認知症高齢者の“異常性欲”とどう向き合うべきか 専門医が教える傾向と対策

認知症高齢者の“異常性欲”とどう向き合うべきか 専門医が教える傾向と対策

介護職員が直面している、その実態とは……(※写真はイメージ)

 高齢化が進む日本社会。認知症患者も増加する一方だが、この数年、認知症患者の“異常性欲”が問題になっているという。介護職員が直面している、その実態とは……。

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 人間誰しも元気なのが望ましい。が、度が過ぎるのは問題だ。それは高齢者とて、同じことである。毎月千人以上の認知症患者を診療する認知症専門医の長谷川嘉哉氏は、高齢者の性欲について次のように語る。

「まず、前提として知っておかなければならないことは、男女問わず高齢者にも性欲があるということ。一部の人はそれが強く出てしまうケースもあり、1日に3回、パートナーなどに性交渉を求める80歳前後の男性高齢者もいます」

 同様に、女性高齢者でも異常性欲は見られるという。

「これは私の患者さんのケースですが、訪問診療時に聴診器を胸に当てて診察していると、私の股間を触ろうとするんです。もちろん私は避けるのですが、『触らしてよ、触りたいんだから!』とはっきり言われました」

 高齢者には性欲がないものと思いがちだが、その認識自体が誤りだという。


■計画性のある悪質なセクハラもある


 こうしたセクハラ行為に及んでしまうかどうかは、認知症の進行具合と関係があるそうだ。

「一概には言えませんが、認知症や脳腫瘍で前頭葉、側頭葉に重度の障害が生じるとタガが外れたような状態になり、それまで普通だった人も、周囲に見境なくセクハラ行為を働くようになることもあります。そういう人の中には、計画性がなく突発的で、悪気なくしてしまうというケースも。これは個人的な意見ですが、教師や公務員など堅い職業に就いていた人に多いように感じます」

 軽度な認知症の高齢者の場合にもこんな問題がある。

「認知症が軽度な人は、わりと計画性がありますね。トイレ介助のため、職員と密室で2人きりになった瞬間を狙い澄まして、セクハラ行為に及んだり……。文句を言わないような大人しい介護職員を狙うこともあるようです。こうした悪質な人は、厳しく対処しなければなりませんが、悪気がない人も、抱きついたり、タッチしたりとやることは同じなので、対処が難しい面があります」

 程度の差はあれ、認知症患者の悪気の有無を断定することなど不可能に近い。そして、こうしたトラブルが続けば、当然、介護現場の離職率にも影響してくる。

「高齢者は体力も運動能力も低下しますから、男性患者さんに女性職員が押し倒され、性被害にあった……というケースは私が知る限りありません。しかし、介護職を志す若い女性が介護現場を見学しに来た際、セクハラ行為を働いている患者さんがいることを知ってその道を諦めてしまったということもありました」

 介護現場で働く人は、男性よりも女性のほうが多く、特に訪問介護では8割以上が女性だと言われている。介護業界で常に人手不足が叫ばれている原因は、給与や労働時間だけではなく、患者によるセクハラの問題もあるのだ。


■薬に頼る前に若いうちから自制心を養う


 認知症患者だからといって、セクハラ行為が許されるわけではなく、何らかの対処が必要だ。とはいえ、介護現場の職員は具体的にどうすればいいのだろうか。

「まず、介護職員ができることは、そういう患者さんからのセクハラ被害に遭ったら、『やめてください!』と毅然として断ることです。そして、それを抱え込まずに上司に報告することも大切。介護職員みんなでその情報を共有し、問題のある患者さんと若い女性の職員ができるだけ2人きりにならないよう配慮したり、ベテランの職員が『○○さん、その子に触るんだったら、こっちも相手して』などと言ってうまくカバーするなど、その場その場で臨機応変に対処する必要があります」

 また、異常性欲をある程度抑えることができる特効薬もある。「メマリー」という薬だ。

「もともとメマリーは、認知症の進行を予防する薬で、幻覚や妄想を抑制する働きがあるのですが、性衝動にブレーキをかける効果もあります。その効果はてきめんで、気持ちがとても穏やかになり、認知症を患うパートナーの異常性欲に悩んできた配偶者も驚くほどです。ただし、認知症になったから異常性欲の症状が出たのではなく、若い頃からセクハラ癖があったという患者さんは、薬を処方してもなかなか治りませんね。最も効果的な解決策は、若いうちからセクハラ行為はやらないように、肝に銘じる事です」

 さもなくば……。

「周囲の迷惑になるばかりではなく、患者さん本人の人間としての尊厳が失われるでしょう。せっかく長年まじめに生きてきたのに、人生の最後になって異常性欲が出てしまえば、それまで築いてきた社会的信用や実績も地に落ちてしまうかもしれません」

 誰しも「あの人は、最後は色ボケで大変だった」などとは言われたくないものだ。

取材・文/星野陽平

2019年10月30日 掲載

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