【コロナ禍】高3受験生も「全く授業がない」異常事態 都立の名門「日比谷・西・国立」に取材した

【コロナ禍】高3受験生も「全く授業がない」異常事態 都立の名門「日比谷・西・国立」に取材した

東京都立日比谷高等学校(Rs1421/Wikimedia Commons)

■優等生は自習も楽勝?


 2002年とは、どんな年だったか。時事通信の「2002年10大ニュース」は、9月に行われた初の日朝首脳会談を1位に選んだ。10月には拉致被害者5人が帰国を果たした。

 ***

 同年の「ユーキャン新語・流行語大賞」を調べてみると、「タマちゃん」と「W杯(中津江村)」の2つが受賞している。

 前者は8月7日、アゴヒゲアザラシが多摩川丸子橋付近で発見され、一大ブームが起きた。

 後者は5月にサッカーの日韓共催W杯が開催、カメルーン代表が大分県中津江村を公認キャンプ地とし、こちらも多くのメディアが詰めかけた。

 02年に生まれた著名人と言えば、例えば7月19日生まれの棋士・藤井聡太(17)や、同月21日生まれのフィギュアスケート選手・紀平梨花(17)となる。

 なぜ02年について詳述したか、それは現在の高校3年生が生まれた年だからだ。

 東京都の教育委員会は4月1日、都立高校について「5月の大型連休が終わるまで休校」と決めた。言うまでもなく新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためだ。

 都立高は3月から休校となっており、春休みを挟み、生徒たちが学校に通えない状態は最低でも5月まで続く。まさに異常事態と言っていいだろう。

 産経新聞は4月1日(電子版)、「新学期休校『新高3生、受験に響く』 都立高、4月は授業多い1カ月」との記事を配信した。

《新学期の授業時間の多い貴重な1カ月を“ロス”することになり、学校関係者から大学受験を控える新高3生への深刻な影響を懸念する声が上がった》

 授業がない悪影響は誰でも理解できる。とはいえ、具体的にどんな弊害があるのか、イメージすることは難しい。

 そこで都立高屈指の進学校に取材を依頼し、現場で今、何が起きているのか教えてもらうことにした。

「週刊朝日」4月3日号には、「2020入試速報 大学合格者高校ランキング(6) 東大」が掲載されている。

 この表によると、日比谷高校は現役と浪人を合わせて40人が東大に合格している。全国の東大合格ランキングでは13位、都立高だけを見ると1位だ。

 現浪合わせて20人の西高校は、全国ランキングでは32位だが、都立高では2位。国立高校は現浪合わせて16人で、全国は42位、都立高では3位だ。

 この3校の現状を、ご紹介しよう。最初は文書での回答となった国立高校だ。質問の第1点として、臨時休校がスタートした日付と、登校日の設定について訊いた。

《臨時休校は3月2日から今まで続いております。2年生(編集部註:4月から3年生)については課題提出のための登校日を設定しました》

 質問の第2点は、今の3年生が3月から4月にかけ、例年はどんな高校生活を送っていたのか訊いた。

 私立の中高一貫校など一部の進学校では、高校2年生で3年生までの授業を終えてしまい、3年生は4月から大学受験対策のカリキュラムを組んでいる。

 国立高校の3〜4月は、どんな感じなのか、回答をご紹介しよう。

《3月は期末考査後、行事が詰まっています。3年生は4月早々に修学旅行(関西方面)にいき、新入生歓迎会、第九演奏会、クラスマッチとGW明けまで行事が詰まっており意識の高い生徒とのんびりした生徒ではかなりの差が出ると思います》


■「勉強するしかない」


 産経新聞は高校生にとっての4月を《新学期の授業時間の多い貴重な1カ月》と指摘したが、少なくとも国立高校は違うようだ。

 回答には「行事が詰まっており」とあるが、そのクライマックスが9月の文化祭だという。

《国立高校は、9月の文化祭での3年全クラスの演劇が全国的に有名で「日本一の文化祭」といわれております。この演劇をしたくて国立高校に入学する生徒も多いです》

 例年なら、文化祭までは受験勉強の絶対的な時間が減少してしまうが、秋からの追い上げでキャッチアップする生徒も決して少なくないようだ。

《9月からの切り替えの早さと地頭の良さでなんとか間に合わせているのが実情で今でも優秀な進学実績を出しているのですが、2年生から3年生の最初の時期までにもっと勉強させるにはどうしたらよいかが学校としての大きな課題です》

 国立高校は今年の現状を《非常に心配しています》と憂慮を示すが、これを好機と捉えることもできるようだ。

《いつもなら行事で忙しい時期に何もできないので「勉強しかすることがない」という生徒も多くいます。この時期の過ごし方で、結果が大きく違ってくるだろうと考えています》

 とはいえ、《しかし、3年生の科目については明らかに出遅れてしまいます》は文字通りリアルな分析だろう。《全国の高校生との戦いという目で見るとかなりのハンデになると思います》と指摘するが、これも本音に違いない。

 例えば、現浪合わせて24人の東大合格者を出した富山県立富山中部高校は、「週刊朝日」のランキングでは全国29位となっている。

 地元の富山テレビが4月2日(電子版)に報じた「富山県内 小中高校の新学期は」によると、県立高校は予定通りに新学期を始めるという。受験は自分との戦いであり、他校の動向は無関係だとはいえ、やはり気になる生徒もいるだろう。

 もし新型コロナの感染スピードが落ち、都立高の5月再開が現実のものとなれば、《7月まで授業期間を延ばさざるを得ないのではと思います》という。まずは夏休みを削るというわけだ。

 次は都立高1位の日比谷高校だが、直近の影響で言うと、修学旅行が中止になってしまった。武内彰校長が言う。

「例年であれば、3月の中旬に2泊3日で京都へ行きます。学校行事も生徒たちの成長に重要なのは言うまでもありません。仕方ないことではありますが、生徒たちだけでなく、私たち教師にとっても残念な結果となりました。今後の行事も不透明ですから、これも大きな不安要素です」


■「期待が半分、不安が半分」


 日比谷高校の「三大行事」と言われているのが、5月の体育大会、6月の合唱祭、9月の星稜祭、つまり文化祭だ。

「特に高3生は、入学から2年間の経験も踏まえて、高校最後となる行事に強い想いを持っていた生徒も少なくありません。例年であれば、行事に全力を尽くしてから、『さあ、いよいよ大学受験だ』と切り替える生徒もいました。ところが今年の場合は、なかなか切り替えられない生徒がいるのではと心配しています」(同・武内校長)

 読者の中には「日比谷高校の生徒くらい優秀なら、自習でもしっかりと勉強できるのではないか」と考える向きもあるかもしれない。だが武内校長は「生徒たちの学力形成については心配しています」と不安を率直に明かす。

「どんな高校生でも、自宅で1人きりで勉強を続けるのは、モチベーションが続かなくて当然でしょう。学校で友達と一緒に学ぶメリットは数えきれません。クラスという集団に対して授業を行うのは、やはり大きな意味があるのです」

 日比谷高校は、「将来、各界でリーダーとして活躍できる生徒になってほしい」という目標を掲げている。実現を目指すためにも、教室での授業は大事だという。

「日比谷高校は、短期的な大学受験対策だけを授業の目的とはしていません。リーダーシップを養成するためにも、例えば授業で対話を重視してきました。教師と生徒の対話だけでなく、生徒同士の対話を促す内容です。国語や英語はもちろん、より様々な教科で取り組みを重ねてきました。こうした授業が少なくとも5月までできないわけですから、その損失は決して小さくはありません」(同・武内校長)

 西高校の萩原聡校長に「高3生は自習ができますか?」と質問すると、「半分は大人、半分は子供という年齢ですからね。『やってくれる』という期待が半分、『やってくれるかな』という不安が半分というところでしょうか」との答えだった。

「毎年、同じであるとは言えます。自分を律して勉学に励むことのできた生徒は、志望の大学に合格します。それができなかった生徒は、残念な結果に終わるものです。とはいえ、新型コロナにまつわる現状は、人生で何度も経験するようなものではありません。生徒への影響は、未知数というのが正直なところです」

 しかし萩原校長は、「どれだけ学校や生徒にとって厳しい状況でも、世の中の状況は、更に比べものにならないほど厳しいのは事実です」と指摘する。

「勉学や学校行事に弊害が出ているとはいえ、私たちが直面しているのは新型コロナということを忘れるわけにはいきません。西高校の生徒は、もちろん自分の身を守ることが重要ですが、それ以上に他者の命を守ることが求められています。新型コロナ対策が生徒を成長させるきっかけにもなると、プラスに受け止めることも重要でしょう。特に高3生は自習だけでなく、新型コロナに関する書物を読んだりして、今、世界で起きている現象について考えを深めてもらいたいですね」

 西高校は一昨年からスマホを使った授業を積み重ねてきており、自習を支援するツールとして使用できないか、学校で検討中だという。

「大学進学率の高い高校では『来年に大学受験が行われるのか』と不安視する声もありますが、就職率の高い高校は『果たして求人票が出るのか』と心配しています。全国の高校が不安を抱えています。高校生の皆さんは自分を律し、自分を真っ直ぐに見つめ、日々を過ごしてほしいですね」(同・萩原校長)

 今の高校3年生は、大学入試改革に振り回されてきた経験を持つ。英語民間試験と記述式問題の導入が発表されながら、最後は見送られた。何ごとにも動じない精神力を持っていれば良いのだが……。

週刊新潮WEB取材班

2020年4月13日 掲載

関連記事(外部サイト)