札幌移転の「マラソン・競歩」はカジノの犠牲にされた 動く巨大利権

札幌移転の「マラソン・競歩」はカジノの犠牲にされた 動く巨大利権

小池百合子都知事

 東京五輪のマラソンと競歩の「札幌開催案」と、北海道・苫小牧市の「カジノ誘致」。一見、何の関係もなさそうな両者が裏で繋がっていた――。

 あるいはこう言ってもいいかもしれない。「マラソン札幌案」は北海道のカジノ誘致を前に進めるために“使われた”と。その背景については後に詳述するが、現在、北海道の鈴木直道知事は世論などを気にしてカジノ誘致に踏ん切りをつけられずにいる。そこに飛びこんできた「マラソン札幌案」。彼の後見人的存在である菅義偉官房長官は、「マラソンをやらせてやるから北海道にカジノを誘致せよ」と鈴木知事に決断を迫った。週刊新潮10月31日号でご紹介したのはそんな情報である。

 それを踏まえた上で「マラソン札幌案」と「北海道カジノ」の動きを見ていくと、それぞれ、ここ1カ月ほどで急に慌ただしくなっていることが分かる。

 すでに報じられている通り、札幌への会場変更が急浮上した直接のきっかけは9月27日から10月6日まで中東カタールのドーハで行われた陸上の世界選手権である。暑さ対策で深夜に競技を行ったものの、女子マラソンでは出場した68選手中、28人が棄権。東京五輪でも同様の事態となることを危惧した国際オリンピック委員会(IOC)が、札幌への会場変更を検討し始めたのだ。

 大会組織委員会の森喜朗会長や武藤敏郎事務総長は、10月8日頃までにIOCのバッハ会長かコーツ調整委員長から「札幌案」を聞かされたと見られている。森会長と武藤事務総長以外に早い段階で「札幌案」の情報を把握していたとされるのは、主に以下のメンバーだ。安倍晋三総理、菅官房長官、萩生田光一・文部科学相、北海道を地盤とする橋本聖子・五輪担当相、北海道の鈴木知事、秋元克広・札幌市長。IOCが札幌への移転計画を発表したのは10月16日だったが、組織委の武藤事務総長が東京都の小池百合子知事に「札幌案」について伝えたのはその前日の15日。あからさまな「小池外し」だった。

 酷暑のドーハで世界選手権が行われていた最中の10月2日、「北海道カジノ」でも動きがあった。道議会に出席した鈴木知事が、

「(カジノの)誘致に挑戦するのか、挑戦しないのか。年内に判断する」

 と、誘致の判断時期について初めて明言したのだ。

「今年4月に行われた北海道知事選での、カジノを中心とする統合型リゾート施設(IR)に関する鈴木さんの公約は“道民目線を大切に”“早期に判断する”だったのですが……」

 と、北海道政関係者。

「知事に就任後は“適時適切に判断する”と繰り返すばかりで判断を先送りしてきたのです。地元紙の調査では道民の6〜7割がカジノ誘致に反対している。判断を先送りにしてきたのは、その“数字”を怖れてのこと。10月2日に判断時期を明言したのは、大きな変化といえます」


■経済界も鈴木知事へ圧


 ちなみに政府は来年1月7日にカジノ運営を監視する「カジノ管理委員会」を設置し、2020年度内にも最大3カ所のカジノ開設地を決める予定。現在までに横浜市、大阪府・市、和歌山県、長崎県などが誘致に名乗りを上げており、最終的には「首都圏1、関西1、地方1」の3カ所になると見られている。すなわち、鈴木知事が誘致を表明した場合、和歌山や長崎がライバルとなるわけだ。なお、道内の優先候補地は苫小牧市である。

「10月21日には、経済界でも動きがありました」

 と、先の道政関係者。

「北海道経済連合会などの道内経済4団体のトップが札幌で記者会見を行い、『北海道でのIR(統合型リゾート)の実現に関する緊急共同宣言』を発表。鈴木知事に対し、早期に誘致に向けて判断するよう求めたのです」

 鈴木知事に対する圧力が刻々と高まっていたこの時期、小池知事は極めて厳しい戦いを強いられていた。

「マラソン札幌案」の浮上後も、

「東京で(開催したい)という気持ちは変わらない」

 と会見などで主張し、テレビのニュース番組にも急遽生出演。しかし、25日に小池知事と会談したIOCのコーツ調整委員長は、

「東京に戻ることはない」

「決定事項」

 と断言。結果、10月30日から11月1日まで東京で行われたIOC調整委員会で正式決定されたのはご存じのとおりだ。


■すでに資本投下


 様々な波紋を呼んだ「マラソン札幌案」。一方、「北海道カジノ」は鈴木知事の「誘致表明」へ向け、一気に動き始めている。IOC調整委員会が始まる2日前の10月28日には、苫小牧市議会が臨時招集され、

「そこで道にIR誘致を求める決議案が審議され、可決された。いよいよ鈴木知事はIR誘致に舵を切るでしょう」(苫小牧市議)

 実はすでに苫小牧には、海外のIR事業者4社が日本法人の事務所を開設。中でも動きが目立つのは、世界で「ハードロックカフェ」を展開するアメリカの娯楽企業「ハードロック・インターナショナル」社だ。

「昨年10月、ハードロック社の日本支社の社長に就いたのは、トランプ大統領とも近いと言われる日系アメリカ人のアド・マチダ氏。彼は札幌で行われたIRの展示会に出席したり、苫小牧での企業の会合に顔を出したり、積極的に動き回っています」

 と、苫小牧市政関係者。

「ハードロック社は苫小牧IRに約5500億円を投じることを表明していますが、資本の投下はもう始まっている。例えば、ハードロック社は昨年、サッカーの『北海道コンサドーレ札幌』とオフィシャルトップパートナー契約を締結しています」

 動いているのは海外の会社だけではない。

「『森トラスト』社の森章会長が出資する『MAプラットフォーム』はIR候補予定地の隣に広大な土地を所有しています。元々そこに約600億円を投資して開発する予定でしたが、10月8日、投資額を最大2500億円まで拡大し、ホテルやコンドミニアムを整備する方針を明らかにしました」(同)

 まさしく巨大利権。東京五輪のマラソン・競歩はその犠牲にされたのだ。

「週刊新潮」2019年11月7日号 掲載

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