聴覚障害者を装う外国人“旗売り”が急増中 30円の日の丸が500円のぼったくり

 聴覚障害者と称する外国人から、日の丸が描かれた旗を500円で売りつけられるケースが急増しているという。日本人の“人の良さ”につけこんだ巧妙な手口の実態に迫る。

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 最初に断っておくと、本稿は障害者の方々への差別を助長する意図は毛頭ない。2018年秋ごろからTwitterなどで報告が相次ぐ詐欺行為についての記事である。その手口は、

〈私たちは聴覚障害者です。私たちの旗を500円で購入していただければ素晴らしい日本を知ることが出来ると思います〉

 という文言が書かれたカードとともに、外国人が日本の国旗を売りつけようとするものだ。場所は道端、ファーストフード店や居酒屋など様々だ。

 その旗はアマゾンで買えば1本30〜40円程度の代物だ。Twitter上では、「断ったら外国人に舌打ちされた」「仲間同士では普通に会話していた」などと、実際には聴覚障害者を装った「新手の詐欺」として注意喚起を促されている。

 このような話を聞くと、読者の中には「こんないかにも怪しい手口に引っかかる人がいるの?」と思う人もいるだろう。しかし、いざ実際にその場面に遭遇すると、「障害者だから強く断れない」「少額だし、人目も気になるから」「外国人に日本のことを嫌いになってもらいたくない」と、様々な理由から買ってしまう人も少なくないという。

 実際に声をかけられた男性(34歳、東京都在住)は、当時の様子をこう語る。

「大久保の中華料理店で昼食をとっていると、聴覚障害者だという白人女性が店に入ってきて、日本国旗を買わせようとカードを見せてきました。なんだか怪しかったので断りましたが、もちろん罪悪感はありましたね。その店の店主は、僕ら客の前で障害者を邪険にするわけにもいかず買ってあげていましたが、おそらくそれも彼女らの作戦だったのでしょう。乱暴な言い方かもしれませんが、もし本当に金が必要なら、カードに『私は聴覚障害者です。このお店で働かせてください。お願いします』って書いた方がまだマシでしょう。500円の旗を売るのも店で働くのも、同じ“就労”ですからね」

■全盲弁護士が詐欺罪を解説


 こうした事案について、日本で3人目の全盲の弁護士として知られる大胡田誠氏(おおごだ法律事務所)は次のように注意喚起する。ちなみに彼はその半生がドラマ化(「全盲の僕が弁護士になった理由〜実話に基づく感動サスペンス!〜」TBS系)もされた人物だ。

「日本人のなかには『障害者は清く正しい』と思い込んでいる人も少なくありません。その点を利用したのでしょう。買ってしまうと同様の事案を助長してしまうので絶対に買わないでほしいです」

 大胡田弁護士は、旗を売っている人が実際には聴覚障がい者ではないとすれば「詐欺罪」にあたる可能性が高いという。ちなみに詐欺罪の成立には次の4つの構成要件が必要となる。

1.欺罔(ぎもう)行為。事実と違うことを告げる、あるいは事実を告げないという人を騙す行為のこと
2.その結果、錯誤に陥る。誤解する
3.金銭や物をあげてしまう
4.それらが一連の因果関係にある

「これらに照らし合わせると、500円を払った人は旗がほしいからではなく、聴覚障害者を装った欺罔行為の結果、助けたいという錯誤に陥って払ったので詐欺罪となるわけです。もっとも、被害が少額だからわざわざ被害届を出す人はまずいないでしょう。また、外国人ということで日本人には犯人の特定がしにくい。さらに聴覚障害者ではないということの証明が難しいという3つの要因で摘発されにくいのでしょう」

 聴覚障害者は、第三者から見て障害があるかどうか判断がつきにくい。かつて世間を賑わせた音楽家の佐村河内守がその典型例だろう。

「聴覚障害者の中には『口話』といって口の動きを読んで会話ができる人もいます。そのため、聴覚障害者を名乗る人が仲間と普通に話をしていたからといって、『実際は耳が聞こえていて、騙された』とはあながち言い切れない側面もあります」


■一人で判断せず、断る勇気も必要


 大胡田弁護士は、こうした事案に遭遇した場合、まずは一人で判断しないことをすすめる。

「この件に限らずオレオレ詐欺などにも当てはまりますが、被害を受ける人はとっさのことで冷静な判断ができていないケースが多い。近くに家族、知人がいたら相談する、いなければ電話して聞いてみるなど、ワンクッション置くことが大切です」

 また怪しいと思ったら「いりません」ときっぱり断る。仮にしつこくされたら「警察に行きましょう」と毅然とした態度を示したほうがいいという。

「基本的に詐欺犯は『警察に行こう』と言われたら深追いしません。そんなリスクに晒されたくないので引き下がると思います。普通、障害者が『お金をください』と要求することはありませんし、逆に現金をあげることが障害者の尊厳を傷つける場合があることにも留意してほしい。私自身、全盲の障害を持っており、学生のときに電車の中で見知らぬ高齢女性に『かわいそうだね』と千円札を差し出された経験があります。『自分はお金を恵まれなければいけない立場なのか』とひどいショックを受けました」

 同時に大胡田弁護士は、「『障害者を見たら詐欺だと思え』という風潮にならないことも望みます」とも語る。

 聴覚障害者と称して500円の旗を売りつける。その行為は本当に「助けたい」という善意を持つ人、聴覚障害者の両者をも傷つけているのだ。

取材・文/安楽由紀子(清談社)

【識者プロフィール】大胡田誠弁護士
先天性緑内障により12歳で失明するが、慶應義塾大学大学院法務研究科へ進み、司法試験合格。全盲で司法試験に合格した日本で3人目の弁護士となる。複数の法律事務所を経て独立し、「おおごだ法律事務所」を設立。主に一般市民が直面する民事・家事事件を扱うが、自身の障害を活かし様々な困難や痛み、障害に苦しむ方々へ法的だけでなく精神的な面についても支援する。著書に『全盲の僕が弁護士になった理由〜あきらめない心の鍛え方』(日経BP)があり、TBS系列にてドラマ化。おおごだ法律事務所Webサイト https://oogoda-law.jp/

2019年10月12日 掲載

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