コロナ拡大と“風呂好き清潔”日本の関係は(中川淳一郎)

コロナ拡大と“風呂好き清潔”日本の関係は(中川淳一郎)

イラスト・まんきつ

 日本で新型コロナウイルスの感染者数が意外と少ないことが世界各国で報じられています。震源地の中国から近いし、初期の頃から感染者が出たのになぜ?と。検査数が各国に比べて少ないのが大きな理由ですが、「風呂好きで清潔だから」に加え、「うがい、手洗いをしよう」という教育が行き届いていることもあるのではないでしょうか。

 ヨーロッパ在住者のSNSを見ると「こっちの人は4日間風呂入らないのは当たり前」なんて声が多い。

 今はなき韓国発のニュースサイト「オーマイニュース日本版」でかなり読まれた記事が「フランス人“セックスの前にシャワーを浴びる日本人の感覚は理解に苦しむ”」でした。2007年の記事ですが、要約すると、「フランス人にとっては、汗も含めた身体のにおいこそアノ行為をするにあたっては重要」という内容。当時のネットの声は「清潔にしてからやれ」と反応しましたが、我々とは感覚がこれほど違う、ということでしょう。

 1980年代後半〜90年代前半、アメリカで高校生活を送った私が驚いたことのひとつが、同級生のトイレでの作法です。用を足した後でアメリカ人は手を洗わない。「おい、お前、手を洗わないのかよ?」と聞いたら、チッチッチッと指を振り、こう言います。

「お前達日本人は『便所で用を足したら手を洗いなさい』と教育されているだろうが、オレらアメリカ人は『小便を手にかけないよう気を付けろ』と教育されているんだよ」

 彼の言い分にはポカンとしたものの、衛生観念については各国それぞれなのは分かりました。当時、自分は日本人だと言うと、彼らは気持ち悪そうな表情を浮かべ「お前ら生魚を食うんだろ?」なんて言うのです。スシはもう東海岸や西海岸ではそれなりに普及していたものの、私がいた中西部にはまったくなかった。魚の生食は野蛮人の象徴と見られていました。

 2002年2月、アフガニスタンに赴き、カメラマン、現地のコーディネーターと車に乗ってパキスタンとの国境に向かっていた時のこと。突然、銃を持った男が我々の車を停めました。「殺される」なんて思っていたら老婆と少年が乗ってきた。

 どうやら隣の村までこの2人を送ってあげてほしい、ということのよう。私は車の荷台部分に移り、2人に後部座席を譲りました。ところが、老婆が持っていた鶏が突然コケッコケッと騒ぎ始め、卵を産むではありませんか。

 老婆は車に乗せてくれた謝意を示したいと考えたのか、私にその卵を渡します。このまま持っていても料理なんてできないし、どうすればいいんだろうと一瞬悩んだのち、このまま食ってやれ、と卵を割って生のまま飲み込みました。

 すると老婆と少年は抱き合い「この人怖い!」みたいな表情を浮かべます。日本の卵は衛生的だから生で食べられるけど、それは世界のスタンダードではない。私はアフガン人から不潔な人扱いされました。

「食」以外については海外から潔癖だと思われている日本人ですが、今回はそれが若干功を奏したのかもしれませんね。というか、まだそう言うには早いけど。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

2020年4月2日号 掲載

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