栃木少女連続監禁事件、犯人逮捕後も「家に帰りたくない」と言った少女2人の家庭環境

栃木少女連続監禁事件、犯人逮捕後も「家に帰りたくない」と言った少女2人の家庭環境

少女が保護された犬塚交番

 誹謗中傷、罵詈雑言のみならず、〈毎日がつまらない〉〈家出したい〉〈助けて〉〈死にたい〉……現実に居場所を見つけられない者の呟きがSNSという穴に吐き出される。そんな声を優しく受け止めてくれるムキがないわけではないが、逆にその心の傷や混乱に乗じる輩は少なくない。自殺志願者として悩みをツイッターに投げ込んで楽になろうと思ったら、強制性交殺人という悲劇に繋がってしまった「座間9遺体事件」(2017年10月に発生)は、その最たる例だった。

 さて、今回の未成年者誘拐事件では最悪の事態は避けられた。しかし、理解しがたい登場人物の奇怪な振る舞いは、SNSが孕む闇の引力を否応なく見せつけたと言えるだろう。

 事件解決の端緒は、大阪市住吉区に住む小6少女が自宅から430キロ離れた栃木県小山市内の交番に現れたことだった。冷たい雨が降る中、傘をささず靴も履かぬ異様な恰好だった。

 対応した警官に彼女は自身の氏名・住所を伝え、「男の人の家に1週間くらいいた。SNSで知り合った人」と話した。11月19日から行方不明者として公開されていた顔写真と彼女が酷似しており、しばらくして“男の人の家”が判明。栃木県警はそこで張り込んだ。県警は“男と女の子”がクルマに乗り込んで発進したので追尾して職質。任意同行して警察署で双方から事情聴取を行なう中で、大阪府警の捜査員が到着し、未成年者誘拐容疑で“男”こと伊藤仁士(ひとし)容疑者(35歳、以下、表記略)を緊急逮捕と相成ったのである。

 え、もう1人いたの!?というのが世間の偽らざる受け止め方ではなかったか。“女の子”は15歳の女子中学生で自宅は茨城県内にあり、今年6月に家人から行方不明者届が出ていた。そんな彼女がどうやって伊藤の自宅に入り込み、抵抗もせず生活し、伊藤と外出などするのかといった疑問がつきまとう。

 捜査関係者によると、

「伊藤は今年6月、ツイッターのダイレクトメッセージという第三者からは見られない対話機能を通じ、茨城の女子中学生と知り合った。家出願望の強かった彼女は伊藤の家に転がり込み、2人での生活が始まる。時間が経ち、伊藤の元を離れるまではいかないけれど、生活に半ば飽きるような表情を見せていた彼女のため、『喋り相手』をこれまたツイッターで探すようになりました。そこに引っかかってしまったのが大阪の女の子だった。11月10日くらいのことですね」

 彼女もまた、〈家も学校も嫌や〉と周辺に話してはツイッターに呟き、実際、今年の夏から不登校だったという。

「家に引きこもっている状態でその理由がわからないので、小学校はイジメの可能性を疑って、調査をしたようです」(同)

 そんな少女と伊藤は17日の日曜日10時半頃、住吉区の公園で待ち合わせて落ち合った。地下鉄から在来線を乗り継いで、伊藤の自宅の最寄り駅から一つ離れた無人駅の小田林(おたばやし)駅に着いたのが23時14分。

「彼女は行き先を“東京の方へ”とだけ聞いていました。伊藤の自宅まで歩く2人の姿を防犯カメラが捉えていて、時刻は23時半でした。運賃は伊藤が用立てたとなっていますが、キセル説が浮上しています」(同)

〈家も学校も嫌や〉から、ツイッターでやりとりしただけの見ず知らずのオッサンと日曜日の公園で会う。それに付いて行き、深夜に見ず知らずの土地に行き着く。小学校でそんな教育をしているとは思えないが、なぜ途中で帰ろうとしなかったのか。

「伊藤の家に着いたらスマホのSIMカードを抜かれ、靴も取り上げられた。1日1食で口にしていたのは、コンビニのパンや冷凍チャーハン。それはガサの結果わかっています。風呂は2日に1度という感じですぐにでも逃げたいと思っていたようですが、伊藤から銃弾のようなものを見せられ怖くなって逃げるに逃げられなかった。ちょうど、伊藤と茨城の女子中生が寝ているスキを突いて、取るものもとりあえず飛び出してきたというわけです」(同)


■児童相談所?


 茨城の女子に関しては、自宅の部屋にあった幾つかの携帯番号の走り書きから、茨城県警が仁士の自宅を割り出し、捜査員が訪問したという経緯がある。行方不明届が出てから1カ月が経過した今年7月のことだ。

「捜査員は自宅内に入って容疑者と話したのですが、“そんな人はいません”と言われ、捜索もしたが女子を見つけられず。女子は発見されないよう床下へ隠れていて、県警の失態と言われても仕方ありません。また今回、容疑者が逮捕される前に捜査員から話を聞かれた彼女は、“私は栃木の人間で、言われているような茨城の女の子ではありません”などと主張したようです。せっかく自分の居場所を見つけたのに自宅には絶対戻りたくないという一心で、“本気で結婚したいと思っているんです”と話していました」

 とは、ある捜査関係者。

 当然、女子は事件後、茨城に住む親と面会したものの、「実家に戻りたくない」という意思を示したという。いわば荒涼たる家族からの逃避を貫くなら、児童相談所が彼女の次の居場所になるという。同様に、大阪でも、母娘の感情の壁は埋めがたいものがあるようで、娘との1週間ぶりの対面に母親は息が詰まるように泣き、喜んでいた一方で、

「“感動の対面”を果たしても女の子は全然喜んでいなかったようです。彼女の家は母子家庭で、だからというわけではありませんが母親はネグレクト気味でした。府警も“単なる家出なのですぐに戻って来るだろう”と見立ててまともに探していなかったとか。女の子の方は保護された後も“家には帰りたくない”と言って捜査員を困らせる場面も。今後は児童福祉施設で生活することになるようです」(先の捜査関係者)

 ともあれ、今回もSNSが犯罪の元凶となってしまった格好だが、評論家の呉智英氏は、「SNSは便利だけど、それくらい危険なものということです」と指摘し、続ける。

「変質者は常に誘拐の機会を窺っていると思いますが、公園で声をかけると、変なオジサンだと気づかれてしまいます。一方、SNSであれば、全く見ず知らずの状態で、しかも北海道から九州までをターゲットに誘い込むことができる。女の子に落ち度があるとは言いたくないですが、女の子も油断があって、つい誘いに乗ってしまったということも言えるでしょう」

 女の子の母親は事件後、

「スマホは小5の頃から持たせていた。知らない人には付いて行かないようにと教えていた」

 と振り返った。SNSにしか居場所を求められなかった子供は知らない人にも付いて行く――。この事件で得られた教訓があるなら、そういうことかもしれない。

「週刊新潮」2019年12月5日号 掲載

関連記事(外部サイト)