31歳東大准教授が「進学校より高専」を勧める深い理由

 いつの時代も、教育は多くの親の最大関心事である。学歴なんか無用だという意見もあるものの、「できれば東大など一流校に」という昔ながらの願いを持つ人もいまだに少なくない。

 東大では最年少の31歳という若さで准教授となった大澤昇平さんは、AIの研究で注目されている新進の研究者。しかし、彼の准教授への道は、通常とはかなり異なるルートを経たものだ。

 そもそも彼は、「東大」には新入生として入学していない。進学校も卒業していない。センター試験などいわゆる普通の大学試験を経ず、高専から大学(筑波大学)に編入、さらに東大大学院へと入っているのだ。このように説明すると、「学歴ロンダリングじゃないか」と揶揄する向きもあるかもしれない。が、そうではない。

 彼の選んだルートには必然と戦略があった。それらはAI時代における教育を考える上で大きな示唆を与えてくれるものだ。最近、初めての著書『AI救国論』を上梓した大澤さんに、ちょっと特異なキャリアについて語ってもらおう。

 大澤さんがコンピューターに接したのは3歳の時だった。

「実家は福島県いわき市の小名浜漁港に近く、父は会社員、母は専業主婦という平凡な家庭です。でも、祖父が電気屋の経営に失敗して多額の借金を抱えていたこと、4人兄弟だったこともあり、経済的には決して裕福ではありませんでした。もちろん、塾に通う余裕などまったくありませんでした。

 ただ、一つだけ周りと違ったのは、エンジニアだった父が3歳の私にBASICを使ったプログラミングを教えてくれたことです。プログラミングは創造欲を刺激されますし、電気代しかコストがかからないのが魅力的です。

 小学生の頃、周りではミニ四駆や遊戯王カードが流行っていましたが、自分は見向きもしませんでした。その代わり、家でNECのパソコンに搭載されたBASICを使い、惑星軌道の物理シミュレーションをして自分の仮説を確かめる、そんな毎日でしたね」

 子どもがパソコンに接する年齢が3歳でいいのか、という懸念はあるだろう。しかし、大澤さんはこの「早さ」は自分にとって大いに意味があった、と語る。

「『年齢補正』という言葉があります。どんな職業でも、『同じ業績なら若いほど優遇される』という法則のことです。年功序列の逆ですね。

年齢補正が起こる理由は二つあって、一つは若くして成功すれば注目されるという情報量に起因するもの、もう一つは若いのに成功するのは優秀だからという生産性に起因するもので、将棋の藤井聡太七段がいい例です。

 最近、プログラミング教育をめぐる教育論議が盛んですが、何かを早く始めることは、複利効果でキャリアに影響を及ぼします。

 1年早く勉強することは、2年くらいはキャリアを早めることに相当する効果があると私は思います。私自身、小さい頃からプログラミングを学んだおかげで、キャリアパスをテクノロジー分野に絞り、若手が優遇される実力主義の上昇気流に身を置くことができました」

 中学校での成績は悪くなかったが、大澤さんは中学卒業後、進学校ではなく高専に進むことを決める。高専とは高等専門学校機構の5年制の教育機関で、全国都道府県にほぼ1校ずつ設置されている。「ロボコン」でも有名だ。その狙いをこう語る。

「もともと製造業発展のために作られた学校ですが、最近は学生の半数が大学に進学(通常は大学3年からの編入学)します。工業高校と専門学校を足して2で割ったような性質で、就職率が100%近いため競争率が高く、偏差値も進学校並みに高いことがあります。

 高専から大学に編入するのは、キャリアパス設計の上での『ファストパス』に相当します。受験勉強をする必要がなく、早い段階でテクノロジストとして必要なスキルを身につけることができるからです。

 進学校では大学合格が目的化していて、いわゆる受験数学一辺倒になりますが、高専では、数学は常に実用が前提にあります。同じ三角関数でも、電気交流のモデリングや超電導の設計など、様々な応用例を学ぶことができます。

 進学校で受験勉強に没頭する学生とは逆コースをたどりますが、就職率はほぼ100パーセント、そのうち半分くらいは大学へ編入学して、さらに最先端の研究に携わることができます。当然ながら、就職の場面でも比較優位に立ちます」

 単に就職を考えれば、「進学校」→「一流大学」でも同様に好条件が得られるだろう。しかし専門知識を深めるという意味では、高専に進むことに大きな意味があった、と大澤さんは振り返る。

「たとえプログラミングなど専門分野に才能がある子供でも、高校2年、3年の時に受験勉強に専念すると、その間、まったく意味のない暗記などをしなければいけなくなります。せっかく詰め込んだ知識も、大学に入るとたちまち忘却されてしまいます。

 しかし、専門教育より学歴を重視する今のシステムでは、こうした『無駄』が正当化されてしまいます。これが日本の教育システムが抱える未修正バグ、『大学受験のジレンマ』であり、日本が技術大国としてのプレゼンスを失った最大の敗因だと思います。

苦労して苦手科目を克服して東大に入った時には、疲弊していて、新しい研究をしようという意欲が薄くなってしまうわけです。

米国のGAFAなど巨大IT企業は、すべて10代〜30代の若者が起業しました。これからは日本でも、既存の教育システムに依存せず、若者自らがキャリアパスを読みながら成長機会を獲得していかなくてはならない時代だと思います」

 教育に限らず、日本のシステムは硬直化しており、新しい時代に適応できない、といった指摘はよくなされている。しかし大澤さんは、AIへの対応次第では、充分日本は巻き返せる、と新著『AI救国論』では希望的観測を述べている。

大澤昇平
1987年生まれ。高専時代に経産省の情報処理推進機構(IPA)が主宰する未踏ソフトウェア創造事業でスーパークリエータに認定され、IPAの出資を受けて起業。筑波大を経て東大大学院の松尾豊教授に師事。IBM入社後、2年足らずでブロックチェーンの基礎研究で社長賞を獲得。現在は、東大特任准教授として深層強化学習という人工知能の学習アルゴリズムを教えながら、株式会社Daisyというビッグデータにもとづいて株価予測を行うベンチャーのオーナーCEOも兼務している。

デイリー新潮編集部

2019年9月24日 掲載

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