コロナで続くトイレットペーパー品薄 試される民度…買い占め不要を数字で読み解く

コロナで続くトイレットペーパー品薄 試される民度…買い占め不要を数字で読み解く

店頭に掲示されている注意書き

 新型コロナウイルスは、われわれの生活を一変させた。休校やテレワーク、入念な手洗いうがい……。薬局やスーパーで「トイレットペーパー」を見かけると、つい、買いたくなってしまう心理も、ウイルスが生んだ「病」かもしれない。コロナ禍の流通事情について取材を続けてきたアナリストの渡辺広明氏が、そんな行動に警鐘を鳴らす。

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 ここ数カ月、流通アナリストという立場から、テレビのワイドショーをはじめとしたメディアにお招きいただき、「コロナ状況下の品薄」についての解説やコメントを求められてきました。今回、あらためて、取材の過程でわかってきた「数字」を整理し、お伝えしようと思います。

 聞かれることが多かった質問は、まず「マスク不足はいつ解消するか?」ということ。こちらについては「まだしばらく、世界的なマスク不足が続くかもしれません」と答えてきました。もっとも日本では、「世帯で2枚」の布マスク配布が決まったため、「マスクがなくて不安」という状況は、ほんの少しだけ解消されたのではと思います(この対策には賛否はあるようですが)。

 ちなみに、おなじみの不織布マスクのうち、世界の供給分のおよそ半分が、中国で生産されているといわれています。日本で流通するうちの、4分の3程度が中国産でした。中国国内におけるマスク不足がいわれはじめたのが1月半ばで、日本で実際に「買えなく」なったのは、だいたい1月の終わり頃。3月の中旬ぐらいから徐々に中国からの輸出が再開されてはいるものの、いまも店頭で見かけないのはご存じのとおりです。

 背景にあるのは、昨今、アメリカやイタリアなど欧州で感染が大拡大したことで、マスクをしていなかった人たちも、マスクをする必要がでてきたから。新たな需要が発生してしまったことで、混乱が続いているようです。マスク戦争の様相を呈しており、だから世界に目を向ければ、マスク不足の状況はしばらく続くといえるでしょう。

 それでも5月中旬ぐらいには、現在よりも少しは多く、不織布マスクが日本国内に流通するようになるはず。ただ、これまでの状況を踏まえれば、われわれがすべきなのは、使い捨てマスクから洗えるマスクへの“シフトチェンジ”であることは間違いありません。

 その点、トイレットペーパーはマスクとは明確に違います。

 トイレットペーパー不足の解消も、よく尋ねられる質問でした。まず、トイレットペーパーに関しては、そもそもの発端が2月末ごろからはじまった「デマ」で、マスクのように需要が拡大して品薄になったわけではありません。ウイルスがまん延したことで、普段はマスクをしていなかった人でもマスクが必要にはなりますが、普段、トイレットペーパーを使わない人がいたわけではありません。われわれが「出す」量だって平時と変わらない。しかしながら、多少マシになったものの、いまもトイレットペーパー不足は続いています。

 その多くが日本産であるというのも、マスクとトイレットペーパーの大きな違いです。日本家庭紙工業会によれば、その約98%が国内生産。ですから、コロナで打撃をうけた中国の生産状況とは、関係がない商品なのです。

 同工業会は、ひとり当たりの月の消費量は「4ロール」というデータも発表しています。これに対する生産量(供給量)は、紙製品の卸問屋によると、月ひとりあたり換算で「6ロール」。平時であれば月ひとりあたり「2ロール」の余裕があったわけです。

 やや乱暴な計算になりますが、これを日本の人口約1億2600万人に換算すれば、月の消費量が「約5億ロール」であるのに対し、生産量は「約7億5000ロール」。平時であれば月に「2億5000ロール」の余剰確保ができていたことになります。

 さらに私が取材したところでは、ベンダー(小売店)と卸問屋は、それぞれ、1・5か月分の在庫を確保するようにしていたそうです。月ひとりあたりでいえば、月4ロール×3カ月で、12ロールの在庫があったということになります。生産における「2ロール」の余裕とあわせれば、日本国民には、月ひとりあたり「14ロール」も、余裕があったわけです。

 ところが、デマを発端にした買い占めによって、購入量は平時のだいたい5倍になったと、関係者はいいます。月4ロールの消費に対する5倍とすれば、需要がとつぜん、月「20ロール」に。平時の余裕「14ロール」を上回る購入需要が、品不足を生んだのです。


■デマだとわかっていても…


 もっとも、ネット上には早くから「トイレットペーパー危機」をデマだと指摘する声は多くあり、私は、買い占めはすぐに収束するものと見ていました。ところが、デマだと分かっていても、開店前の薬局に行列ができ、目の前でトイレットペーパーが買われるのを見ると、ついつい自分も……となってしまうのが人の性。これを「バンドワゴン効果」といいます。

 またコンビニに、トイレットペーパーがないというのも大きかった。これは単純に配送の関係で、コンビニ全店に一度に行きわたらないのが理由なのですが、普段行くコンビニに品物が「ない」というのは、薬局以上にインパクトが大きい。なおさら、「あったら買っちゃう」状況を生んだように思います。

 繰り返しになりますが、コロナ禍であろうとなかろうと、私たちの“排出量”は変わりません。トイレットペーパーの消費は増えないのです。

 自宅の備蓄が十分と認識されたためか、ひところより買い占めの動きはなくなりました。薬局の棚にもトイレットペーパーを見かける機会は増えましたが、それでも「1家庭1点まで」の注意書きは残ったままです。

 そこにきての、緊急事態宣言です。ふたたび買い占めに走る動きが起きるかもしれません。外出を控えるために買っておこうという気持ちになるかもしれませんが、ここまで述べてきた余裕ある「供給」量は変わりませんし、スーパーや薬局など、購入先は引き続き営業しています。ですから冷静になり、我先にトイレットペーパーを買い求めるような真似はやめましょう。トイレットペーパーに、日本の民度が試されていると、私は思うのです。

渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
流通アナリスト。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務など幅広く活動中。フジテレビ「FNN Live News α」レギュラーコメンテーター、デイリースポーツ紙にて「最新流通論」を連載中。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年4月8日 掲載

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