大学入試改革、何故すべての道は「ベネッセ」に通じる? 受験産業が入試に関わる危険性

大学入試改革、何故すべての道は「ベネッセ」に通じる? 受験産業が入試に関わる危険性

下村元文科相

■「大学入試改革」何故すべての道はベネッセに通じるのか?(2/2)


 大学入学共通テストに導入予定だった英語の民間試験は、「身の丈」発言が波紋をひろげ、実施が見送られることとなった。そして今度は、国語と数学の「記述式問題」にも教育界から疑問の声が上がる。採点者の質の確保や、“採点の質”をチェックする仕組みがないためだ(前回参照)。

 今回、記述式問題の採点業務を61億円で落札したのは、ベネッセホールディングスの子会社・学力評価研究機構。衆院文科委員会では「(採点者は)アルバイトもいる。学生か社会人かは問うていない」(ベネッセの学校カンパニー長・山崎昌樹氏)との発言も飛び出し、採点への不安は高まっている。

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 だが、もっと心許ないのは、自己採点する受験生だろう。入試改革を考える会代表で中京大学教授の大内裕和氏が言う。

「記述式問題は試験後に自己採点を正確に行うのが難しく、プレテストでは国語の自己採点と採点結果の一致率が7割程度にとどまりました。受験生は採点結果が通知される前に出願する大学を決めざるをえず、この不一致は、受験する大学の選択や合否予測に甚大な悪影響をおよぼします」

 英語民間試験は言うにおよばず、記述式問題も欠陥の塊であるような大学入試改革が、なぜろくに検証されずにここまで進んできたのか。あらためて経緯を簡単に振り返っておきたい。


■産業界のニーズに応えて


「そもそも今回の大学入試改革案は、アベノミクスの第3の矢、成長戦略を議論するために設けられた産業競争力会議から上がってきて、それに安倍総理の私的諮問機関の教育再生実行会議が、お墨付きを与えたもの。つまり産業界のニーズに政界が応えるかたちで進められた教育改革でした」

 教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏は、こう説明する。要は、子どもを育てるという教育が置き去りにされ、産業界のための人材育成が進められていた、というわけである。

 教育再生実行会議は2013年10月、下村博文文科相(当時)を中心に第4次提言をまとめ、いまの大学入試改革の方向性はそこで定まった。そこには、

〈センター試験を廃し、代わりに「達成度テスト(基礎レベル)(仮称)」と「達成度テスト(発展レベル)(仮称)」の2段階のテストを実施する。これらは年間複数回実施する。これらは1点刻みではなく段階別の結果を出すようにする。外部検定試験の活用も検討する。コンピュータを使用した試験実施も視野に入れる〉

〈面接、論文、高等学校の推薦書、生徒が能動的・主体的に取り組んだ多様な活動、大学入学後の学修計画案を評価するなど、多様な方法による入学者選抜を実施し、これらの丁寧な選抜による入学者割合の大幅な増加を図る〉

 などと記されていた。このうち〈達成度テスト(発展レベル)〉が大学入学共通テストに当たり、〈1点刻みではなく段階別の結果を出す〉点が、記述式問題および英語民間試験につながり、むろん後者は〈外部検定試験〉でもある。

 では、〈達成度テスト(基礎レベル)〉は消えたのかといえば、高校の各段階で学習の達成度を測る「高校生のための学びの基礎診断」として導入されている。

「当初は大学入試センターがシステムを構築するはずだったのに、ほとんど報道されずに民間に丸投げの方針に転換され、ベネッセ系の『ベネッセ総合学力テスト』やリクルート系の『スタディサプリ』などが認定されています。しかも、16年3月に出された、高大接続システム改革会議の最終報告には、これが24年度以降、推薦入試やAO入試に導入される可能性が記されているんです」(おおた氏)

 第4次提言の〈生徒が能動的・主体的に取り組んだ多様な活動〉については、どうなったのか。

「高校3年間の学習などの履歴を記録し、インターネットで大学に提出するための『eポートフォリオ』として結実していて、ベネッセとソフトバンクの合弁会社Classiもシステムを提供しています。いまやベネッセは入試改革請負人と呼ぶべき存在です」(同)

 英語民間試験にはGTECが認定され、記述式問題の採点を請け負い、eポートフォリオを手がけ、高校生のための学びの基礎診断にも関わるベネッセ。教育が置き去りにされた大学入試改革が、ベネッセにとって巨大なビジネスチャンスになっているのである。


■受験産業が入試に関わる


 ところで、くだんの記述式問題の導入に当たり、ベネッセ関係者は、かなり強引な発言を重ねていた。

 中教審会長であった安西祐一郎氏は今年4月、「正答率が低いのであれば、それは問題が不適切だからではなく教育改革が進んでいないからだ」「授業を変えることを目指すべきだ」などと言っていた。欠陥だらけの入試のために教育を変えろという暴言である。

 また、下村文科相の下で文科省参与に就き、15年から18年まで4期にわたって文科相補佐官を務めた鈴木寛氏は16年2月、記述式問題の採点について「人工知能研究にしっかり投資して、日本語処理能力を飛躍的に向上させれば、採点の手間も劇的に改善するでしょう」と述べていた。

 ともに是が非でも記述式問題にしがみつこうという発言だが、安西氏は今年3月まで、GTECを手がける進学基準研究機構の評議員で、鈴木氏は現在も、ベネッセグループの福武財団の理事なのである。

 英語民間試験導入に強く反対していた全国高等学校長協会の会長である、都立西高校の萩原聡校長は、

「先日、記述式問題の採点をベネッセが落札しましたが、1社しかできないような寡占的な状況はどうなのか、という思いはあります。受験産業としてやってきたベネッセが、最近は入試そのものに深く関わるようになっています。模試や教材から入試の実施にいたるまですべてがベネッセ、という状況はどうなのか、と思っています」

 と疑義を呈する。続けておおた氏も言う。

「ベネッセはいまも全国の高校に営業しています。入試改革がこれだけ混乱しているなか、高校は、最もたしかな情報を握っているであろうベネッセの営業マンの言うことを聞かないわけにはいきません。教員の方々は“あらゆることがベネッセ漬けにされ、実質、ベネッセ一択だ”と悔しがっています。ベネッセが大学入試を請け負うのであれば、高校の教育現場からは手を引くべきでしょう。高校の学習と大学入試の双方に手を出して進むことは、企業倫理として許されるものではないと思います」

 しかし、改革の方向が噴飯ものでも、すべてがベネッセに通じていても、

「ガバナンスの名の下に文科省の統制を受けているので、各大学は逆らえません。文科省は教育改善を促すためだと言って、各大学をキャリア教育やアクティブラーニング、シラバスの作り方などを通して採点し、それによって助成金の額を決めている。文科省のご機嫌を伺うしかないのです」

 と某大学教授。文句を言えない大学を尻目に、ベネッセが入試改革を請け負っているのである。ちなみに、先に挙げた進学基準研究機構には、旧文部省と文科省から2人が天下っていることがわかっている。

 今後の日本のあり方にも直結する入試改革を、なぜベネッセが一手に担うことができているのか。ベネッセホールディングスの安達保社長を直撃したが、どんな質問も一切無視し、記者と目も合わせずに自宅に入ってしまった。

 とまれ、ゆりかごから墓場までではないにせよ、しまじろうから大学入試まで、日本の教育がベネッセ漬けになるか否か。いまわれわれは、その分水嶺にいる。

「週刊新潮」2019年11月21日号 掲載

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