「大学入試出題数1位」でも高校生には読ませたくない朝日新聞「天声人語」の中身

■高校生には読ませたくない朝日新聞「天声人語」(1/2)


 秋本番、受験生にとって気もそぞろになる季節がやってきた。そんな心理に棹さして“商売”しているのが「朝日新聞」である。曰く、「入試出題数No.1」で、「天声人語」を書き写せば教養が高まる……。果たして、そんなに自信たっぷりで良いのでしょうか。

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 昨年の時点で「400万冊突破」というのだから、これはもう大ヒットと言うしかない。

 朝日新聞が発行する「天声人語 書き写しノート」。ノートに「天声人語」を貼り、それを書き写すという、それだけのものが2011年の発売以降、大いに売れ、今では記憶力を鍛えるとうたった「脳トレ版」など6種類が出されている。

〈「知性を感じられる文章を、きれいな読みやすい字で書けたら…」と思う人も少なくないでしょう〉

〈大学や高校、中学の入学試験にもしばしば出題されます〉

〈書き写しを続ければ、ことばの力や教養を高めることができます〉

〈知っている言葉が増え、文章力がつきます〉

 宣伝文句で、朝日はそう書く。これすなわち、「天声人語」は「知性」と「教養」に溢れ、「文章力」抜群で、「ことばの力」に満ち満ちている――と宣言しているに等しいが、

「ホントに書き写しノートって売れてるんですか」

 とは、他ならぬその朝日新聞の元編集委員・川村二郎氏。「週刊朝日」の編集長も務めた大物OBだ。

「あれを書き写させられるなんて、子どもにとっては災難ですよ。写すのなら、『天声人語』より、読売の『編集手帳』の方が勉強になると思いますよ」

 百聞一見。実際、この9月の内容を見てみても、なるほど確かに頷ける点も。

 例えば、9月8日。

 横浜市がカジノ誘致に名乗りを上げたという話題で、天声人語子はこう語る。

〈(市長は)「すべてのばくちが悪というのは違う」と話し、こう続けた。「競馬をご覧になったらわかると思うが、ものすごい数の人が、馬に対する思いとか感謝を持っている」。ルーレットへの思いや感謝もあってしかるべき、ということだろうか〉

 嫌味たっぷりな言い方である。

〈(ギャンブル依存症について)市長は、医学部のある横浜市立大学に「医療面を中心に大きな役割を果たしてもらう」と述べた。依存症になっても大学病院が治してくれますよ、ということだろうか〉

 またもや嫌味。

〈IRにより、市は年間最大1200億円の増収効果を見込む。現在の市の税収の15%に相当する額だ。これでは横浜の財政が「カジノ依存症」になってしまう〉

 これも嫌味。

 そして、

〈カジノあっての豊かな暮らし。あなたのまちがもしそうなったら、どうだろう〉

 同じ言い回しが頻発する点には目を瞑っても、わずか603文字の中は嫌味だらけ。この文章、高校生が書き写したら人間が悪くなると思うが、どうだろう。少なくとも「知性」や「教養」の跡があまり感じられないのは確かである。

 あるいは、9月11日。

 日産自動車の西川社長が辞任会見をした翌々日の稿。冒頭、こう始める。

〈おいおい、その立場に置かれて言うセリフと違うだろ〉

 そして、吉本新喜劇の池乃めだかがボコボコにされた後、「今日はこれくらいにしといたるわ」と言って〈周りが派手にずっこける〉ギャグを前振りにし、

〈(西川氏は)会長だったゴーン被告が昨年逮捕された直後にこう言った。「1人に権限が集中しすぎた」「長年にわたる統治の負の側面と言わざるを得ない」/おいおい、あなたはその会長に引き立てられ、社長をしていたんじゃないか〉

 辞任の際、西川氏が「日産の負の部分をすべて取り除くことができずバトンタッチすることになり、大変申し訳ない」と述べたことに対し、

〈自分も負の部分かも、とは考えもしないらしい。ずっこけたくなる〉

 芸のない言葉の連発に「知性」や「教養」を期待した読者もずっこけたくなる。おいおい、そんな言葉、高校生に書き写させるとマズイだろ。


■“だから何?”


 1世紀以上の歴史を持つ、朝日「天声人語」。3年前からは、有田哲文、山中季広の両論説委員が1週交代で執筆を担当している。うち、有田氏はインタビューでこう答えている。

「朝、テーマを決めて、どう着地するかわからないこともありますよ。夜に書き終わり、家に帰って次のテーマを考え……」

 一日うなって、その成果が「どうだろう」「ずっこけたくなる」……。そんな言い回しをそのまま使うとは、よほど強烈な自負でもないとできない芸当だが、

「『天声人語』とは、天の声を人の言葉で語るという意味ですよね」

 と言うのは、コラムニストの小田嶋隆氏。

「『上から目線』のコラムになるのは当然と言えるのかもしれません。新聞という架空の人格が読者に教えてやってるというつもりなんでしょうが、“あなたはどの立場なの”と突っ込みたくなります。全てを超越した仙人が無知な人に語りかけるような、特権的な言い回しが目につきます」

 例えば9月6日の話題は、風疹が流行していること。マンガ『コウノドリ』を引いて、妊娠初期の女性が感染すると子どもに障害が及ぶ可能性について記した上で、結論はこうだ。

〈予防接種よりほかに赤ちゃんを守るすべはないと改めて胸に刻む〉

 おっしゃる通りです。

 あるいは、8月31日。大雨で大規模な浸水が起きた佐賀県の大町(おおまち)町で、鉄工所から漏れた油による被害も出ていることを取り上げた上での結論は、

〈水や油の害から脱した日常の暮らしが、一日も早く取り戻せるよう〉

 しごくごもっとも。

 8月25日、「デマの速度」について取り上げた際には、

〈判断力のある知者がいればデマはそれ以上広がらないとされる〉

 実際、そうなってしまっている現実にメスを入れることこそが、コラムの役割なのではないでしょうか。

(2)へつづく

「週刊新潮」2019年9月26日号 掲載

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