本政府は大嫌い。仮放免されないまま私が死んだら、日本政府に責任を取ってもらいたい」

 彼らが口にする「仮放免」とは、健康上の事情などを考慮して一時的に身柄の拘束を解く「例外的な措置」のことを指す。

 ちなみに、仮放免中は仕事には就けず、行動範囲も制限される。更新のため定期的に出頭する必要もあるが、ひとまずの「自由」を得ることができる。しかし、

「仮放免される人たちが増加したことで、不法就労したり、事件を起こして逮捕されたり、出頭期日に姿を現さないといった問題が頻発した。そこで昨年以降、引き締めを図るようになりました」(先の担当者)

 結果、長期収容される外国人が増えたというわけだ。

 牛久の入管センターを含めた全国の被収容者数は昨年6月末時点で1494人。そのうち、6カ月以上収容されているのは704人に上る。これは5年前の3倍近い人数である。

 問題はここからだ。

 入管センターにも診療室はあるが、体調が悪化した収容者がいれば万が一を考え、仮放免して外部の病院に通わせることになる。

 となれば、ハンストで体調を崩せば仮放免の恩恵に与れるのではないか、と考える外国人がいてもおかしくなかろう。実際、先の30代のイラン人男性は、

「ハンストをして外に出て、再び収容されたら、またハンストをする。ここから出るにはそれを繰り返すしかないんだ」

 と言う。これには先の入管センター担当者も、

「正直、“ハンストをすればセンターを出られる”という間違った認識が広まっているのは事実です。ただ、我々は原則的に彼らを本国に送還するまで収容し続けます。ハンストで粘れば粘るほど仮放免に近づく、あるいは、ビザがもらえるということではありません」


■「長期収容はしたくない」


 そもそも、彼らは不法滞在などで強制送還が決まった身である。

「とっとと追い返せばいいのに」と思う向きも多かろう。どうして本国に戻されることなく、収容生活が長期化しているのか。

「こちらとしても長期収容はしたくありません。条件が整えばすぐにでも本国に送還したい。しかし、現在、このセンターに収容されている外国人の9割以上は送還を“拒否”しているのです。本来であれば、処分が確定した外国人は速やかに本国へと送還する必要があります。ただ、処分を不服として行政訴訟を起こしたり、難民認定申請をすると、事実上、送還手続きは停止してしまう」(同)

 また、「強制送還」の実態も我々の想像からは大きくかけ離れていた。

「外国人を送還するためには何カ月も前から綿密に計画を立て、飛行機を用意するなど入念な根回しが必要です。しかも、強制送還に関する費用は国費で賄われます。そこまでしても、機内で暴れ始めたら機長の判断で降ろされてしまう。そのため、我々は“ここに長くいても仕方がないから、そろそろ本国に帰らないか”と日々、彼らを説得しているのです」(同)

 それ以外にも、たとえば、イランは強制送還を命じられた自国民の受け入れを拒否している。メチャクチャな話だが、パスポートの発給を拒まれては送還の手続きも遅々として進まない。

 外交ルールを大きく逸脱した国の存在も収容の長期化を助長する一因なのだ。

 こうした背景から、外国人が長きに亘って留め置かれているのは「地獄」と報じられた施設。ただ、実際の待遇を知ると、こちらも印象が違ってくる。

(2)へつづく

「週刊新潮」2019年8月15・22日号 掲載

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