【新型コロナ】クルーズ船“乗組員”の扱いを批判する米メディア 外国人対策の失敗

■内閣支持率に影響?


 政府関係者が、次のように明かす。「豪華客船『ダイヤモンド・プリンセス』号の検疫問題に関し、かなりの海外メディアが『日本の対応はおかしい』と、厳しい論調で報じています。これに安倍晋三首相(65)は神経を尖らせているそうです」――。

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 2月17日、午前10時現在、YAHOO!ニュースのトピックスで、ダイヤモンド・プリンセス号に関する最新の状況を伝えているのは、朝日新聞デジタルの記事「クルーズ船の米国人40人が感染『帰国せず日本で入院』」だ。

 記事は《16日深夜、乗船していた米国人の一部がチャーター機で帰国するため下船した》とし、《米国立衛生研究所(NIH)の幹部は、同船を「(感染の)ホットスポット」と表現、乗船していた米国人の約40人が感染していたことを明らかにした》と報じている。(註:デイリー新潮の表記法に合わせた、以下同)。

 16日は日曜だったが、この日のトピックスは各国がチャーター機を日本に派遣するとの記事が目立った。

「香港政府もチャーター機派遣、クルーズ船の330人帰還へ」(読売新聞オンライン)、「カナダもチャーター機派遣、乗船の255人帰国へ…14日以上隔離」(同)、「クルーズ船のアメリカ人帰国用に自衛隊がバス用意」(テレ朝news)という具合だ。

 このダイヤモンド・プリンセス号に関しては7日、産経新聞が「『浮かぶ監獄』海外メディアがクルーズ船乗客の発信を紹介」と報じている。

「監獄」という表現が強い印象に残るが、記事によると《「豪華なクルーズじゃない。まるで『浮かぶ監獄』だ」。仏国際ニュース専門テレビ局フランス24などは6日、乗客の英国人男性がSNSで発信した言葉を紹介した》ものだという。

 監獄と形容されるほど苛酷な環境だとすれば、外国人観光客が相次いで“脱獄”を望むのも当然かもしれない。

 そして日本政府の対応といえば、時事通信が15日に配信した「クルーズ船から米国民退避 チャーター機、16日に日本着」には、次のような記述がある。

《ドイツ・ミュンヘンを訪問中の茂木敏充外相は15日午前(日本時間同日午後)、ポンペオ米国務長官と協議し(略)米国人以外の外国人についても、各国がチャーター機などを独自に手配すれば、早期下船に協力する方針を示した》

“隔離して船内で封じ込め”から“国外退去”へと、日本政府は方針を大転換した。その原因の1つとして――「安倍首相が気にしている」という――海外メディアの報道が挙げられるようだ。欧米の報道に詳しいジャーナリストが言う。

「ニューヨーク・タイムズの電子版は2月10日、“Cruise Ship’s Coronavirus Outbreak Leaves Crew Nowhere to Hide”との記事を報じました。『コロナウイルスが大流行、船内に避難場所のない乗組員たち』という意味ですが、文中には“the Diamond Princess is now a floating, mini-version of Wuhan, China”との一文があります。直訳すれば『ダイヤモンド・プリンセス号は今や、海に浮かぶ小型版の中国・武漢市』です。かなり痛烈な表現で、安倍さんが嫌がるのも当然でしょう」


■米メディアの意外な着目点


 記事の内容は意外にも「船内におけるアメリカ人乗客の健康状態」といった自国民の動静ではなかった。焦点が当てられたのは「乗組員の健康状態」だったのだ。

「ニューヨーク・タイムズは乗組員の取材協力を得て、『1000人以上の乗組員は密集した空間で作業に従事。簡単なビッフェスタイルの食事を食堂で共にし、バスルームは4人でシェア』と生々しい描写で伝えました。自分たちの食事と入浴の方法や、乗客に食事を運んだりゴミを処理したりという仕事が、乗組員同士の感染リスクも高めている。彼らも危険な状況だと理解していても、いかんともし難いようなのです」(同・ジャーナリスト)

 この記事にはワシントン大学の教授も登場、「日本政府の検疫は外部への感染を防ぐことはできても、船内での感染は防げない」と警告した。さらに「乗組員はマスクや消毒薬を手渡されているが、専門の訓練は受けていない」という。

 ライバル紙とされるワシントン・ポストは2月11日、「‘Dream job’ turns into ‘nightmare’: Virus fears grow among Diamond Princess crew(“夢の仕事”は“悪夢”に:ダイヤモンド・プリンセス号の乗組員にウイルスの不安が拡大)」との記事を掲載した。

「やはり乗組員における感染の危険について、かなり長文の記事を掲載しました。更にアメリカの国防総省が運営する星条旗新聞(「スターズ&ストライプス」)も、この記事を転載しています。それにしても、ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストと言えば、世界的な知名度を誇るアメリカの高級紙です。両紙が共に日本政府、つまり安倍政権の隔離方針における欠陥を指摘したことは、安部首相にとっては相当なプレッシャーになったのではないでしょうか」(同・ジャーナリスト)

 更にCNN(電子版)も2月13日、「Worker on board Diamond Princess says crew are at greater risk of coronavirus(ダイヤモンド・プリンセス号の乗組員は「私たちはコロナウイルスのより大きなリスクに直面」と証言)」と報じた。

「CNNはダイヤモンド・プリンセス号の乗組員と、携帯電話のテレビ電話で行ったインタビューを報じました。24歳の女性は顔を出し、実名を名乗った上で『船室を共有している同僚が、2日前から頭痛、咳、発熱を訴えたため、自分も仕事を中止し、船室で待機するよう指示された』と経緯を振り返り、『私たちは恐怖と緊張を感じています』と打ち明けました。さらに彼女は『船内で仕事に従事するのは嫌ではない』としながらも、『ただし、同僚に感染させない“安全な職場環境”を保証してくれることだけは絶対に求めたい』と訴えました」(同・ジャーナリスト)

 CNNは橋本岳・厚生労働副大臣[自民党・岡山4区](46)のインタビューも放送している。ちなみに橋本副大臣の父親は首相を務めた橋本龍太郎(1937〜2006)だ。

「CNNの質問に対し、橋本副大臣は『乗客と異なり個室を持たない乗組員が存在し、現在も仕事に従事していることは把握しています』と説明した上で、『我々は乗組員も乗客も平等に対処するようにしています』と理解を求めました」(同・ジャーナリスト)


■安倍政権が「外国人対策」を読み間違えた理由とは?


 図らずも母国で“有名人”になってしまった乗客もいる。イギリスのBBCは2月16日、「Coronavirus: Couple quarantined on cruise ship criticise UK government(【コロナウイルス】クルーズ船に隔離された夫婦、イギリス政府を批判」と報じた。

「夫のデイヴィッド・アベルさんというイギリス人は、船内待機が始まった頃からSNSで発信を続け、今やちょっとした有名人です。『自分は熱心な保守党員だが、もうボリス・ジョンソン首相(55)のことは信じられない』、『ヴァージン・アトランティック航空のリチャード・ブランソン会長(69)に航空機を送ってもらいたい』といった発言はイギリス国内でも大きく報道されました」(同・ジャーナリスト)

 日本人に想像しにくいのが、宗教的な問題だ。イスラエルの新聞「ザ・タイムス・オブ・イスラエル」は2月13日、「Japan refuses to release Israelis on coronavirus ship(日本政府はウイルス感染の船からイスラエル人の下船を拒否)」と報じた。

「見出しは日本に批判的ですが、実際の記事はそこまでではありませんでした。船内には15人のイスラエル人乗客が身動きの取れない状態になっており、一刻も早く下船したいと訴えているそうです。一方、イスラエル外務省は日本の立場に理解を示しているものの、乗客の医薬品と、ユダヤ教徒が食べていいとされる『コーシャ食品』を入手できるよう働きかけている、といった内容でした」(同・ジャーナリスト)

「武漢に閉じ込められた邦人を救出するため、日本政府はチャーター機を飛ばしました。帰国のニュースに、安堵した日本人も少なくないでしょう。ダイヤモンド・プリンセス号の現状は、これと逆です。日本人の乗客なら横浜港にいるという安心感を得るかもしれませんが、外国人の乗客にとっては武漢に閉じ込められている感覚と変わりません。当然ながら母国のメディアは、日本政府に批判的になります。武漢からチャーター便を飛ばした経験を持ちながら、外国人乗客の下船にまで思いが至らなかった安倍政権は、想像力が欠如していたと批判されても仕方ないでしょう」

 イギリス人のアベル氏のように、ダイヤモンド・プリンセス号の乗客や乗組員の中には、SNSで積極的な発言を行う者が少なくない。これも安倍政権に悪影響を与えたようだ。

「外国人の中には今回、SNSで実名を表明し、堂々と自分の考えを主張する方も少なくありませんでした。日本人もツイッターなどに状況を投稿した人はいましたが、実名による政府批判となると皆無と言っていいでしょう。やはり国民性の違いと言わざるを得ず、ここにも安倍政権が判断を間違えた可能性があると思います」(政治担当記者)

 共同通信は2月16日、「内閣支持率8ポイント急落41% 桜の会対応批判、共同調査」と報じた。安倍政権の方針転換で今後、続々と外国人乗客が日本を離れていく。とはいえ、ダイヤモンド・プリンセス号にとどまらざるを得ない乗客は今も多い。彼らに対するメディアの詳報は続く。

週刊新潮WEB取材班

2020年2月17日 掲載

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