台風19号・多摩川氾濫で唯一の死者 娘さんが語る「ペット4匹も父と一緒に死んでしまいました…」

台風19号・多摩川氾濫で唯一の死者 娘さんが語る「ペット4匹も父と一緒に死んでしまいました…」

死者が出てしまったマンション

 なぜ私は生き残り、彼は死んでしまったのか――。戦争や災害の難を逃れた「生者」は、「死者」との紙一重の差を前にして深いトラウマに囚(とら)われる。生と死を分ける、髪の毛1本ほどの僅かな違い。台風19号による被害者にも、生死の境のドラマが存在していた。

「私は(台風が直撃した今月12日の)前の日から友だちの家に避難していたんですが、父は仕事に出掛けていたので一緒には行きませんでした。それで12日の20時頃、電話で『こっちは水きてないよ。お父さんのほうは大丈夫?』と訊(き)いたら、『大丈夫、大丈夫』と言っていたのですが……」

 被害者の娘さん(28)は、こう振り返った。彼女の父親がいたマンションの浸水が始まったのは、おそらくその電話を切った直後のことだった――。

 史上最大級の台風19号は、各地に甚大な被害をもたらした。それは、首都である東京周辺も例外ではなかった。

 神奈川県川崎市高津区溝口、多摩川の支流である平瀬川沿いの土手に面した4階建てマンション。そこに住んでいた60歳の男性は、川から溢れ出た水に飲みこまれ、自宅で心肺停止の状態で発見されて死亡が確認された。「氾濫多摩川」によって亡くなった唯一の被害者となった(13日現在)。


■4匹のペットを抱えて…


 多摩川が荒れ狂った地域は広範囲に及んだ。にも拘(かかわ)らず、一体なぜ彼だけが死神の手に搦(から)め捕られてしまったのだろうか。

「4階に住んでいる男性が(12日の)18時頃に、『そろそろ危ないから、上の階に上がってきなさい』と言いに来てくれたんです。上の階に“猫仲間”の人がいたので、その人の部屋に身を寄せました」

 こう証言するのは、当該マンションの2階に住んでいる20代の女性だ。

「そうしたら、20時くらいに川から水が溢れてきて、ものの30分で1階が浸水しました」

 その1階に住んでいたのが亡くなった男性だった。浸水したのは1階のみ。改めて「土手沿いの1階」の危険性を思い知らされるが、彼が命を落としたのはそれだけが理由ではないようだ。

 同じマンションに住む40代の男性住民が後を受ける。

「私は17時頃に車で実家に避難しました。犬を飼っていて避難所に連れていくわけにもいかなかったので」

 亡くなった男性も白毛で雑種の犬とプードル、そしてうさぎ2匹を飼っていた。

 先の女性が続ける。

「うちのマンションはペット持ちが多いので、みんな避難所には行きませんでした。避難所がペットを受け入れてくれるか分かりませんし、避難所には犬猫アレルギーを持っている人がいるかもしれませんからね」

 4匹ものペットを抱えて、近隣住民や避難所のお世話になるわけにはいかない――。そんな「遠慮」が男性の死の一因となってしまったと、マンションの住民たちは見るのだった。

 他の被災地でも、同様の理由で避難所行きを諦めた人は多かったのではないか。

 防災システム研究所の山村武彦所長はこう勧める。

「最近は、小中学校のように校庭などのスペースがある避難所では、動物愛護団体やペットセンターの協力のもとでペットを受け入れてくれるところもあります。したがって、遠慮せずにまずはペットを連れて逃げるのが賢明でしょう」

 冒頭に登場した被害者の娘さんが再び言う。

「ペット4匹も父と一緒に死んでしまいました……」

 愛犬家が、犬の存在ゆえに命を落とす。何とも皮肉な「川崎マンション」の悲劇である。

「週刊新潮」2019年10月24日号 掲載

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