台風19号「ほぼ水没」と警告された江戸川区民の意外な避難先

台風19号「ほぼ水没」と警告された江戸川区民の意外な避難先

羽田空港を「避難所代わり」に(Hide1228/Wikimedia Commons)

 東京都を代表する「危険地帯」のひとつと言えば江戸川区だ。しかし、まさに“荒ぶる川”の荒川が流れる同区で台風19号の犠牲者が出ることはなかった。江戸川区の人々は、どう難を逃れたのか。

 今年5月発行の〈江戸川区水害ハザードマップ〉は当初から話題になっていた。というのも、「過激」な文言に溢れていて、

〈ここにいてはダメです〉

〈区のほとんどが水没〉

〈より安全な区外へ〉

 といった具合なのだ。要は、「水害が発生したら江戸川区に居場所はないから他所(よそ)へ逃げろ!」と、当の江戸川区が警告を発しているわけだ。確かに同区は実に陸の7割が「海抜ゼロメートル地帯」。とはいえ、「区のプライド」をかなぐり捨てたこの警告には、SNS上で、

〈自分が住んでいる区から出ていけと言われるとは思わなかった〉

 等々、困惑の声があがったのだった。


■「ロビー」に「P3」


 しかし、江戸川区の危機管理室防災危機管理課の説明によると、幸いなことに、

「この度の台風19号で、人命に関わる被害は把握しておりません」

 その理由を、中央大学理工学部都市環境学科の山田正教授は、

「荒川の上流は各観測所で記録を塗り替えるような猛烈な雨が降りましたが、調整地・調整池による水量の調節が上手くいったのか、東京地域で越水するほど水嵩(みずかさ)は上がらなかった。堤防の幅も高さも充分に確保されていて、それも功を奏したと言えるでしょう」

 こう解説するが、幸と不幸は隣り合わせ。今回大丈夫だったとしても、江戸川区が「危険地帯」であることには変わりがない。今後のイザという時を考えると、ハザードマップの「煽(あお)り文句」を決して大袈裟と捉えるべきではないだろう。実際、江戸川区民の間では防災意識が浸透しているらしく、今回も同区の人は「意外」な場所に避難していた。

「江戸川区に住んでいるので、河川氾濫が怖くて避難目的でここに来ました」

 19号が東京を直撃した今月12日、10代の娘ふたりを連れた50代の母親はこう語った。「ここ」とは、国内線全便が欠航し、もぬけの殻状態だった羽田空港(大田区)の国内線出発ロビー。江戸川区から南西に約20キロ離れた同空港にわざわざやって来た彼女曰く、

「家の近くの区民館に避難しようと思えばできたんですけど、自家用車が心配でね。空港には駐車場もあるし、身を守るには安全ですよね。ホテルは取っていませんが、今日は空港内で一晩を明かすつもりです」

 羽田空港を「避難所代わり」に利用しようとは何たる奇想と思いきや、やはり同日、同空港国内線ターミナルの駐車場「P3」に黒いワンボックスカーを駐車していた40代男性も、

「河川氾濫の恐れがあるため、落ち着くまでここにいます」

 と、一家4人とペットの猫で車中泊すると語った。

「身の安全ももちろんですが、車両保険に入っているといっても車が壊れたら手続きが面倒ですからね。ええ、私は江戸川区民です」

 どうやら、ハザードマップで啓蒙された同区民は、新たな避難所を「発見」したようだ。

 備えあれば憂いなし、江戸川区民に羽田あり?

「週刊新潮」2019年10月24日号 掲載

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