人生会議ポスター炎上、意見提出の患者団体に100通以上の逆抗議

人生会議ポスター炎上、意見提出の患者団体に100通以上の逆抗議

炎上した「人生会議」ポスター

 古代ローマ時代から伝わる警句「メメント・モリ」を直訳すれば〈死を思え〉となる。

 この箴言はいずれ訪れる「死」を恐れて悲嘆に暮れるのではなく、むしろ身近に感じることで、自らに与えられた「生」を見つめ直すべしと説いている。

 となれば、その現代版が、本来の意味での「人生会議」であろう。にもかかわらず、21世紀の厚生労働省の手にかかると、こんなポスターが出来上がってしまうのだ。

 厚労省が11月25日に発表したこのポスターを眺めると、まず目に飛び込んでくるのは、入院着に身を包み、病室のベッドに横たわる吉本芸人の小籔千豊(こやぶかずとよ)。続いて彼の「心の声」である。

〈まてまてまて 俺の人生ここで終わり? 大事なこと何にも伝えてなかったわ(中略)病院でおとんのすべった話聞くなら 家で嫁と子どもとゆっくりしときたかったわ ほんまええ加減にしいや あーあ、もっと早く言うといたら良かった! こうなる前に、みんな「人生会議」しとこ〉

 ポスターの中央には心電図のグラフが描かれ、その波形は半分ほどで途切れてしまっている。その上で、

〈命の危機が迫った時、想いは正しく伝わらない。〉

 というコピーに至る。

 この内容にSNS上では、

〈患者や家族を冒涜する無神経さに驚き怒り〉〈この無神経なポスターをどこへ貼るのだ〉〈小籔の顔芸しか印象に残らないのが問題〉

 などと批判が殺到した。

 実は、小籔も若くして母親を亡くし、もっと生前に話し合いをしておけばよかったと後悔しているそうで、その意味では今回の抜擢も頷ける話だった。とはいえ、ポスターの趣旨を考えればこの「顔芸」はやはり場違いか。芸人としてスべった感は否めない。


■意見書を出したら抗議が…


 押し寄せる批判に「人生会議」を提唱する厚労省は、

「患者団体の方々から、ポスターが患者や遺族を傷つける内容であるとのご意見を頂戴しました。こうしたご指摘を真摯に受け止めてポスターの掲載を停止しました」(医政局地域医療計画課・在宅医療推進室の担当者)

 と、作成に4070万円もの予算をつぎ込みながら、早々にポスターの撤収を決めたのだった。

 だが、お上の対応に困惑の色を隠せないのは、当の「患者団体の方々」だ。

 厚労省に意見書を提出した、卵巣がん体験者の会「スマイリー」の片木美穂代表が打ち明けるには、

「私も人生会議という取り組みを応援してきました。ただ、私たちがお会いする患者さんは治療がうまくいかなかったり、今後への不安を拭えない方々も多く、やはり、今回のポスターは脅迫的に映った。厚労省には、人生会議を広報するに当たって必要とされる配慮を欠いているのではないかと伝えたかったのです。しかし、ポスター撤収を受けて、私のもとには100通を超える抗議が届きまして……。“一体、何が問題なのか”“お前のせいで4千万が無駄になった”といった内容から、殺害予告に近いものまでありました」

 まるで彼女たちのせいでポスターが潰されたと言わんばかりである。スキルス胃がんの患者と家族を支援するNPO法人「希望の会」の轟浩美理事長も、

「ポスターの撤回ではなく、一律に全国の病院に掲示されることが不安だという気持ちを込めて意見書を出しました。患者の意思に反した治療が行われる恐怖や後悔といった、ネガティブな感情に訴えて啓発すれば人生会議の意味が誤解されかねない。人命にかかわるテーマを扱う以上、啓発を続けるなかで再考してほしいと伝えたのです」

「週刊新潮」2019年12月12日号 掲載

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