「あ、男性でしたか。失礼しました^^;」現象はなぜ起こるのか

 少し前にこういう記事があった。

「球児のために作った「大盛りカツ丼」甲子園の老舗食堂がやめた悲しい理由」

 兵庫県の飲食店で提供されていた大盛りカツ丼が、スマホで撮影するだけして食べ残すという行為が頻発したために、メニューから姿を消したというニュースだ。小遣いの少ない学生にも腹いっぱい食べてほしいという店主の想いが踏みにじられた悲しい話である。


■「カツ丼(大)やめます」はインスタ女子が原因?


 このニュースは少し経ってからまとめサイトによってさらに拡散した。

「【悲報】甲子園球児のためのデカ盛りカツ丼がインスタ女子に食い散らかされてサービス終了」

 こちらはタイトル通り前述の記事のまとめになっているが、「インスタ女子」というワードが追加されている。内容にも、

〈女さん… なんで女さん得意のシェアやらないんや ♀「金払ってるもん好きにして何が悪い!」(原文ママ)〉

 といった、食べ残しをした女性への困惑や怒りを表明するコメントが見られ、中には、

〈そりゃ韓国でボコられますわこんな奴ら〉

 といった暴力を肯定するようなものまであった(8月に韓国で発生した日本女性への暴行事件を受けてのものだろう)。この記事のツイートには9月7日の時点でRTが4千以上といいねが6千以上ついており、200以上のリプライが寄せられている。

 たしかに、SNSにアップするための写真撮影を優先して食べきれない量を注文することは褒められた行為ではない。とはいえ、本当にこの店の大盛りカツ丼にそんな無体を働いたのはInstagramに写真を載せる女性なのだろうか?


■実際にカツ丼を残していたのは…


 その後ツイッターにおいてこんなツイートが出た。

〈待って…インスタでこの食堂の名前のハッシュタグ見てきたら写真撮ってあげてるの男のアカウントばっかだった…しかも1番上に出てくるこの投稿、下から2番目の段落に「残しました」って書いてあるよ!どうする?女に罪をなすりつける男らしい皆さん!〉

 ツイートには男性インスタユーザーのものと思われるスクリーンショットが添付されており、「すいませんけど残しますm(_ _)mと謝って残して帰りました。」と書かれてる。

 このツイートにも、RTいいねともに4ケタを超えて拡散されているが、リプライはわずか数件しかない。筆者も同じハッシュタグを確認してみたが、たしかに多くは男性の投稿
だった。

 よくよく考えてみればそうなのだ。たいていの女性は男性よりも物理的に食べられる量は少ない。わざわざ運動部の男子学生のために開発されたデカ盛り料理の完食に挑戦する女性がいたとして、店主にメニューの変更を決意させるほど頻繁に来店するとは考えづらい。男性向けの店の男性向けメニューを男性客が食べきらなかったケースが多いと考える方が、自然である。

 事実、インスタに写真をアップしていたのは男性客たちだった。

 さて、食べ物を粗末にすることに義憤をたぎらせていたひとたちは、なぜこのツイートに反応しないのだろう? なぜカツ丼を残していた真犯人が発覚したというのに、けしからんという意思を表明しないのだろう?

 タピオカが流行って飲み残し容器のゴミがポイ捨てされているのでタピオカ女子はけしからんという話もよく目にするが、タピオカドリンク店は女性専用ではないのでゴミを捨てているのは男性の可能性だって十分ある。それにもかかわらず「タピオカは女の飲み物だからゴミをポイ捨てしているのもきっと女だ」という、実態を無視したバッシングが盛り上がりがちだ。

 ちなみにポイ捨てや路上喫煙でたびたび問題になるタバコは、女性よりも男性の方がはるかに多く愛好しており( 2018年「全国たばこ喫煙者率調査」、男女計で17.9% )、推計値では男性が1,400万人以上、女性は470万人ほどである。

 その差を考えればポイ捨てや路上喫煙をしているのは主に男性ということになるが、この問題に関して「これだからタバコを吸う男は……」などと言われていることはまずない。批判の対象は一律「喫煙者」であり非難の口調は「これだからタバコを吸うやつは……」である(路上喫煙もポイ捨てもしない喫煙者には迷惑なことだろうが)。

 男は「男だから」という点を論(あげつら)って批判されることはまずない。それだけではなく、前述したカツ丼の件のように、その蛮行はまるで誰も見ていないかのようにスルーさえされる。


■援交女子高生、児童虐待の母親…その隣にいた男性は?


 今年はずっと、陰鬱な気分になる性犯罪や児童虐待事件の報道が絶えない。

 性犯罪そのものはもちろん問題だが、それに対して司法が「合意じゃなかったとは言い切れない」といった冗談のような理由で無罪にしていたり、不起訴にしていたりする。ネットでも「女から誘ったんでしょ」「自衛が足りなかったのでは?」「どっちもどっち」などという意見を探すことに、大した手間はかからない。

 父親からの虐待によって子どもが死亡した事件の報道には「母親は何をしていたんだ」と声が上がり、母親も同じく虐待被害者であり正常な判断も行動もとることができなかったと発覚すれば「いやいや、どんなになっても最後まで子どもを守るのが母親の役目だろう」「母親失格」「母親も虐待に手を貸したって自供したぞ」と、どこまでも被害者を追い詰める言説が後を絶たない。

 女子高生が援助交際の果てに出産した子どもを河原に遺棄した事件では、未成年の彼女を買った男がいるという事実をまるきり無視して、彼女をバッシングする多くの意見がSNSに溢れかえった。

 そもそも、女性を襲って乱暴した男の罪は?

 そもそも、家庭内暴君として君臨し、妻と子どもに暴行を加えた男の罪は?

 そもそも、未成年の違法行為を見咎めもせず保護することなく、金を払って「お楽しみ」に耽り、彼女を妊娠させた男の罪は?

 それらは一体、事件の被害者やそれに関わる女性たちをバッシングしているひとたちの中で、どこに行ってしまっているのだろう?


■男性に忖度し、女性にセクハラや説教をする男性たち


 面白い記事を紹介したい。去年のものだが、非常に分かりやすい女性差別の一例である。

「女性の名前で仕事のメールを送ってみたら…見えない差別に気づいたある男性の話」

 仕事が遅い部下の指導に悩んでいた男性が、ひょんなことから彼女と名前を入れ替えて仕事のメールを利用するようになったところ、顧客や取引先からまったく理不尽に見くびられ蔑まれていた彼女の実態に気づいたという話だ。

 女性が自分の名前で仕事をしているだけで顧客から「信用ならない」と決めつけられ、セクハラを受け、結果として「女は仕事ができない」とレッテルを貼られる。【女性】と【仕事ができない】の間に横たわる現実を男性は知る由もなく、そしてそれを訴えられてもなかなか信じることができない。

 非常に興味深いのは、記事内で女性に感じの悪いメールを送り続けていた顧客が、メールの相手が男性だと分かった途端、コロリと態度を豹変させている点だ。

 これと同じような現象は、匿名性の高いSNS上でも頻繁に目にする。女性だと思った相手に上から目線のタメ口で話しかけて説教をしていた男性が、相手が同性だと知った瞬間に敬語を使い始め、同調する。

「男性でしたか。失礼しました^^;」というのは、男性に向けて言うには失礼なことを、女性になら堂々と言ってもいいと思っている証拠であろう。

 男性は男性に忖度し、女性にセクハラや説教をするのが当たり前、という無意識の女性差別が、社会には確実に蔓延している。


■「男の分際で」とは決して言われない社会


 引き続き、古いものだが痛快な記事を紹介しよう。

「16歳女子高生、南極点から「サンドイッチ」で反撃 ユーモアで差別に対抗、世界から賞賛」

 16歳の女子高生が「ポーラー・ハットトリック」(南極点、北極点、グリーンランド氷床の3カ所をスキーで踏破すること)という偉業を最年少で達成した。南極点で記念写真を撮影する彼女の手には、場違いなサンドイッチがある。写真とともに添えられた彼女の言葉はこうだ。

「ほら、あなたのためにサンドイッチを作りましたよ(ハム&チーズ入り)。37日間、600kmの距離をスキーで旅して南極点まで来られるんだったら、どうぞ召し上がってください」

 この投稿はさらに2年前、北極点に到達した彼女に投げつけられた「何人の男に手伝ってもらったの?」「俺のためにサンドイッチを作ってよ」という性差別的な嘲笑に対する反撃だった。彼女はそんじょそこらの大人にさえ到底真似できないような偉業を達成して差別主義者たちに堂々と立ち向かった。

「女はサンドイッチでも作ってろ」というのは、日本でいえば「女は家事でもしてろ」といったところだろう。「女の分際ででしゃばるな。おとなしくしていろ」というわけだ。

 果たして、これが男子高生であったなら、同じような性差別的な発言の的になっただろうか? あえて断言するが、そんなことには、なりえない。

 もし言われるとしたら、「男は……」えーと、なんだ? 「男なんだから…」…………。

 誰か思いつくだろうか? 思いつくなら、ぜひ教えていただきたい。

 男性を「男の分際で!」と貶める言葉は、存在しないのだ。


■「どっちもどっち」論で矮小化される性差別問題


 女だって食べ残しやポイ捨てををするだろう。

 援助交際している女子高生も悪い。

 夜道が危険だと分かってて自衛しない女も悪い。

 女だって男のクセにと言うじゃないか。

 たしかに食べ残しやゴミのポイ捨てはいけないことだ。しかし実態にないことを一律女性のせいにされる筋合いはない。

 子どもが間違ったことをしているなら、それをやめさせるのが大人の役目だ。そして何より児童買春は法律により禁止されている。

 夜道だろうが電車だろうが被害者がどんな恰好をしていようが、他人に危害を加えた者が加害者であり悪である。

 男性は「男のクセに」と言われたりセクハラを受けることで就業先が限定されたり業務に支障が出たりすることが、女性に比べてどの程度あるだろうか。

「どっちも悪い」「どっちもどっち」論にして得をするのは誰だろう? 起きたことに対する社会の反応が男女でこうも違っているということを、冷静かつ誠実に議論できないのはなぜだろう? 議論されて困る者がいるのだ。

 こういった発言をするひとが、行為の是非が分からないというわけではないのだ。しかしニュースで知る事件や身近で起こる出来事に「女性」という要素が付随した時、社会によって刷り込まれてきた女性差別のスイッチがオンになる。

 だから、女性が被害者の強姦致傷事件という見紛うことなき暴力事件に対してさえ「女が犯人を誘った可能性がある」などという反応を、脊髄反射的にしてしまうのだ。これが男性が被害者の強盗致傷事件だった時、果たして同じような反応はどの程度あるだろう?

「ない」とは言わない。問題は、その割合と頻度なのだ。

 事件の第一報の時点で「レイプ事件? 女が誘ったんじゃないの?」と言われる割合と「傷害事件? 男が殴られるようなことしたんじゃないの?」と言われる割合および頻度は、明確に前者が多い。

 それが、女性の生きている社会の実情だ。

「強盗された? 男が金持ち丸出しの時計とスーツでフラフラ歩いてたんじゃねーの? 犯人とどっちもどっちだろ」

「食べ残しにゴミのポイ捨て? どうせ全部男がやってんだろ」

「南極点到達? どうせ女に助けてもらったんでしょ。そんなことより、おとなしく会社行ってペコペコ頭下げてろよ」

 果たして、こう言われることが常態化した時、男性はその言説を「その通りだな」と受け止めることができるのだろうか?

柊 佐和(ひいらぎ さわ)
フリーライター。フェミニスト。元セックスワーカー。1983年生まれ。高卒で入社したブラック体質の就職先を1年で退職しアルバイターになる。27歳から断続的にライターとして活動。セックスワークを経てフェミニズムと出会う。SNSを通して日本の女性差別とセックスワークの構造に対する批判を展開する。twitter @00_carbuncle_00

2019年9月26日 掲載

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