「グローバル化」を考える(古市憲寿)

「グローバル化」を考える(古市憲寿)

イラスト・k.nakamura

 客室まで呼んだUber Eatsで朝食を済ませ、手元のグーグルマップを頼りにホテルから目的地へ向かう。バス停ではプラダのトートバッグを持つ現地の青年がAirPodsで音楽を聴いている。

 まさに今朝の光景なのだが、世界の多くの都市で成立しそうだと思った。僕は昨日から、台北に来ている。台湾自体が初めてなのだが、東京でも活用しているサービスがそのまま使えるので全く不便を感じない。

 たとえばUber Eatsを利用すれば、地元の店に小籠包もタピオカも頼み放題。もちろん配達してくれるのは現地の人だが、アプリは日本語が使えるから困らない。

「グローバル化」と言われて久しいが、その度合いは日増しに高まっている。街で一番新しいショッピングモールの目立つ場所には純白のアップルストア、1階にはグッチやバーバリーなどのハイブランドが並び、大抵地下にはフードコート。そんな風に商業施設のルールまで共有しているものだから、人は初めて訪れる街でも何の苦労もなく行動することができる(地方の人がどうなのかは知らない)。

 各都市が抱える悩みも似ている。たとえば巨大建築物。台北では巨大ドームが建設中だが、2012年に着工したにもかかわらず完成はまだ。台北市と建設会社が揉めていて、この数年は工事も滞っている。近くまで行ってみると9割方は完成しているようだった。一等地にもかかわらず稼働しないのは勿体ない。

 ドイツのベルリンでも新しい国際空港の工事が大幅に遅れている。本来なら2011年に開港するはずだったのだが、自動ドアが開かなかったり、スプリンクラーが作動しないというまぬけなミスが次々と発覚。20億ユーロの予定だった建設費用も70億ユーロを超える有様だ。

 東京では新国立競技場の総工費が批判されていたが、きちんとオリンピックに間に合っただけでも喜ぶべきなのだろう。

 巨大プロジェクトでは、多数の利害や思惑がぶつかり合う。特に新国立競技場のザハ案撤回を巡る騒動のように、民主主義の国ではトップダウンだけで物事は進まない。常に政治家は世論に気を遣うからだ。

 しかし独裁政権でも巨大建築の難しさは変わらないらしい。北朝鮮の高さ330メートルの柳京ホテルは着工から30年以上経つが未完成のまま。資材不足や未熟な工事技術が原因だという。

 そう考えると、ピラミッドや万里の長城など古代の巨大プロジェクトでも工期の遅れは日常茶飯事だったのかもしれない。その意味で人類は昔から同じようなことに悩んできたのだろう。

 考えてみれば「グローバル化」とは程度問題。先史時代からワクワクする物語は神話という形で世界中に流通していただろうし、人々の移動と共に言語や宗教も運ばれていった。

 現代社会もその延長として理解可能だ。「いいもの」は世界中で流行する。そういえばヨーロッパでさえウォシュレットを見かける機会が増えた。いつか何のストレスもなく世界を旅できる日が来るのだろうか。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。著書に『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』など。

「週刊新潮」2019年12月26日号 掲載

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