カメラの進化 8年前のコロッセオを見比べて(古市憲寿)

カメラの進化 8年前のコロッセオを見比べて(古市憲寿)

イラスト・k.nakamura

 友達がローマのコロッセオの写真を送ってくれた。最新のiPhone 11(かつ最上位機種のPro Max)で撮影しただけあって、壁面や内部の天井の意匠を含めた細部まで確かめることができる。

 僕もコロッセオには8年前に訪れたことがある。その時の写真を確認してみると、画質と画角の違いに愕然とした。もちろんカラーなのだが、まるで昭和の写真屋で現像したような古臭い写真なのだ。露出が甘く、全体的にぼんやりとしている。

 当時はもうスマートフォンがあったものの(その頃の最新機種はiPhone4S)、カメラの性能は今よりだいぶ劣っていた。

 最新のiPhoneは1200万画素の超広角カメラを備える。これまでのように、全景を撮るために撮影者が後ろに下がるなんて苦労は必要なくなった。一眼レフには敵わないが、コンデジと呼ばれる小型高性能カメラにも引けを取らない出来だ。

 アップルの時価総額は何と約136兆円。株価はこの1年間で約2倍になった。しかしその間にアップルが画期的な発明をしたわけではない。一大イベントと言えば、新しいiPhoneを出したことくらい。そのiPhoneもわかりやすい進化はカメラだけ。

 アメリカの株式市場がいかにバブルなのかを説明するために、「アップルは背面カメラを一つ増やしただけで時価総額が2倍になった」と揶揄されたりする。

 たかがカメラだが、されどカメラ。人間は情報の約8割を視覚から得ているという話もあるくらいだ(実際は状況によって変わる)。

 最近のカメラの進化には、約10年前にiPhoneが発売され、ガラケーがスマートフォンに代わった時ほどの衝撃はない。だけどコロッセオの写真を比較する限り、画像のインパクトは決して侮れない。

 たとえば昭和のなつかし映像が「昭和」らしく見えるのは、色や画質が大きく関係しているだろう。もしも戦時中の映像がカラーのハイビジョンで残されていたら、それが半世紀以上前の出来事だと思えない気がする。ぼんやりとした白黒映像だから、昭和と現代の「距離感」を感じることができるのだ。

 平成を振り返る時も、画質の良し悪しが時代を測る一つの材料となっている。平成前半の「皇太子ご成婚」のアナログ映像はどこか「古い」。一方で、地デジ化が完了し、ハイビジョンが一般的になった2010年代の映像は「新しい」。まあ、老眼の人には関係ないかも知れないけど。

 今後、4Kや8Kが主流になれば、ハイビジョンの映像でさえ古く見える時代が来るのだろうか。8Kまでいくと映像に立体感が出るので、ハイビジョンになった時くらいのインパクトはありそう。

 そういえば「週刊新潮」のような雑誌の、わら半紙(みたいな安っぽい紙)に活字がびっしりという誌面構成は、もうどれくらい変わっていないのだろう。時代に置いていかれたかに思えるが、いつまでも古びないメディアとも言える(もうこれ以上、古くなれないほど古いから)。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。著書に『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』など。

「週刊新潮」2020年1月30日号 掲載

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