伝説の麻薬Gメンが警鐘「我が子がこのアプリを使っていたら、ネット密売を疑え」

 世界中の犯罪組織から格好の「市場」として狙われ、子どもたちはネット密売の被害者に――。薬物を巡る日本の現状に警鐘を鳴らすのは、『マトリ 厚労省麻薬取締官』の著者・瀬戸晴海氏である。「伝説の麻薬Gメン」が教える、我が子を薬物の魔手から守る術とは。(以下は「週刊新潮」2020年1月30日号掲載時点の情報です)

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 どれだけ時代が移り変わろうと、薬物犯罪は常に「人間」が引き起こし、乱用者のみならず、周囲の「人間」の人生までも狂わせることに変わりない。

 薬物事件の捜査に当たる以上、過酷で凄惨な末端現場や、悲嘆に暮れる被害者の涙を決して忘れてはならない――。それこそが、麻薬取締部の取締官、いわゆる「マトリ」としての人生で学んだ教訓である。

 1980年に麻薬取締官となった私は、2014年に関東信越厚生局麻薬取締部の部長に就き、18年3月に退官した。そして、約40年の長きにわたり、薬物捜査に従事してきた私の目から見ても、違法薬物をめぐる現在の日本の状況には看過できないものがある。

 なかでも危惧しているのはネット密売の氾濫と、それに巻き込まれる未成年の子どもたちの存在だ。

 中高生はもちろん、小学校に通うお子さんにも、スマホを持たせているご家庭は少なくないと思う。子どもたちの安全を考慮すれば、それ自体を否定するつもりはない。だが、親御さんには、次の点を肝に銘じてほしいと考えている。

 スマホは極めて容易に「ネット密売」へと繋がるツールであるという事実だ。

 昨年3月、京都府警は、大麻草を所持していた容疑で中学3年生の少女を逮捕した。その後、少女に大麻草1袋を2万5千円で譲渡した男もお縄となった。

 この事件を報じたニュースによれば、

〈男は、少女が「大麻がほしい」という趣旨の隠語をツイッターに投稿しているのを見つけ、秘匿性の高い無料通信アプリ「Telegram(テレグラム)」で受け渡し場所などの連絡を取り合っていたという〉(19年10月9日付「時事通信」)

 馴染みのない読者が大半だと思うが、ここに登場する「テレグラム」や、「ウィッカー」といったメッセージングアプリが、薬物捜査の現場でも大きな問題となっているのだ。これらのアプリの特徴は、一定時間が経過すると自動的にメッセージが消えるよう設定できる点にある。それこそ、薬物事件で検挙しても、被疑者が交信したメッセージが消失してしまえば、証拠となるデータの発見が困難になってしまう。

 重要な企業秘密をやり取りするわけでもない中高生が、LINEの代わりにこんなアプリを利用する必要はなかろう。密売組織は、子どもたちが興味本位でネット上に投稿した書き込みを見つけると、言葉巧みに「秘匿性の高い」アプリを使うように誘導する。そして、証拠を残すことなく子どもたちに薬物を売りつけるわけである。

■時代を映し出す鏡


 他にも、子どもたちがネット掲示板やツイッターで、次のような書き込みを閲覧していたら注意が必要だ。

〈氷、ブルーベリー、タマあります。宅配OK〉

“氷”は覚醒剤の隠語で、“ブルーベリー”は大麻の銘柄、“タマ”はMDMAを指している。

 また、中高生が手を出しやすい大麻関連の隠語には、“ハッパ”や“クサ”以外にも、“キャベツ”、“野菜”、“88(ハッパの意味)”などが見受けられる。他方、

〈全国アイス専門。初回のみお試し0・1からのご注文を受けますので、お気軽にお問い合わせください。0・1:5000(初回のみ)、0・5:20000、P:1000〉

 と、あたかも通販サイトと見紛うほど丁寧な説明書きを寄せるケースもある。

 この“アイス”も覚醒剤の隠語で、以下は0・1グラム=5千円、0・5グラム=2万円を意味する。“P”はポンプ、つまり、注射器のことだ。

 ネット密売では電子メールか携帯電話で注文し、指定の口座に入金すると宅配便や郵便で“ブツ”が届く。配達場所は郵便局留めも可能。その際、口座は架空名義、携帯もいわゆる飛ばし(他人名義)携帯が一般的である。子どもたちのネットの閲覧履歴はもちろん、銀行口座の動きにも目を光らせてほしい。

 加えて、海外から郵便物が届いたり、ウエスタンユニオン(海外送金システム)を利用した形跡があったらより一層、注意してもらいたい。最近は、海外の密売組織がネットを通じて日本人と直接、取引するケースが後を絶たないからだ。

 さらに厄介なのは、ダークネット(ダークウェブ)の存在だろう。

 一般的な検索エンジンには引っ掛からないネット空間で、「Tor(トーア)」などの特定のソフトをインストールし、これを経由してアクセスする。12年に起きた「パソコン遠隔操作事件」では、容疑者は「Tor」で身分を秘匿して他人のパソコンを操作した。ダークネットの海外サイトには、メルカリなどの合法なフリマ通販サイトのごとく「違法」な商品が陳列されている。しかも、多少のIT知識があれば誰でも違法薬物を購入でき、誰もが密売人にもなれるのだ。

 先述したように薬物犯罪は常に「人間」が引き起こす。酷なようだが、それは可愛い我が子も例外ではない。ネットを通じた取引では、多くの場合、密売人と顔を合わせることがないため、購入する側の罪悪感が極めて薄い。社会経験に乏しい未成年であればなおさらである。実際、昨年には、大麻の購入・譲渡にからむ一連の捜査で、沖縄県の高校生14人を含む20人以上の関与が取り沙汰された。

 長らく薬物犯罪と対峙してきた私が折に触れて思うのは、「薬物犯罪は時代を映し出す鏡」だということだ。

 社会の変化に伴って、薬物犯罪も日毎に進化を遂げている。なかでも、ネット密売はありとあらゆる面で薬物犯罪の在り様を変貌させた。子どもたちを違法薬物の魔の手から守るためにも、親御さん自身がネット密売の実態をきちんと理解すべきだと考える。

瀬戸晴海(せとはるうみ)
1956年、福岡県生まれ。80年、厚生省麻薬取締官事務所(当時)に採用される。薬物犯罪捜査の第一線で活躍し、九州部長等を歴任。2014年に関東信越厚生局麻薬取締部部長に就任する。18年3月に退官。13年、15年に人事院総裁賞受賞。

2020年2月6日 掲載

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