タワマン残酷物語 住民は“上京したプチ成功者”、階層ヒエラルキーで上階へ引っ越しも…

タワマン残酷物語 住民は“上京したプチ成功者”、階層ヒエラルキーで上階へ引っ越しも…

タワマンでは“階層ヒエラルキー”なるものまで存在する(写真はイメージ)

 前記事「タワマンの実態は『超高層レオパレス』 脆弱な外壁と修繕不可で“45年限界説”」で不動産ジャーナリストの榊淳司氏が指摘するのは、タワーマンションの構造的な弱点だ。鉄筋コンクリートが壁に使用されることが少なく、また通常のマンションに比べて修繕工事も困難……。ゆえに「タワマン45年限界説」を唱える榊氏は、その“内側”にも、タワマン特有の問題があると述べる。

 そんな問題だらけのタワマンをいったい誰が買っているのか。あるいは、今まで誰が買ってきたのだろうか。

 台風被害にあった武蔵小杉エリアのタワマンをみても、価格は決して安くはない。駅近の中古タワマンなら、坪単価300万円台の半ば。条件の良い住戸なら坪単価400万円も見えてくる。それは山手線内の文京区で、それなりのマンションが買える価格水準だ。にもかかわらず、武蔵小杉でタワマンを選んだ人々が大量にいる。

 そういう価格帯のマンションを買えるのは、世帯年収1500万円以上のファミリーだ。

 私は去年6月に上梓した『限界のタワーマンション』(集英社新書)の取材の際に、武蔵小杉のタワマン購入者が湾岸エリアのそれと属性が似ていることに気付いた。武蔵小杉でタワマンを購入した人々は、湾岸と比べてどちらにするかを迷ったはずだ。そういった都内近郊タワマン族は、ひとくくりにまとめてこう呼ぶことができる。

「ニューカマーのプチ成功者」

 大学入学か就職時に東京にやってきて、ある程度の成功をおさめた人々。年収で言うなら2千万円あたりまでだろう。彼らが家族をもって、「それでは家でも買おうか」となった時に、選択肢の上位に現れるのが湾岸や武蔵小杉にあるタワマンなのである。

 ニューカマーというのは、東京のどこかに愛着があるわけではない。荒漠たる埋立地に林立しているタワマン群の風景に、何ら違和感をもたない。また、いかにも低地だと思わせる地形である武蔵小杉でタワマンが何本もそそり立っている風景に、近未来的な魅力を感じたのだろう。

 私が知る限り、何代にも亘って東京で富裕層として暮らしてきた人々は、湾岸や武蔵小杉でタワマンを購入していない。一方、東京でそれなりに成功した人にとって、タワマンに住むというのは自身のステイタスが向上したことを実感できる証みたいなものではないか。

 そんな彼らにアンケートを取ると、最も関心が高いのは自分の住むマンションの「資産価値」だった。

 去年の台風の際も、47階建てのタワマンが被害にあいネット上でその話題が拡散したが、ごく初期の段階では別のマンション名が間違って示されていた。その後、間違われたマンションの管理組合はSNSなどを利用して、盛んに「当マンションは電気もトイレも通常通り使用可能」であることをアピールしていた。間違われて資産価値に影響することを避けたかったのだろう。

 ニューカマーのプチ成功者にとって、高額の住宅ローンを組んで購入したタワマンは大切な資産である。それも、「唯一の」といっていい資産かもしれない。その虎の子の資産が、予想外の水害によって被害を受けるというのは、まさに「想定外」の事態ではないか。

 台風の被害が出たときも、当該タワマンの住人たちはマスコミの取材に一切応じようとしなかった。それもそのはずで、もし大々的にマンションの名前が出てしまえば、自分たちの資産の価値も大きく下がってしまうと思ったのであろう。

 またタワマン住民にとって、自分がどの階層に住んでいるのかはとても大事なことだ。それは自分自身の“資産価値”に直結する話だからである。


■階層ヒエラルキー


 4年ほど前のテレビドラマで「砂の塔」というのがあった。タワマンに住む幼稚園ママコミュニティが舞台で、高層階の住人が低層階ファミリーを露骨にマウンティングするシーンが大きな話題を呼んだ。いわゆるタワマンの“階層ヒエラルキー”を扱った作品だ。

 タワマンの住民の一部には、“階層ヒエラルキー”なんてありえないと主張する方もいる。買って住んでいる人からすれば、そういったものがあって、自分たちが見栄っ張りだと思われるのが我慢ならないのだろう。だが、存在するかしないかといわれれば、それは確実にある。

 私の知り合いに湾岸エリアで子ども向けの英会話教室を経営しているご夫妻がいて、当然のことながら、タワマン住民の方々ともお付き合いがある。その方に「タワマンで階層を気にする人って、本当にいるんですか」と尋ねてみたことがある。

 彼らの答えは「いっぱいいる。というよりも、ほとんどのお母さんがそのことを気にしている」というものだった。なかには、それでノイローゼになって引っ越した人もいるそうだ。そればかりか、最初は15階あたりに住んでいたものの、階層ヒエラルキーが気になって、24階、42階と上り詰めていった人までいたという。

 小さな子どもたちの間でも、「お前は18階だろ。俺んちは45階だ」と階層ヒエラルキーが発生したりすることもある。

 タワマンの住人というのは、とりわけ数字で分けられるヒエラルキーには敏感そうだから、それが自然と子どもの感覚に反映されるのかもしれない。

 外見は立派でも、中身は「超高層レオパレス」。15年ごとに大規模な修繕が必要で、住民たちは自らの“資産価値”に囚われ、“階層ヒエラルキー”なるものまで作り上げている。タワマンとは、実際、かなり歪(いびつ)な集合住宅ではないか。

 それでも都心の一等地なら、土地に限りがあるのでタワマンのような超高層集合住宅を作る必要もあるだろう。だが、わざわざだだっ広い湾岸の埋立地や、武蔵小杉のような郊外に作る必要はないはずだ。

 欧米人はタワマン的な住宅での子育てを好まない。「ふさわしくない」と考えているのだ。中学受験を専門にしているベテランの家庭教師は「タワマンの子は成績が伸びない」と断言している。外出が少ないタワマンの子どもは屋外の自然現象を肌感覚で理解できにくく、それが理科などの成績が伸びないことにつながっているのだという。また、高層建物の住人が急病などで救急搬送された場合、階数が高くなるほど生存率が低いという、カナダの研究機関の調査もある。あたり前だが、低層階よりも上下の移動時間がかかるからだろう。

 多くの人が憧れるタワマンという住形態は、見た目の立派さとは裏腹に多くの問題や矛盾を含んでいる。住み始めの数年間は、快適で楽しいだろう。豪華な共用施設が揃っているタワマンもある。

 しかし、そういった華やかさの向こうに何があるのかも、しっかりと知っておくべきではないだろうか。

榊淳司(さかきあつし)
不動産ジャーナリスト。1962年京都市生まれ。同志社大学法学部、慶應義塾大学文学部卒。1980年代後半から30年以上、マンションの広告、販売戦略に携わる。著書に『限界のタワーマンション』『マンション格差』など

「週刊新潮」2020年3月19日号 掲載

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