神戸「教師いじめ」、男性教師2人は懲戒解雇でも45歳「女帝」は停職3か月の不可解

 昨年秋に発覚した神戸市立東須磨小学校の「教員いじめ事件」で、神戸市教委は2月28日、男性教員二人を懲戒免職にするなどの処分を発表した。“クビ”になったのは蔀俊(しとみ・しゅん)教諭(34)と柴田祐介教諭(34)。刑事処分も決まらないうちの懲戒免職は異例ではある。

 先立つ21日、弁護士らの調査委員会は報告書を発表し、二人の蛮行を明らかにした。そこに記されていたのは、テレビ報道などで有名になった「家庭科教室内で『激辛カレーの会」を開き、被害教員を羽交い絞めにして、カレーをスプーンで口元に持って行き食べさせた(2018年9月)』の他にも「運動会の準備中、頭にボンドや洗濯糊を塗った」「プール掃除中、頭と足を持ってプールに放り込んだ」「釘打ちの時、わざと被害教員の指を金づちで打った」「体育館で(足首を持って体を振り回す)プロレス技をかけた」「被害教員のすね毛を束ねて引き抜き、ライターで焼いた」「頭を押さえて卒業写真に写らないようにした」「給食室前で児童の目前で殴った」「被害教員に女性教員にわいせつなメールを送らせた」…など枚挙に暇がない。「おふざけ」「いたずら」のレベルを超え刑事事案にすべき内容も多い。

 この日夜、同小学校で開かれた保護者説明会で仁王美貴校長(55)が処分を伝え謝罪した。柴田教諭の「取り返しのつかないことをして反省と後悔しかありません」という保護者への謝罪、「先生のような大人にならないでください」という生徒たちへの言葉を伝えた。

 新型コロナウィルスの影響で、保護者らを教室に集め、仁王校長と教頭が別室からライブ中継する前代未聞の説明会。まさに「保護者の皆さんが感染するのは勝手ですが私には移ささないでくださいね」と言わんばかり。おまけに2時間もの保護者会も保護者に直接対峙せずに済み、コロナウィルスに感謝といったところか。

 仁王校長は昨年、会見で「校長室が遠くて気づかなかった」ことを強調していた。校長になったのは昨年春だが、それ以前も同校で教頭として教員にずっと近い位置にいた。知らなかったはずはない。加害教員らは職員室内でも堂々と蛮行を繰り返し、激辛カレー事件についても隠すどころか生徒の前で自慢までしていたのだ。まともな神経なら辞表届を出してもいいはずの現校長の処分は3か月の減給10分の1という軽さだ。

 この事件をきっかけにした同市のハラスメント調査では別の学校で先輩教員が後輩に、蚕のサナギを無理やり食べさせる、丸刈りにするなどの仰天行為があったことも判明した。神戸の教員たちの程度の低さに言葉もない。「労働条件がきつい」と敬遠され教員のなり手不足となった結果、採用試験が易しくなりこんな連中でも合格できてしまったのか。

■「女帝」と報じられた女性教諭


 さて、市教委の発表で最も違和感を持ったのは、事件発覚後、「いじめの主導的立場」として「女帝」などと散々、報じられた45歳の女性教諭Hの処分だ。激辛カレー事件では自らはしゃぎながら食べさせ、生徒にも自慢げに話していた彼女は停職3か月にとどまった。調査委員会の報告では「激辛ラーメン」大会でも無理やり汁を飲ませたりしたとされている。それだけではない。「日常的に、被害教員を叩く蹴る、ビンタをする。椅子を蹴る」「児童の前で被害教員に『きもい』と言って被害教員の尻を蹴り腹を殴った」など、二人の男と比べると件数は少ないが、信じられない行為が認定されている。

 それにしても学校で教員が教員を罵倒して蹴るなど聞いたこともない。ヤクザなのか。

 H教諭が「指導力がある」と高く評価されていたのが筆者は不思議だった。28日の会見で長田淳教育長に問うと開口一番、「調査委員会の報告では首謀者とされていません。いろんな報道で黒幕のように言われている。どこからそんな話が出てきたのか。そのような事実があれば教えてください」と自信を見せた。調査委で「一部の報道のようにH教諭が他の加害教員を助長した関係は見られない」と認定したのを錦の御旗にしていた。そうした報道は「一部」などではない。ならば昨年、新聞、テレビ、雑誌などで報じられた「女帝」報道はすべて出鱈目かマスコミの捏造だったのか。それを問うと教育長は頷いた。多少の誇張はあったかもしれないがメディアも事件後、様々な人たちの話を直接、聞いている。調査委について長田氏が「よく調査してくれた」と強調するのも却って不自然に聞こえた。

 H教諭の評判がよかったのは、保護者会などで「声の大きい」(発言力の強い)保護者の子弟を可愛がり、そうした評判を流布させていたからだと筆者は想像する。保護者たちには「贔屓の激しい先生だった」という声が多かった。H教諭は児童の胸ぐらをつかんだり、椅子を引いて転倒させる、などという事案もあった。気に入らない児童だったのだろう。

 しかし、長田教育長は「生徒さんの気持ちを捉える力があったようです。よく観察していた」などと称えた。

 同教育長は「懲戒審査会では停職1か月としたのを(市教委は)3か月にした。厳しい対応を取った」と盛んに「厳しい処置」を強調した。1か月と3か月など大した差ではなかろう。そもそも3か月停職が厳しいのか。今後について「H教諭は停職期間が過ぎれば異動させる。教壇には立たせない」としたが「未来永劫にわたってとは判断できない」の但し書き付き。彼女は教員免状をはく奪されたわけではなく、「父兄たちから現場復帰の要望が強い」などと世論操作して戻す可能性も高い。

 二人の男性教諭は実名を出しながら、H教諭を匿名にし、驚くほど軽い処分にする市教委の対応は「H教員を守りたい何かがある」と感じさせるに十分だった。H教諭は教育関係者一族の生まれだ。父は教育委員会関係者、祖父は市教委の大物、兄二人も教員と教育委員会関係という。市教委にとって蔀教諭や柴田教諭はもはやどうでもいい存在だったが彼女だけは守らなくてはならなかったようだ。


■被害教員の今は


 この小学校、一年毎に校長が代わっている。前々校長が校長同士の話し合いで教員の人事異動ができるという独自の「神戸方式」でH教諭を垂水区の神陵台小学校から招聘した。次の芝本力前校長はH教諭と男女関係が噂されるほどに大事にした。「いじめはないな」と被害教諭を威圧し、訴えられないようにしてH教諭を守った。高圧的態度で「プチヒトラー」と言われ、被害教諭について「あいつは公開処刑や」と言ったり、「俺のメンツをつぶす気か」と懇親会の出席を強要した。芝本校長はH教諭と同じく停職3か月だけだ。

 蔀、柴田の二人は懲戒免職をまぬかれるものではないが、市教委は世間の目を「アホ男」二人の愚行に向けさせる陰で「女帝」Hを守っているとしか思えない。彼女の親族の教育関係者たちへの「忖度」だろう。兵庫県警は「暴行罪」などで書類送検する方向で加害教員らを捜査している。地元記者によれば、ある捜査関係者はH教諭について、「調査委員会の調査とは、全然違う結果になると思いますよ」と話している。

 さて、被害教員の健康状態、精神状態はかなり回復しているという。調査委の発表時に出したコメントでは、加害者へは「単なるいじりと思うかもしれませんが、やられている側は笑顔でいても辛い思いをしていることをわかってほしい」とし、生徒ヘは「君たちのおかげでもう一度立ち上がろうと思うことができました」と受け持っていた生徒から手紙で励まされたことを喜んだ。

 代理人の奥見司弁護士は「本人は早く復職したいと言っていますが、東須磨小学校へ復職するのは難しいのではないか」と話す。加害教員らは消えていても仁王校長を含め「見て見ぬふり」の教員仲間たちが残る職場に戻らなくてはならない。5年生を受け持っているから、4月から6年生になる彼らを再び受け持ってほしいとは思う。「本人は東須磨小学校に戻りたがっているのですか?」と筆者が長田教育長に聞くと「まだそれは聞いてません」。すでに事件発覚から半年経っているのに。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」「警察の犯罪」「検察に、殺される」「ルポ 原発難民」など。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年3月6日 掲載

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