「少年法18歳引き下げ」は見送りに 投票権はあるのに罪を犯しても保護される不条理

「少年法18歳引き下げ」は見送りに 投票権はあるのに罪を犯しても保護される不条理

森法相の姿勢に期待がかかる

■「少年法」18歳引き下げはこうして潰された(1/2)


「大人」とは何だろうか。親の監護から離れ、自由に意思決定が出来る代わりに、自らの行動に責任を持つ。が、世にはこんな理屈もわからない人たちがいて、少年法の引き下げを潰した。投票権はあるのに罪を犯しても保護。残ったのは許しがたい矛盾と不条理である。

 ***

 落ち度のない若者が殺された。

 2008年のことである。被害者は当時、24歳。銀行に勤め、交際している女性がいた。結婚も考えていた。

 犯人は19歳の「少年」だった。軽トラックに乗って時速70〜80キロまで加速し、「獲物」を物色。たまたま目に付いた被害者を撥ね飛ばした。自分が怪我をしないように、わざと助手席付近でぶつけるよう、ハンドル操作をした上で。

 法廷でその「動機」が明らかになる。犯人は日頃、父親から叱責を受け、鬱憤が溜まっていた。仕返しをしてやろう、人を殺せば父親を困らせることが出来る……と考え、犯行に及んだのだという。捜査では「知らない人だから死んでもかまわない」、法廷でも「少年法があるからすぐに出てこられる」「出所したらまたやってやる。大きなことをやってやる」と言い放った。弁護人に殴りかかろうとするなど、2度に亘って暴れ、退廷処分も受けている。

 この男に下された判決は、懲役5〜10年の不定期刑。制度上はわずか2年弱での仮出所が可能である。当時、新聞各紙も大きく取り上げたが、男の実名は明らかにされていない。いずれも「少年法」が男を手厚く保護したゆえ、である。

 罪と罰の絶望的な不均衡。こうした矛盾を解消する絶好の機会があった。この5年来、議論されてきた「少年法」適用年齢の20歳から18歳未満への引き下げである。

 被害者の母、澤田美代子さんが言う。

「刑を知らされた時には、絶望的な気持ちでいっぱいになりました。このような思いをする人を出さないためにも、少年法の適用年齢は引き下げるべきだと思いますし、そうなるはずだと思っていましたが……」

 引き下げは見送りになった。その「主犯」は誰で、「理由」は何だったのか。ここに至る経緯を記録しておこう。

「動きが生まれたのは2015年のことでした」

 とは、さる法務省関係者である。

「この年、川崎で中学1年生が3人の『少年』たちに刃物で刺されて殺される事件が起きました。主犯格は当時18歳。被害者の男の子は、2月の多摩川を泳がされ、河川敷で集団リンチを受けた挙句、極寒の空の下に放置された。あまりに凄惨な事件ですが、例によって、加害者は少年法で守られた。これに世論が沸騰。自民党でも当時、政調会長だった稲田朋美議員が改正に言及し、世論調査でも8割強が『賛成』との結果が出たのです」

「大人」の定義について、世間の捉え方も変わってきていた。公職選挙法が改正されて2016年から18歳で選挙の投票が出来るようになった。民法も改正され、2年後の2022年から、成人は18歳となる。

 法務省関係者が続ける。

「成年年齢が引き下げられると、『少年法』で『少年』の定義をこれまで通り、20歳未満としておくことの整合性が取れなくなるのです。そもそも、『少年』が罪を犯した場合、刑事処分でなく、少年院に送ったり、保護観察にしたりできるのは、彼らの自律的な判断能力が不十分と見なされ、他者に監護される存在であるから。18歳以上が成人で『自律的な主体』となれば、18〜19歳について、保護する前提が失われてしまうのです」

 国民の常識的な感覚も同じであろう。成年年齢引き下げが施行されれば、理論上は18歳で医師免許や公認会計士の資格が取得可能になる。人の生命や財産を守る者が、罪を犯した時だけ「少年」であることなど許されまい。更には裁判員になる資格も得られるが、人を裁く者が、自らは法廷から逃れられるという矛盾を認める向きがどこにいるだろうか。

「加えて、匿名報道と不定期刑の問題です」

 と法務省関係者。

「少年法は61条で、本人と推知できるような報道を禁じている。また、52条では、少年を有期の懲役・禁錮刑にする場合は15年が上限。成人のように『懲役〇年』と定めるのではなく、『〇〜〇年』と短期と長期の期間を定める『不定期刑』にする、との規定がある。制度上は短期の3分の1の期間での仮釈放も可能です」

 18歳以上が成人となるのに、なぜ少年法ではこうした寛大すぎる措置が残るのか。説明不能な矛盾である。


■デッドライン越え


 それらを検討すべく、法務省はまず省内に「勉強会」を設置。そして、2017年には、「法制審議会」に少年法の引き下げの是非を諮問し、以来、24回にも亘って会議が行われ、具体的な改正案や、その修正案も2案提示された。

 再来年に迫る成年年齢引き下げに間に合わせるのならば、周知期間を考えると、この通常国会で「少年法」の改正を成立させるのがデッドライン。

 ところが、

「反対意見が噴出し、提出は見送りになってしまいました。声が大きかったのは、まず日弁連です。彼らは何度もシンポジウムを開いて訴え、公明党にも“説明”を行った。『人権の党』を謳う公明党もこれに乗り、“ノー”を表明したんです。同じ連立を組む与党の一角がダメと言う以上、自民党も押し通すことは出来なかった。他方、メディア界でこれをアシストしたのが朝日新聞。社説やインタビュー記事で“反対”の主張を繰り返し掲載し、機運を作った」(同)

 政治、司法、メディア、それぞれのキープレーヤーが手を組んで反対し、改正は見送りになったのである。

 彼らは何を守りたかったのか。

 前出の法務省関係者が解説するには、

「18〜19歳はまだ人間として未成熟で、成長過程にあるので成人と同じ手続は取るべきでない、というのです。彼らが何より声高に訴えたのは、現行の少年法が有効に機能している、ということです。少年犯罪の件数や発生数は共に減少している。そして、少年法による手続は、刑事手続より教育効果が優れている、と主張しました」

 すなわち、18〜19歳の「保護」を何よりも重視すべし、と論陣を張ったのだ。

「なぜ、彼らは『少年の更生』を過剰なばかりに重視するのでしょうか」

 と憤るのは、犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務局長の高橋正人・弁護士である。

「そもそも更生の機会は年齢に関係なく、50代でも60代でも、すべての受刑者に対して与えられるべきです。18歳以上が大人と決まったのですから、その年齢から刑事処分を科すことを前提にし、その上で更生の可能性がより高いとされる、若年成人に関しては、教育の機会を更に多く与えればよいのです」

 そもそも、

「大人として権利が認められるのであれば、その責任も負わなければいけません。大人の基準は、医学、精神医学、社会的コンセンサスを勘案してひとつに決まる。そして、今の日本ではそれが『18歳』と決まった。であれば、なぜ刑事上では、成熟していない年齢となるのか。まったく理解できません。大人の概念が変わった。だから、刑事上も18〜19歳は大人として扱うのが当然。反対派はこの簡単な理屈がわかっていないのです」(同)

(2)へつづく

「週刊新潮」2020年2月27日号 掲載

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