沖縄で深刻化する深夜の「路上寝」問題 酩酊するまで飲んでしまう文化も一因か

■ドライバーは大迷惑


 11月4日、情報番組「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系列・月〜金曜・8:00)は、沖縄県における「路上寝」の問題を取り上げた。それが今も全国で反響を呼んでいる。

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 午前8時15分から放送されたコーナータイトルは「沖縄で社会問題化 道端で爆睡 危険な『路上寝』 死亡事故も」だった。

 路上寝とは要するに、泥酔して公道で寝てしまうことを指す。全国的にも決して珍しいことではないにもかかわらず、沖縄県だけで社会問題と化しているのは理由がある。

 後で詳述するが、まず路上寝が多すぎる。番組で紹介したデータの1つは「1年間、沖縄県内で路上寝の通報件数は7080件」だ。単純計算をすると1日平均で19・4件。もちろん週末や夏になると、さらに増える。

 路上寝の対応あたるのが沖縄県警。番組では午前3時、歩道で眠りこける泥酔者を、3人の警察官が懸命に声を掛け、何とかして目を覚まさせようとする場面も放送された。

「馬鹿な酔っぱらいの自業自得。放っておけばいい」と断じられない理由は、事件や事故の原因になるためだ。歩道で寝れば、窃盗犯や性犯罪者に狙われる。東京の歌舞伎町でも見られる光景だが、沖縄では路上寝に及ぶ女性も決して珍しくない。

 さらに車道で寝る泥酔者も少なくないため、交通事故の被害に遭う。番組では今年、沖縄県内で路上寝を原因とする2件の死亡事故が発生したことを伝えた。

「交通事故の被害に遭う」と書いたが、道交法を脇に置けば、真の被害者は運転側だ。深夜ともなると、車道で寝る人間を見つけるのは難しいという。そもそも、路上寝を想定してハンドルを握れというのは無理な話だ。

 Twitterでは放送中からツイートが増加。「モーニングショー×沖縄」がホットワードとして紹介された。一部をご紹介しよう。

《沖縄って路上寝が深刻なんだ…池袋とかでも稀に見かけるけど、沖縄は日常茶飯事なんだね》

《警察も「ほっときゃぁいいさー」だと思ったらかなり社会問題なんやね》

《沖縄は罰則ありの条例とかしたらいいのにね》

《沖縄に限らず、自分で好きなだけ酒飲んで泥酔して路上で寝てる人が事故に遭っても、車両側を罪に問わない法律ができてほしい》

■かつては埼玉がワースト


 ただし、VTRの雰囲気は、決して重いものではなかった。沖縄の酔っぱらいに呆れているトーンが強く、ある意味で“警察24時”を彷彿する内容だった。そのためスタジオに戻ると、コメンテーターの玉川徹氏(56)が、いきなり爆笑。他の出演者から「笑いごとじゃない」とたしなめられる場面もあったほどだ。

 むろん地元行政の啓発活動やメディアの報道を見ると、玉川氏のリアクションは不適切だったことは言うまでもない。まずは沖縄県警が作成した広報用資料をご覧いただこう。

 ちなみに警察は路上寝を「路上横臥」という専門用語で分類している。通報件数と交通事故の内訳、そして死亡事故と人身事故に占める割合を表にまとめてみた。

 表にもあるように、路上寝をしていた者の全員が酒を飲んでいたとは限らない。だが、それにしても死亡事故に占める割合が7%とか8%とか、10%近くになっているというのは衝撃的と言っていいだろう。

 以上のデータを踏まえながら、地元紙の琉球新報が6月14日に報じた「路上寝死 5年で12人/県内 事故割合、全国の5倍」の冒頭部分をご紹介しよう。(註:全角数字を半角数字にするなど、デイリー新潮の表記法に合わせた。以下同)

《飲酒や急病が理由で道路や地面に横たわった状態(路上横臥)で車にひかれる路上寝の交通事故が2014年から18年の5年間で88件発生し、そのうち死亡事故が12件起きていることが県警の統計で分かった。全ての交通人身事故に占める路上寝事故の割合は全国水準の5倍近く。路上寝の大半がお酒の飲み過ぎによるもの。例年、屋外での活動が増える6月から路上寝の通報が増加する傾向があることから、県警は酒の飲み過ぎや夜間の車の運転に注意を呼び掛けている》

 同紙は翌日の朝刊に「路上寝全国の5倍/過度の飲酒控えることだ」との社説を掲載した。《生命を危険にさらす行為は一掃しなければならない》、《節度ある飲酒を心掛けたい》という記述が目立つ、いかにも社説という書きっぷりではあったのだが、少なからぬ沖縄県民が路上寝に危機意識を持っていることは伝わってくる。

「路上寝という行為や、それに伴う被害は多分、昔から全国で脈々と続いてきたのだと思います。しかし昭和30年代や50年代には交通事故の死亡者が1万人を超え、『交通戦争』と呼ばれました。そんな時代に、酔っ払って車道で寝て事故に遭った被害者となると、なかなか報道する余裕がなかったのだと考えられます」(社会担当記者)

 データベースを調べてみると、90年代は熊本県、静岡県、長野県、愛知県、宮崎県、そして東京都で路上寝の交通事故が増加した――と警鐘を鳴らす新聞記事が報じられている。

 このうち唯一、毛色が違うのは東京のケース。読売新聞は96年8月22日、「ホームレスの交通事故死が都内で急増 『駅』から『路上』に引っ越して犠牲に」との記事を朝刊に掲載した。

 この時期までに、路上で寝込んでいた交通事故死亡者は11人。そのうち5人がホームレスで、巣鴨や西新宿の車道で酔って寝ていたところをひき逃げされるなどの被害に遭ったという。記事ではホームレスの“浄化作戦”により、主要ターミナル駅から追いだされたことが背景にあると指摘している。

 そして2010年になると、路上寝の交通事故が埼玉県内で多発する。読売新聞の埼玉県版は12月11日、「泥酔者の路上寝込み 交通事故死が多発 3年連続全国一の恐れ」と報じた。

 13年、週刊誌「AERA」は「『路上で寝る』は犯罪か? 初摘発で広がる『取り締まり強化』の空気」の記事を掲載した。文中に「路上寝込み等の『死亡事故』が多い」都道府県が紹介されている。

 これによると、ベスト5は【1】千葉、【2】埼玉、【3】東京、【4】愛知、【5】兵庫、と都市圏ばかりだ。ベスト10に広げても、【6】大阪・長野、【8】神奈川・群馬・新潟となり、沖縄の名前はどこにも出てこない。

 しかし記事では註釈のように「沖縄県・宮古管内での路上寝込みは昨年730件もあった。多い日は7、8件の通報があるという」と書かれている。どうやら、この頃から沖縄県で路上寝の件数が多いというのは、警察関係者などに注目されていたようだ。


■突出していく沖縄


 その後、全国で交通事故の件数は減少していく。沖縄も全く同じ傾向を示しているのだが、大げさに言えば路上寝だけは増えていったのだ。

 地元紙の沖縄タイムスは14年5月6日、「酔って路上寝 増加/県内 5年で1200件増」の記事を掲載した。さらに同紙は17年10月29日にも「路上寝7159件 過去最多/16年県警通報件数/今年6月末現在で昨年上回る2828件 事件事故多発で注意喚起」と報じている。

 こうした報道の積み重ねも、沖縄世論が「路上寝は社会問題」と認識する一因になったと考えられる。

 ジャーナリストの惠隆之介氏(65)は沖縄県生まれ。防衛大学から海上自衛隊に進み、二等海尉で退官。琉球銀行勤務を経て、拓殖大学日本文化研究所客員教授、八重山日報の論説委員などを歴任。今も沖縄在住の論客として知られる。

 その恵氏に路上寝の問題について取材を依頼すると、「恥ずかしながら、実は私も1度だけ、酔って路上で寝てしまったことがあります」と明かす。

「20年ほど前のことで、5月とか6月の暖かな夜でした。取引先の方に接待をされて紹興酒を痛飲したんですね。お開きになった店から自宅まで、タクシーで30分もかからないような距離なんですが、冷静な判断力を失っていました。『酔いを醒ますために、ちょっと休もう』と歩道で寝てしまいました。そして寝ると、地面がひんやりとして心地よく、ある種の解放感を覚えました」

 作家の沢木耕太郎氏(71)の『深夜特急3−インド・ネパール−』(新潮文庫)には、インドのガヤ駅で午前3時ごろ、無数のインド人と共に野宿する場面がある。

《横になると、星のスクリーンが覆いかぶさってきそうなほど間近に見えた。やがて、土の微かな温もりがシーツを通して体に伝わってきた。大地の熱にやさしく包まれ、緊張が解けていくにしたがって、何千人ものインド人と同じ空の下で夜を過ごしているということに、不思議な安らぎを感じるようになってきた》

 これと似た感覚があったのかもしれないが、恵氏の場合は手痛い目に遭うことになった。寝ている間に貴重品を盗まれ、「散々でした」と振り返る。沖縄では路上寝を狙う犯罪者が存在するのだ。

「私が海上自衛隊にいた時、青森県の大湊基地に勤務したことがあります。真冬の夜、街へ出た隊員の帰りが遅いと、周辺の捜索を命じたことも珍しくありませんでした。北国で路上寝は死に直結します。ところが沖縄の場合、冬でも最低気温は15度といったところでしょう。路上で寝ても風邪を引くくらいなので、『路上寝は危険だ』という意識を持ちにくいのだと思います」

 もう1つ重要な問題なのが、「酩酊するまで飲んでしまう」という文化だ。国税庁がまとめた17年の全国都道府県におけるアルコール消費量のベスト10と、それに同年の推定人口で割った「都道府県民1人あたりのアルコール消費量」を表にしてみた。

■多いアルコール依存者


 表の右側をご覧いただくと、単純な「販売・消費量」では、東京、大阪、神奈川がベスト3を占める。このように、ベスト10に人口の多い都道府県以外は存在しない。

 ところが左側の「1人あたり」になると、人口との比例が失われる。高知、秋田、青森、宮崎、新潟、岩手という、酒好きで知られる県がベスト10に名を連ねている。

 2つの表で東京が首位を占めるのは、関東近郊の通勤客や全世界から訪れる観光客や出張客などが、アルコールを呑むからだ。住民票を都内に置く成人が飲んでいる量だけではない。

 つまり“かさ上げ”された数字というわけだが、観光客の多い沖縄も同じ傾向は存在する。しかしながら、沖縄の飲酒状況を見ると、やはりアルコールの消費量が多い県民が少なくないと言えるようだ。沖縄県の調査結果から、一部をご紹介しよう。

◇飲酒頻度は全国平均より少ないが、男女共に飲酒者の割合は高い。さらに「一度に大量の酒を飲む」傾向が認められる。

◇肝疾患による年齢調整死亡率は男女共にワースト1位。アルコール性肝疾患の死亡率(人口10万人対)は男性で全国の2倍。

◇アルコール依存症の疑いがある人の数は、男性は全国の約2・6倍、女性は7・5倍。問題飲酒の数は男性なら全国の1・8倍、女性は全国の5・7倍。

「沖縄県民はシャイな気質があり、素面では本音を言えない傾向があります。そこで酒の力を借りて心の内をさらけだすという文化が育っていったのでしょう。とはいえ、サラリーマンでも酩酊するまで飲み、翌日は遅刻や無断欠勤する者が決して少なくありません。宴席では喧嘩が起きることもあります。もっとも最近、酒席でのマナーは向上しており、その影響で路上寝が問題視されているとは思います。県民が真剣に適正飲酒を考える時期に来ていると言えるでしょう」

 惠氏は現在の沖縄県金武町が村だった1914(大正3)年、節酒会が結成された故事を思い浮かべる。村は最初、海外移民を推進したが移民先で教養の不足から本土出身移民と齟齬を生じていた。そこで一丸となって節酒運動を展開、浮いた酒代と移民からの送金で沖縄初の鉄筋コンクリートの学校を建設し学事を奨励した。これは大成功、国内外に多くの人材を輩出、地域振興が一挙に進んだという。

 かつて「米百俵の精神」が話題になったが、今の沖縄に必要なのは「酒1合でやめる精神」なのかもしれない。

週刊新潮WEB取材班

2019年11月18日 掲載

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