勝手に妄想「多摩県」独立したら(中川淳一郎)

勝手に妄想「多摩県」独立したら(中川淳一郎)

イラスト・まんきつ

 東京都江東区と大田区をめぐる「領土問題」が取り沙汰されていますが、日本国内でもこんなことがあるんだな、と驚くとともに、まぁ、昔は国内で陣取り合戦をしまくっていただけに、これもごく普通の現象かもしれないな、と思ったり。

 そんな中、東京都立川市出身の私が幼少期より勝手に夢想しているのが「多摩県」独立です。東京といえば「23区」を指すことが多いですが、面積は「多摩地域」の方がデカいですし、人口は423万人もおり、もしも独立した場合は511万人の福岡県に次ぐ10位となり、静岡県(366万人)を上回るのです。

 いや、東京都から独立して何がよくなるのかはまったく分かりませんが、何やら変化が起きることを想像するのは楽しいです。

 まず考えたいのは県庁所在地です。名乗りを上げるであろう自治体は吉祥寺がある武蔵野、最大の人口(58万人)を有する八王子、2位(43万人)の町田、交通の要所として栄える立川、あとは古都の誇りがあるだろう府中と国分寺も手を挙げるかもしれません。

 これらの市による県庁誘致合戦が発生すれば、連日テレビの情報番組では舌戦の様子やら街を挙げたPRキャンペーンの様子が次々と紹介されることでしょう。国分寺は「我が町は“名水百選”に選ばれた『お鷹の道・真姿の池湧水群』があるゾ!」と主張し、八王子は地元出身の松任谷由実に応援ソングを作ってもらう。それに対し、国分寺は「我が市には忌野清志郎さんが歌った『多摩蘭坂』があるゾ!」と対抗する。すると、この主張に対し、文教地区として知られる国立市がいきなり「こら! 『多摩蘭坂』は国立のものだ!」と言い出し、八王子支持にまわる。いや、リベラルな雰囲気があるだけに「永世中立市」を名乗り独立するかもしれないな。

 そして、町田は県庁所在地誘致合戦の最中、「実はさ、神奈川県から吸収合併の話が来ているんだよね。ウチを県庁にしなかった場合その案飲んでもいいかな……なーんて思ってるんだよ」と揺さぶりをかけてくる。もし町田が神奈川県に加入すると、多摩地域を除く東京都を人口で上回るだけに、首都としての面子をかけて東京都は町田の離脱を阻止しようと、ついに「町田特別区」として東京都への編入を促してくる。

 さらには、多摩市が「やはり多摩県なのに県庁所在地に『多摩』を冠していないのは分かりづらい。我々が県庁所在地になるべき」なんて言い出し、ますます混乱する。

 こうしたドタバタ騒ぎを脇目に今度は狛江が「ウチの市は多摩地域なのに電話番号が『03』で始まるので、『東京都狛江区』になるわ。『多摩県』には入りません。さようなら。ブレグジットならぬコマグジットです」と言い出す。

 すったもんだの挙句無事多摩県がまとまった場合、今度は「東京には巨人があるので、ヤクルトを多摩に招致しよう!」との動きが出たり、「我々が持つ奥多摩湖の水を都民が安易に使うのは許せん! ヤツらの水道料金を値上げせよ!」と言い出す県議が登場する。

 すさまじいドタバタ劇ですね。これを考えると過去の「廃藩置県」ってけっこう大変な作業だったんだろうな、と感じます。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

「週刊新潮」2019年10月17日号 掲載

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