世界基準の“おもてなし”岐阜・高山(古市憲寿)

世界基準の“おもてなし”岐阜・高山(古市憲寿)

イラスト・k.nakamura

 名古屋駅から特急「ひだ」で2時間半。岐阜の高山駅に着くとホームは外国人であふれていた。東京や大阪に比べると決してアクセスのしやすい場所ではない。それにもかかわらず、高山市には現在、人口の6倍以上にあたる年間約55万人の外国人観光客が訪れるのだという。

 人気の理由はいくつかある。まず、わかりやすい「日本」を楽しめること。白川郷にも近く、観光客が想像しやすいベタな「田舎」の日本を体験できるのだ。

 そしてジャパン・レール・パスという外国人向け乗り放題乗車券で日本を回る旅行者にとって、実は高山は来やすい場所。特にヨーロッパ人は長期滞在型の旅行が多いため、東京から関西に移動する途中で1泊か2泊することが多い。

 僕が実際に訪れて感じたのは、観光客に対するフレンドリーさだ。まず自治体が観光に積極的。高山市には海外戦略部なる部署まで存在し、熱心に活動中だ。

 街中の無料Wi-Fiも当たり前。観光パンフレットは言語によって内容まで変える。韓国語版は雄大な山をピックアップしたり、ドイツ語版には写真ではなく文字での説明を増やしたり、各国からの旅行者に配慮した内容になっているのだ。

 外国人観光客に慣れた飲食店も多い。平安楽という中華料理屋さんでは、ハラルやグルテンフリーなど、お客さんの細かい要望に応えてくれる。もちろん女将さんは当たり前のように英語を話す(そして丁寧なお辞儀などエキゾチックな雰囲気にも事欠かない)。何だか街全体から「受け入れられてる感」がするのだ。

 インバウンドが流行語のようになって久しいが、どこの街でもこうはいかない。外国人からもそこそこ人気の「田舎」に行った時、地元の市役所の職員が悪気なくこんなことを言っていた。「観光客が来ても一部の産業が潤うだけで地元は迷惑なんですよ」。

 確かにそれは一面の真実だろう。世界各地でオーバーツーリズムは問題になっている。たとえばアムステルダムは、観光客の増加を抑えようと躍起だ。大麻や買春が楽しめるということもあり、2018年だけで1800万人の観光客が訪れた。そのためチューリップ畑が荒らされたり、様々な弊害が出ているようだ。

 日本では京都に毎年5千万人以上の観光客が訪れ、そのうち700万人以上が外国人である。地元からは交通渋滞や騒音など多くの問題が指摘されている。

 もちろん居住者の気持ちもわかる。古くから住んでいる人からすれば、よそ者が大挙して街を闊歩する様子を見るのは気に食わないかも知れない。

 しかし都市とは本当に地元住民だけのものなのだろうか。特に古都京都の文化財は世界遺産に登録されている。世界遺産とは文字通り「人類共通の遺産」である。観光の促進は世界平和を促すという考えもある。異文化衝突が戦争にまで発展すると笑えないが、マナー程度なら口頭での説明で何とかなる。もっと多くの街が「受け入れられてる感」を出してもいいと思う。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。著書に『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』など。

「週刊新潮」2019年11月21日号 掲載

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