いま一番ヤバいDV男の特徴は「外面だけは好印象」――強烈なモラハラと「暴力的行動」で、女性に恐怖を植え付け支配する

いま一番ヤバいDV男の特徴は「外面だけは好印象」――強烈なモラハラと「暴力的行動」で、女性に恐怖を植え付け支配する

相手の男が中央省庁の官僚ではなく、ヤクザや貧困家庭出だったら、離婚訴訟は成り立ったかもしれない(写真はイメージです)

 近年、DV(ドメスティック・バイオレンス)に端を発した痛ましい事件が後を絶たない。目黒女児虐待死事件で、被害者の船戸結愛ちゃんの母・優里被告は、夫の雄大被告にDVを受け「洗脳」状態になり、虐待に加担したという。DV夫はなぜ暴力をふるうのか? 被害を受けた妻はどうすれば現状打破できるのか? DVや貧困などの困難を抱えた女性の自立支援をするNPO法人「くにたち夢ファーム Jikka」代表の遠藤良子さんに話を聞いた。

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■加害者への罰則がまったくない「ザル法」


――現在のDV防止法で、遠藤さんが問題だと思う部分はどこでしょうか?

遠藤:DV防止法に、加害者を罰する規定がないこと。「とにかく被害者を逃がすこと」のみに集中しており、非常に不備な法律です。

――え? DV防止法には、加害者への罰則がないんですか?

遠藤:DV防止法による被害者救済の法的根拠は、戦後に作られた婦人保護事業、つまり売春防止法による「保護する必要のある女子を対象にすること」を基本にしたものです。その目的は、「売春」という違法行為を不本意に強要されている女性を「保護し矯正する」こと。そもそもなんで「売春する」ハメになったのか、そこにある女性蔑視や女性差別的な要因を鑑みもせず、女性を「保護・矯正」する――そういう思考回路、社会構造の中で作られた法律に、“接ぎ木”するように作られたものです。暴力=犯罪なので、そうした犯罪被害を受けた女性を救済保護するという目的だけで、男性支配から脱出したいという意味でのDV被害者のために作られた法律ではないんです。

 かつては「夫婦喧嘩」は「民事」不介入として放置されていました。それが殺人やあまりにひどい傷害に発展する事件が起き、「夫婦だから許されるという話か」という多くの女性たちの運動によってDV防止法が作られました。もちろんできた当初から何度も改正してはいますが、本質としては「男性中心の社会構造」を反映したもの。「(一般的に被害者の多数派である)女は食わせてもらっているんだから、暴力はよくないけど我慢は必要なんじゃない?」という本音が透けて見えます。

――とすると、加害者を罰する法律は?

遠藤:刑事訴訟法です。ただ、ひどい暴行で大ケガを負ったり、殺人未遂的なところまでいかないかぎりは、逮捕に及ばないこともあります。私が見てきた中では、妻は鼻を折られ歯も折られ、手術が必要なほどひどい暴行を受けたのに、それをやった夫が、逮捕はされたものの、拘置所に1泊しただけ、そのまま何のお咎めナシという一件がありました。

――ええっ?

遠藤:妻は、検察庁で「その程度の傷害は山ほどある」と言われたそうです。刑事訴訟法に照らしたら、大した罪じゃないね、と。

――ええええっ!

遠藤:男性の検察官は、暴力に対して過小評価するところがあるんです。確かに刃物を使った殺人未遂などの案件がたくさんある中で相対化すれば、「女房の鼻をへし折ったくらいどうってことない」と思うのかもしれませんが、そんな扱われ方はあまりにひどい。妻は子ども2人抱えて、手術して何週間が入院して、それでも告訴ができなかったんです。

――その方は、ご離婚は?

遠藤:しました。夫は中央省庁のエリート官僚でしたが、仕事のストレスからか、暴力が始まるとすさまじかった。彼女も最初は「仕方ない」と我慢していたんだけれど、耐えきれずに相談に来て、シェルターに入りました。自分でアパートを借りて落ち着いてきた頃に、泣き寝入りはイヤだから、訴えたいと。彼女は離婚で何もかも失い、母子家庭で最底辺の生活を強いられているのに、夫は社会的制裁も受けず反省もせずに、それまで通りに暮らしている。それでも警察は、一応被害届を受理して書類送検してくれたけれど、検察庁に棄却されました。

――なぜでしょう。まさか高級官僚だからでしょうか?

遠藤:それはわかりません。でも相手の男がヤクザとか貧困家庭出身とかだったら、訴訟が成り立ったかもしれません、逆に言うとね。


■妻を支配し、うっぷん晴らしの道具として使う


――遠藤さんが感じる最近のDVの形、傾向などはどんなものがありますか?

遠藤:最近は発達障害とか、アスペルガー症候群のDV夫が増えてきましたね。コミュニケーションが苦手で話がかみ合わないから、いらだって暴力が始まったり、一晩中怒鳴りまくったり、でもそういう人たちは、一通りやるとおとなしくなったりする。陰湿じゃない。

 最近一番多いのは、モラルハラスメントの相談ですね。妻を自分の憂さ晴らしのはけ口にして、奴隷のようにコントロールするというもの。そういう人たちは身体的な暴力はマズイからと、陰湿に妻をイジメるんです。例えば、妻に正座させて3時間、5時間、延々説教するとか、多いんですよね。ちゃんと聞く姿勢として、正座じゃないと許さないんです。例えば、夫が会社に行く時忘れ物をすると、それを「お前のせいだ!」と怒鳴る。いつも用意してあげているんですか?と聞くと、妻は「そうではないけれど、嫌だったんだと思います」と。

――それが当たり前として、受け入れるようになってしまっていると。

遠藤:そうやって仕方ないと受け入れ反抗しなくなり、たどり着く極地が「野田小4女児の虐待事件」のような事件です。あれは夫から妻への身体的な暴力もありましたが、強烈なモラハラも受けていて、「もう言うことを聞くしかない」となったパターンでしょう。妻は最初は子どもを庇っているんだけど、庇えばもっと子どもが虐待されるし終わらないから、我慢して傍観するようになっていく。そのうち「お前もやれ」と言われて、手伝うようになる。DV被害者が児童虐待の加害者に転じていく、そこまで支配されつくします。

――それが毎日続いて、常態化してしまう。

遠藤:そうです。それが普通になってしまう。すごく激しい暴力を受けている人ほど、暴力を過小評価します。少しくらいなら怖いと思わない、「夫の癖ですから」と暴力とすら思わない。夫が刃物を出してきて殺されそうになったことが一度でもあれば違いますが、暴力を振るわれてはいるけど、生き延びてはいるから。だから狡猾な加害者は、刃物は決して使いません。壁際にぐーっと妻を追い詰めて、顔の脇の壁をガンガン殴る。あとは寸止めね。それだけで死ぬほど怖いから、殴らなくても十分「従うしかない」と思わせられる。

 暴力、経済的な圧迫、セックスの強要……目的は相手をねじ伏せ支配することだから、手段はなんでもいい。支配してしまえば「完全に俺のもの」だから、好きなようにできる。奴隷のように労働させ、風俗店のように性的な奉仕をさせ、気に入らないことがあれば鬱憤晴らしの道具にする。DV夫は、そういう存在が欲しいんです。


■「脱出したい」以上に「脱出できない」


――DV被害者がそうした状況から逃れるために、一番必要なことはなんでしょうか。

遠藤:私もDV被害者だったんです。法律も何もない時代で、自力で脱出しました。被害者をDVから救うために一番必要なのは、結局のところ、本人が「ここから離れたい、離れてもいいんだ」と思うことなんです。「どうなるかわからないけど、今よりはマシなはず」と思えるかどうか。その時にちょっと誰かが助けてくれれば、逃げることは可能です。

 ここを始めていろんな相談者が来ますが、逃げる人と逃げない人の違いは、それまでの人生で誰かに助けてもらったことがあるかどうかでしょうね。虐待を受けて養護施設にお世話になったとか、要するに誰かに助けてもらわないと生きていけないと思ってる人は、助けを求める。でも、それがなかなかできない。

――それはどうしてなんでしょうか?

遠藤:とりあえず食べるものがある、家がある、少し我慢しさえすれば――という生かさず殺さずの中で生きているからでしょうね。そういう中で精神がやられていって、どんどん動けなくなる。意欲が衰えて無気力になっていく。でも辛い気持ちはあるから、電話やメールで相談してくるんですよ。でもこちらが何を話しても、思考は「できるはずない」「我慢すればいい」「無理に決まってる」の堂々巡り。自分で自分を縛ってしまい、できるのはそこに留まることだけ。夫は私を殴るけど、殺すわけじゃない。お金も1日千円しかくれないけど、千円はくれる。その人が身動きが取れなければ、支配はそれで十分貫徹するんです。

――そういう相談者に、「逃げよう」と思う瞬間が来るのでしょうか?

遠藤:私なんかは話していると、最終的にはケンカになることも(笑)。優しくしてても出てきません。最初はとにかく相手の話を聞きますよね。そうだよね、大変だよね、どうしたらいいかね、一緒に考えるよ、って。そういうやりとりをしながら、具体的に「お金はありますか? じゃあここまで来る交通費はありますね。出てくるときはこうしなきゃダメですよ」と話していく。

 でも来ると言っても、結局は「行こうと思ったけどやっぱり具合が悪くていけません」と連絡が来る。これを何回か繰り返します。「あなたの人生だから、あなたの自由。でも今の状況を変えたいなら、あなたが“助けて”と私が届くところまで手を伸ばしてくれなければ、何もしてあげられない。無理に連れ出してもあなたは戻ってしまうし、そんなことをしたら余計に危険になるから」と。

 DVの夫婦関係が、普通の離婚と同じように解消できると思ったら大間違いです。避難なんて穏便なものじゃない、大げさでなく決死の脱出なんです。中途半端な覚悟でなく、腹をくくって覚悟してもらわないと。被害者も怖いけど、こちらも相当な危険を冒すんですから。


■脱出をするために必要な、具体的な準備とは?


――脱出の手順を、かいつまんで教えてください。

遠藤:基本的には本人が「逃げたい」と動き出せば、警察やシェルターなどと繋がっているので、そのレールに乗ってもらいます。被害者も様々で、最も危険で緊急性が高いのは、「昨日殴られて、今すぐ出たい」という人。「時々殴られているけど、どうしようかな」みたいな人もいます。一番逃げるのが難しいのは、監視され閉じ込められている自宅軟禁状態の人です。そういう人が本気で逃げるという場合、綿密に計画をたてます。

 まず最初は、なるべく殴られないために、夫とあまり関わらない。女性はそういう風に教育されているせいか、「今日のご飯は?」とか「何時に帰る?」とか、自分から交流を持たずにいられないんです。でもそれが「いちいち聞くんじゃねえよ!」と暴力の呼び水になることがあるから、相手が何か言ってこないかぎりは自分からあえて関わらない。まずは家庭内別居を徹底する。

 次に家を出るための現金を用意する。少しずつ貯める、誰かに借りる、働ける状況なら働いて、夫と関係ないお金を何とか作る。アパートを借りられるくらいあれば理想的ですが、緊急ならば家を出てここまで来られるだけの交通費だけでもいい。子どもがいたら子どもの分も必要です。手元に何か現金化できるもの、預金などがあれば、夫に知られないように現金化する。突然何かが起きた時に、1万円あればタクシーである程度の距離を逃げられるから、1万円は常に身に着けておく。

 それから、公的な機関に行って「DV被害を受けている」ことを認知、記録してもらう。まずは警察に相談に行き、「私が家を出る時には連絡します。夫が捜索願を出しても探さないで下さい」という話を通しておく。携帯電話の番号を登録しておけば、突然暴力が始まった時に110番をするだけで、何も言わなくてもパトカーが来てくれるので、逃げる前でも役に立ちます。

 さらに地元の女性相談窓口にも相談しておく。これは自治体によっていろいろなので、「できることはありません」と言われてしまうこともあるけれど、それでもとにかく記録はとってもらう。

 あと子どもがいる人は、学校や保育園。園長・校長と担任の先生に、急に家を出ることになるかもしれないと伝えておく。要するに、家を出る前に、自分の支援のネットワークを自分で作っていく。

 支配されている被害者は、「黙って逃げるのは卑怯ではないか、夫への敬意に欠けるのではないか」と必ず考えます。「俺の言うこと聞け、お前の考えは間違ってる」と言われ続けているから。でもこういう過程で「大変だったね、そうだったんだね」と周囲の共感と励ましを得ることで、エンパワーメントされていく。「自分は間違っていない、逃げていいんだ」と自信がついてくるんです。

〈後編【超・実践的DV脱出マニュアル】へつづく〉

遠藤良子氏
NPO法人くにたち夢ファーム理事・女性の居場所Jikka代表。2000年より、東京都国立市の市民運動支援の拠点として「スペースF」を運営。その経験を活かして開始した自治体の女性相談員としての活動で、DVや貧困などの困難を抱えた女性の自立支援の必要性を痛感。2016年に同NPOを立ち上げる。小さな民家を改装して作られた「Jikka」は、「女性がいつでも安心して帰れる場所」という思いを込めて作られたオープンスペース。DV被害女性たちの脱出や、新しい住居を賃借する手助けをすると同時に、地域に定着する過程での孤独を癒す場所としての機能を持つ。http://kuf-jikka.sakura.ne.jp/wp/

取材・文/渥美志保

2019年10月24日 掲載

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