ゴーン逃亡先「レバノン」ってどんな国? テルアビブ銃乱射の日本人も庇護下に

ゴーン逃亡先「レバノン」ってどんな国? テルアビブ銃乱射の日本人も庇護下に

カルロス・ゴーン被告

 ゴーンは脱出後の声明で、“政治的な迫害”に言及した。レバノンの政治案件と言えば、日本赤軍のイスラエル・テルアビブ空港銃乱射事件である。実行犯のひとり岡本公三は、終身刑で服役。13年間の獄中生活を経た1985年、イスラエルとパレスチナ解放人民戦線総司令部との捕虜交換で釈放され、拠点のあるレバノンに戻った。イスラエルと戦った英雄を庇護下に置くレバノンってどんな国?

「シリアを委任統治していたフランスが、キリスト教徒が多い部分を切り離して独立させたのがレバノンです。とはいえ、イスラム教徒の方が子沢山なので、イスラム教徒が増えていった。国会ではイスラム教徒とキリスト教徒が50%ずつ議席を持ち、18に亘る宗派が既得権益を代表。ゴーンはキリスト教マロン派で、この宗派出身者から大統領を、そしてイスラム教スンニ派から首相を選ぶことが決まっています」

 と、東京外国語大学の飯塚正人教授。モザイク国家と言われるゆえんだ。

「キリスト教徒とイスラム教徒その他の争いで、75年から90年まで内戦が続きました。その後に復興したものの、2011年のアラブの春以降の混乱を受け、35歳未満の失業率は37%に。去年の10月からデモが頻発しており、それはワイロに染まった政治家の汚職や増税への異議申し立てのため。レバノン・ポンドは弱くなり、政府は機能不全に近く、ゴミが収集されない事態にも。『暫定法務大臣』という肩書をご覧になった方もいるでしょうが、これはまともに組閣ができていないからです」

 ワイロ国家ゆえに逃亡を手助けしたのは上納金目当てと言われても仕方あるまい。岐阜県ほどの広さに約600万人が暮らす。飯塚氏によると、酒は飲めるし飯は中東随一とのこと。


■“コーゾー”コール


 現在、首都ベイルートに暮らす岡本の近況について、事情に明るい関係者によると、

「朝6時起床で夜は10時就寝。NHKのBSで朝ドラや相撲を楽しみ、朝は一緒に生活している支援者数人の朝食を作っている。マンションの最上階に暮らし、イスラム原理主義政党『ヒズボラ』が防衛隊を作っています。外に出るときは必ず護衛がつきますが、あるとき水を買いにふらっと外出したことがあった。店主は英雄が来たことに飛び上がるほど喜び、“お金は要らない”と受け取りを拒んだそうです」

 その類の話には事欠かず、

「以前は結婚式に呼ばれることがよくありました。みな、参加者に自慢したいからです。ただ、行ってみると“コーゾー、コーゾー”コールが起き、新郎新婦より目立って騒がれてしまう。参加者からの歓迎のキスの嵐がイヤで、行かなくなったそうです」

 体調については、

「悪くはないですが、イスラエルで受けた拷問による精神的ダメージが癒えず、月に1度は統合失調症の薬を服用しています。“日本には帰りたいが、帰っても殺人罪で国際手配されている身なので逮捕・刑事裁判が待つ。イスラエルでの拷問の記憶が甦るから帰りたくない”ということでした」

 元駐レバノン大使の天木直人氏は、こう振り返る。

「現地に着任する大使が最初に日本政府から命じられるのが、岡本の返還交渉でした。しかし、彼はイスラエルと戦った英雄ですからレバノンは絶対、交渉に応じようとしなかった」

 岡本に比べ、ゴーンは一宗派の利権を代表することはあってもレバノンの英雄ではない。貧窮に喘ぐ市民には暴利を貪ったイメージは捨て難い。枕を高くして寝られるとは限らないのだ。

「週刊新潮」2020年1月16日号 掲載

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