1文字違いの名前が勘違いを生み…「夜這い」受け入れ女性の性被害、判決は?

1文字違いの名前が勘違いを生み…「夜這い」受け入れ女性の性被害、判決は?

難しく珍しい判決

 世間ではしばしば、事実は小説より奇なりといった出来事が起こる。しかしこの一件は、想像が及ぶ範囲を遥かに超えていた。サプライズの夜這いかと思ったら、まったくの別人で――。

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 事件が起きたのは2018年の9月10日、午前2時ごろ。大阪は寝屋川市内にあるマンション1階のベランダ窓は無施錠だった。侵入した男性(38)に住人女性(20)が声をかける。

「カズキやんな? カギ返しに来てくれたん?」

 部屋は暗く、顔の判別はつかない。男性は女性の口を塞ぎ、「声、出さんといて」と告げた。「うん、サプライズなん?」と応じる女性。このとき男性は『カズアキ』と自分の名を呼ばれたと思った。無言でキス。そのまま性交。男性が精を放つと、女性は声を上げた。「あんた誰?」。

 カズアキはこう答えた。

「分からへん。たどり着いたのがここやった」

 それから二人は雑談をし、もう一度セックスしている。LINEを交換して、午前5時ごろ、カズアキは女性宅を出た。女性は友人に相談し、2日後に警察に通報。LINEアカウントから特定されたカズアキは、通報から5日後、住居侵入と強制性交の疑いで逮捕された。


■“神”と“女神”


 カズアキは型枠大工。家業の手伝いだ。その仕事帰りか、約3週間前に女性のマンション近くを通りがかったとき、「ここやで」という声を聞いている。彼は自分を“神”のような存在だと思っていた。ここやで、という囁きは、運命の相手である“女神”が発したのだ。女神は自分の子どもを産んでくれる。その子が世界を救うと考えていた。

 そして事件当日。カズアキは、吹田市内の交際相手の家からバイクに乗って実家に帰宅。風呂に入り、コンビニへ行こうと外に出て、“女神”のいるマンションに至ったのである。

 検察は強制性交ではなく、準強制性交と住居侵入で起訴。準強制性交は、被害者が物理的、あるいは心理的に抵抗できないか、著しく抵抗が困難な抗拒(こうきょ)不能の状況であることが要件となる。たとえば、酒や薬物などによって抵抗できない状態につけ込んだ場合がそれに当たる。ちなみに起訴後、女性とのあいだで、50万円で示談が成立している。

「本件は事件そのものから判決に至るすべてが、非常に珍しいケースでした」

 とは、カズアキの弁護人を務めた新阜(にいおか)真由美弁護士。

「昨年12月の大阪地裁の判決は、住居侵入罪で懲役8カ月の実刑。精神鑑定の結果、統合失調と躁鬱両方の症状が出る、統合失調感情障害でした。自分の名前が呼ばれ、女性に受け入れられたと思ったのです。被告人は筋道立てて話をすることはできましたが、現実離れした部分がありました」

 女性が2度目の性交とLINE交換に応じたのは、意味不明なことを言う男を拒否すれば何をされるか分からぬと恐れたのだろう。彼の服役前科は3犯という。

「いずれも住居侵入のうえ、強制わいせつなどの性犯罪や窃盗です。過去に精神疾患が受け入れられた判決はなく、本件の5カ月前まで、やはり住居侵入や強姦未遂などの罪で6年間、服役していました。今回、刑を軽くするための詐病と思われてもおかしくなかったのですが、裁判所がきちんと判断してくれてよかったです。検察も控訴しませんでした」(同)

“女神”の囁き。1字違いの名前。勘違いで“夜這い”を受け入れてしまった被害者。これだけ奇怪な偶然が重なる珍事件は小説でもなかなかお目にかかれまい。

「週刊新潮」2020年2月13日号 掲載

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