「恩赦」の意外な問題点 過去には死刑囚が減刑され、殺人未遂事件を起こした例も

 今年5月の改元で、にわかに注目が集まっているのが、有罪確定者の減刑などを行う「恩赦」だ。昭和から平成に変わった際にも行われた恩赦の対象者は、大半が軽犯罪者だった。さらに時代をさかのぼると、死刑囚が減刑されたケースもある。

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 政府は、天皇陛下の即位に伴う10月22日の「即位礼正殿の儀」に合わせて、恩赦を実施する方針だ。恩赦の多くは国家的慶事(祝い事)の際に行われるが、皇室の慶弔事による恩赦は1993年の皇太子殿下と雅子妃殿下のご結婚以来、実に26年ぶりのことである。

 恩赦とは、法務省によると「行政権によって、国の刑罰権を消滅させ、裁判の内容を変更し、又は裁判の効力を変更若しくは消滅させること」と定義されている。

 日本の恩赦制度は、中国・唐の影響を受けた奈良時代から天皇陛下の専権事項(判断や決定を下せる事柄)として始まった。戦後以降の恩赦は、憲法に基づいて内閣が決定し、天皇が認証する国事行為の一つとなっており、具体的な手続きは恩赦法で定められている。

 恩赦法に基づく具体的な恩赦の内容は、端的にいえば次の5つに分類される。

(1)特定の“罪”に問われている人が全員無罪になる「大赦」
(2)特定の“人”が無罪になる「特赦」
(2)死刑を無期懲役に変更するなどの「減刑」
(4)執行猶予中の者を除き、「刑の執行の免除」
(5)有罪により失った資格(選挙権や被選挙権)を回復させる「復権」

 実施方法は、国家的な慶弔行事が実施されたときに一律に対象者を救済する「政令恩赦」と、個別に判断された者に対して行われる「個別恩赦」に分かれる。さらに個別恩赦には、国家的慶事など一定期間に限って実施される「特別基準恩赦」と日常的に行われる「常時恩赦」がある。

 恩赦制度は、多少内容に違いはあれども日本以外に韓国やアメリカなどの国にも設けられているが、そもそも、何故このような制度が存在するのだろうか。

■社会変化の考慮や冤罪者への救済のため


 弁護士法人・響の坂口香澄弁護士は、日本の恩赦の存在意義について次のように説明する。

「法務省は、過去の法律では犯罪とされていた行為が社会の変化によって、そこまで処罰されるべきものではないと考えが改まった場合や、冤罪が強く疑われたりする場合などの救済を、恩赦の役割として説明しています」(坂口弁護士、以下同)

 坂口弁護士は具体的な過去の事例として、以下のようなことを挙げた。

「現在は廃止されている外国人登録制度では、登録の際に指紋の押捺が強制されており、さらに指紋押捺拒否に対しては1年以下の懲役などの刑事罰が定められていました。しかし、1987年の外国人登録法の改正で刑事罰の規定は削除され、これをうけて昭和天皇の崩御に伴い行われた恩赦では、指紋押捺拒否による罪は恩赦の対象となったのです」

 また、恩赦の対象者には、基準も設けられているようだ。

「昭和天皇の崩御に伴って行われた政令恩赦では、戦時中の経済統制関係法令に違反する罪や、先ほど説明した外国人登録法に違反する罪の一部、微罪を犯した者が対象となりました。個別恩赦(特別基準恩赦)では、少年のときに罪を犯した者や、70歳以上の受刑者などについて基準が定められ、犯罪に至るまでの事情、本人の性格、日々の素行、犯罪後の状況、国民感情などを考慮し、恩赦が行われました」

 この1989年2月24日に実施された「天皇大喪恩赦」では、大赦令(大赦の命令)も発布されており、対象者は約2万8600人。道交法、軽犯罪法、外国人登録法、食糧管理法などの違反による、17の犯罪が適用対象とされたが、殺人、放火、強盗などのより凶悪性の強い犯罪は除外されている。


■過去には公選法違反の4300人も対象に


 恩赦というと、凶悪な罪を犯して死刑や無期懲役を受けた受刑者でも、無罪放免になって釈放されるといったイメージを持っている人もいるかもしれない。

 確かに1952年のサンフランシスコ平和条約締結時の恩赦では、14人の死刑囚が減刑された。この際、49年に19歳で小田原一家5人殺害事件を起こした死刑囚が無期懲役に減刑されたが、70年3月に仮釈放となった後、模範囚として出獄。

 その後84年7月、同棲中だった13歳の家出少女を、別れ話のこじれから7カ所刺した上、この少女の友人に対しても3カ所刺すなどし、殺人未遂事件の犯人として逮捕される。

 この事件で懲役8年を宣告され、仮出所も取り消しとなり、結局2009年に獄死する結果となった。

 そのような事例があったため、今後死刑囚に恩赦を与えるとなると、国民の理解はなかなか得られまい。

「近年の恩赦の傾向では、軽微かつ被害者がいない犯罪や罰金刑しか法定されていないような微罪の特赦や減刑、公職選挙法違反で公民権停止になった者の資格の復権などが中心になると考えられます。なので、凶悪犯が野に放たれることはほぼあり得ません」

 一方で、恩赦制度そのものに合理的な理由がない点を指摘する声もある。

「恩赦は憲法上に規定されている制度ですが、国会が定めた法律に基づき、裁判所が判断した判決について、その効果を内閣が消滅させるものです。つまり、行政が立法及び司法の行為を一部覆す行為ともいえるため、権力分立の原則からして恩赦の運用は慎重になされるべきです。たとえ国家の慶弔時とはいえ、多くの犯罪者たちに恩赦を行うことに説得力のある説明はなかなか難しいでしょう」

 1990年11月、今上天皇御即位の礼により実施された政令恩赦では、公民権の復権が行われたが、その際もこんな問題が浮き彫りになった。

「そのときの恩赦の対象には同年の衆議院議員選挙違反で罰金刑を受けた約4300人も含まれており、“政治恩赦”だとの批判が出ました。しかし、内閣が政治的な意図で恣意的な決定をしていないか、恩赦の内容をチェックする仕組みそのものがありません。また、個別恩赦を希望しても不相当だと判断された場合、その判断に対する異議申立ての手続きができないことも問題視されています。このように、恩赦の運用を監督・是正する制度がない点は改善の余地があるかと思います」

 公選法に違反した者たちへの救済の是非以外にも、被害者感情への配慮などの観点からも、恩赦の対象者は慎重に選ぶ必要がある。

取材・文/福田晃広(清談社)

【識者プロフィール】坂口香澄弁護士
新宿(東京)・赤坂(東京)・大阪・福岡に拠点を持つ「弁護士法人・響」所属。刑事事件や交通事故、借金問題、労働・離婚・相続問題、消費者問題などを主に扱う。テレビや雑誌、新聞などメディア出演も多数。FM NACK5「島田秀平と坂口香澄のこんな法律知っ手相」にレギュラー出演中。http://hibiki-law.or.jp/

2019年10月13日 掲載

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