「コロナばらまき男」を愛知県警が捜査開始 意外に高い“逮捕、起訴のハードル”

「コロナばらまき男」を愛知県警が捜査開始 意外に高い“逮捕、起訴のハードル”

"ばらまく男"起訴は困難とも

「コロナばらまき男」を愛知県警が捜査開始 意外に高い“逮捕、起訴のハードル”

愛知県警察本部(Kiyok/Wikimedia Commons)

威力業務妨害罪を視野と報道


 遂に司直の手が伸びる――。東京地検特捜部が政界にメスをいれたわけではないが、世論の関心は極めて高い。あの“コロナウイルスばらまくぞ男”に対し、愛知県警が捜査を開始すると報じられたのだ。

 ***

 YAHOO!ニュースのトピック欄は3月13日の朝、時事通信が配信した「コロナ『ばらまく』男性捜査へ 飲食店の従業員感染 愛知県警」の記事を掲載した。要点を列挙させていただく。

◆愛知県蒲郡市の男(57)は3月4日の夕方に検査で新型コロナウイルス陽性が判明した。

◆保健所が自宅待機を要請したが、男は外出。「菌をばらまく」などと発言していた。

◆男は市内の居酒屋とパブに立ち寄った。パブでは従業員の女性と密着し、肩を組んで歌うなどした。

◆パブ従業員で30代のフィリピン人女性のウイルス陽性が12日確認された。

◆事態を重く見た愛知県警は、威力業務妨害容疑などを視野に捜査を進める方針を固めた。

 NHKも同日、「NHKニュース7」(総合・19:00)でパブが被害届を出したことを伝えた。ニューズバリューを重く見たことが分かる。(註:NHK NEWS WEBで「“ウイルスうつす”と話し飲食店へ 店側『営業妨害』で被害届」と配信)。

 これらの報道に、ネット上では強い反応があった。ツイッターから一部をご紹介する。

《頼むから、蒲郡のコロナばらまき男を懲らしめてくれ〜》

《蒲郡の新型コロナウイルス感染発覚後に飲食店に行き、ウイルスを故意にばら撒き別の人に感染させた男の捜査に愛知県警が乗り出した件、支持する。当然》

《蒲郡のコロナ撒き散らし男の捜査がやっと始まったらしい。バイオテロだし当時その場にいた人の心身のダメージ半端ないと思うし早く捕まえてそれなりの刑罰与えて欲しい》(註:改行を省略した)

 時事通信は《威力業務妨害容疑などを視野に捜査を進める》と報じたが、元東京地検特捜部副部長で前衆院議員の若狭勝弁護士(63)も「それが最も現実的だと思います」と指摘する。

「威力業務妨害罪は、たとえ来店した男性が陰性だったとしても、罪が成立する可能性があるためです。店内で『俺は新型コロナに感染している。お前たちを感染させてやる』と嘘をつくだけで、逃げる人は多いでしょう。売上が減少したり、何日も閉店する必要が生じたりしたら、店の業務を妨害したと言えます。まして男性は、実際に陽性だったわけですから、業務を妨害した可能性はより高まるわけです」

 しかし若狭弁護士は1点、気になるところがあるという。「当日のパブ店内で撮影された動画も見たのですが、問題の男性は、それほど暴れていませんでした」と振り返る。

「大声で『陽性だぞ』と暴れたり、唾を周囲に撒き散らしていたりしたら、『威力』業務妨害罪が成立すると思います。しかし、少なくとも動画を見た限りは普通の客でした。そのため偽計業務妨害罪で捜査する可能性もあると思います。威力でも偽計でも、刑法は『3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する』と定めています」


■逮捕、起訴は可能なのか?


 いや、それでは世論は納得しないかもしれない。何しろツイッターでは《警察も動くの遅いよ、威力業務妨害容疑?傷害罪じゃないの?》、《威力業務妨害というより、傷害罪を適用できるだろ》という声もあるからだ。

 傷害罪は「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」と定められている。ツイッターでは厳罰を求める声も見受けられる。それこそ《蒲郡でコロナばらまいた奴死刑にしてくれ》という極論を書き込む人もいる。

 若狭弁護士は「威力・偽計業務妨害罪に比べると、傷害罪の適用はハードルが高いのも事実です」と解説する。

「まず、男性が『コロナウイルスをうつすかもしれない』、『ウイルスをうつしても構わない』と考えていたことを証明する必要があります。次に男性が女性に感染させた明確な因果関係も必要でしょう。被害者の女性が店に出勤してから、感染が明らかになるまでの行動を詳らかにし、男性しか感染できないことを明らかにしなければなりません」

 もし店舗で感染が拡大したら――関係者にとっては迷惑な想定なのはお許しいただきたいが――傷害罪の適用も実現性を増すという。例えば、合計で3人の女性が陽性となり、男がうつした可能性が濃厚という場合だ。

「現状のままで裁判になったと仮定しますと、弁護側は『女性が店内で感染したという明確な証拠がない』、『店以外の場所で感染した可能性も否定できない』などと主張すれば、検察側は反論に苦しむかもしれません。傷害罪の適用を求める世論があることは承知していますし、気持ちも充分に理解できますが、簡単にはいかない可能性があるのです」(同・若狭弁護士)

 今後の焦点は、男が逮捕されるかどうかだ。愛知県警が男の身柄を拘束する可能性は決して低くないという。

「世論は逮捕を期待しています。愛知県警も意識しているでしょう。どうしても身柄が拘束できないという場合でも、書類送検でもいいので事件化し、捜査機関として断固とした姿勢を示すことが重要です。今、日本国内が新型コロナに苦しめられている状況を考えれば、男性の行動は容認できるものではありません。社会的通念を、あまりに逸脱した行動です」(同)

 一方で、地検が起訴できるかというと、こちらもハードルは高いという。

「男が犯した罪を勘案すると、地検が立件に踏み切る可能性は低いと言わざるを得ません。だからこそ、私は逮捕することが重要だと考えます。他人に新型コロナを感染させるような行為は断固として許せない、という姿勢を見せることが必要です」(同)

「一罰百戒」という言葉もある。『広辞苑 第七版』(岩波書店)は「一人を罰して、多くの人の戒めとするところ」と定義している。愛知県警に期待されている役割と言えるだろう。

 更にツイッターでは《コロナばらまくとか言ってた蒲郡のど阿呆は、民事と刑事の両方で締め上げたれ》と民事訴訟に期待する声もある。

 だが、男が訪れた2店舗だけでなく、近くの飲食店などは、今も風評被害に苦しんでいる可能性が高い。世論は同情的だ。蒲郡市の飲食店が一致団結して原告になっても、応援する人は大いに違いない。

「もちろん2店舗は明確な被害を受けている可能性が高いので、損害賠償を求める民事訴訟は可能だと思います。しかしながら、他のお店となると、たとえ隣接する店舗であっても、民事訴訟は難しいでしょう。今のところ、新型コロナウイルスは接触感染するものであって、空気感染の実例は報告されていません。損害賠償を求めるためには、男性が店に入ったという事実が必要だと思われます」

週刊新潮WEB取材班

2020年3月15日 掲載

関連記事(外部サイト)