五輪マラソン札幌案の裏にカジノ誘致 小池知事が知らない菅官房長官の思惑

五輪マラソン札幌案の裏にカジノ誘致 小池知事が知らない菅官房長官の思惑

小池百合子都知事

 今さらなぜ――。東京五輪のマラソンと競歩の会場を札幌に移す計画がある、と発表した国際オリンピック委員会。その報に触れて驚かれた方は多かっただろうが、新聞・テレビでは「背景」が全く見えない。実はそこには、「カジノ誘致」が関係していたのである。

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 札幌への会場変更が急浮上した直接のきっかけは、9月27日から10月6日までカタールのドーハで行われた陸上の世界選手権である。暑さ対策で深夜に競技を行ったものの、例えば、女子マラソンでは出場した68選手中、28人が棄権するなど、前代未聞の事態となった。ちなみに、この過酷な環境の中、優勝を果たしたのが男子50キロ競歩の鈴木雄介選手である。

「東京オリンピックでもドーハのようにバタバタと選手が倒れ、熱中症患者まで出る事態となればオリンピックブランドはこれ以上ないダメージを受けることになる。それを避けたいという狙いがあり、“札幌案”が浮上したのでしょう」

 そう話すのは、スポーツジャーナリストの二宮清純氏である。

「選手や沿道で応援する人のことを考えれば、私は札幌開催でやむなしと思います。ただ、日本が主導権をもって決断したのではなく、IOCの外圧に屈する形になりそうなことが残念でなりません」

 スポーツライターの小林信也氏も同意見で、

「今回の件は小池さんに少し気の毒ではありますが、マラソン・競歩の札幌開催には大いに賛成です。死者が出る前にこういう話が出てきて良かったです」


■村八分の理由


 大会組織委の武藤敏郎事務総長が小池知事に「札幌案」を伝えたのは、IOCの発表前日の10月15日。

「組織委の森喜朗会長や武藤氏がIOCのバッハ会長かコーツ調整委員長から『札幌案』を聞かされたのは、10月8日前後だったと見られています」

 と、スポーツ紙記者。

「8日に予定されていた観戦チケットの第2次抽選販売の申し込み開始が急に延期になったのは、今考えれば、札幌案が浮上した影響だったのでしょう。9日には、森会長は安倍総理と萩生田光一・文部科学相に会っている。さらにそれ以後には、森会長と橋本聖子・五輪担当相、秋元克広・札幌市長の3者会談があったとも言われています」

 ただし、IOCに言われる以前から組織委側も「腹案」として札幌への移転を模索していたといい、

「小池知事に伝えられる前に少なくとも3人の都議会議員が札幌案について把握していました」

 とは、都政関係者。

「自民党の高島直樹、川松真一朗、山崎一輝の3都議です。彼らはいわゆる森一派で、9月22日には札幌ドームで行われたラグビーの試合を森さんと一緒に観戦しています。その際、すでに札幌での開催が模索されていたといいます」

 組織委の森会長と小池知事が犬猿の仲であることはよく知られているが、

「今回の件で小池知事が村八分にされたことには、いくつかの理由があります。まず、森会長サイドとしては、“小池知事にはIOCや組織委とのパイプも信頼関係もない”という印象を世の中に植え付けたかったのでしょう。あと、事前に小池知事に伝えてしまうと世論を煽ったりして札幌案に抵抗することが考えられたため“通告”という形をとったと思われます」(同)


■“カジノ利権の中心”


 おそらく小池知事は次のことも把握していないはずだ。今回の件に、カジノを中心とする統合型リゾート施設(IR)の候補地選定が関係している、という見方が出ていることを――。

「今回の件の最大のポイントは、東京五輪マラソンの札幌開催をテコにした、“北海道へのカジノ誘致の加速”なのです」

 と、政府関係者が明かす。

「そこには菅義偉官房長官だけではなく、彼と結びつきの深い鈴木直道・北海道知事、地元出身の橋本五輪相、それぞれの思惑が横たわっています。橋本五輪相は元々、北海道へのカジノ誘致に熱心でした」

 カジノの開設は都道府県・政令指定都市が申請し、国土交通相が国内に最大で3カ所を認める予定だ。

「誘致レースの本命は大阪。菅さんの地元の横浜も、“ドン”の藤木幸夫・港運協会会長が反対しているという事情はあるにせよ、相変わらず有力です。残る3枠目の候補地としては長崎や和歌山があげられますが、北海道の鈴木知事は苫小牧市を優先候補地としつつ、誘致判断を留保しています」

 そう語るこの政府関係者によると、「マラソン札幌案」は以前から官邸内部で模索されてきたという。そんなところに先に触れた陸上版「ドーハの悲劇」が起こり、IOCの焦りもあって札幌移転がにわかに現実味を帯びることになったわけだが、

「菅さんとしては北海道をカジノの有力候補地に一気に押し上げたい。そこで、IOCが組織委に札幌案を伝えてきたタイミングで、カジノ誘致に踏ん切りをつけられていない鈴木知事に“決断”を迫ったという情報もある。つまり、“マラソンをやらせてやるから、北海道にカジノを誘致せよ”というわけです」(同)

 IOCは「アスリートファースト」を理由に日本に決断を迫っているが、その裏では、ドロドロの“政治”が繰り広げられていたのである。

「地元の横浜だけではなく、苫小牧でもカジノの開設が認められれば、3枠のうち2枠が“菅案件”となる。それは、菅さんが引き続き“カジノ利権の中心”として主導的な地位を保ち、それを誇示することに繋がります」(同)

 今月30日から行われるIOC調整委員会での議論を経た上で「札幌移転」は正式決定する。折しもその直前の28日には、苫小牧市議会において、カジノ関連の補正予算が可決された。

 IOCのバッハ会長、組織委の森会長、そして菅官房長官。それぞれの思惑が作りだした大きなうねりに、小池知事はどこまで抗うことが出来るだろうか。

「週刊新潮」2019年10月31日号 掲載

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