【コロナ禍】東京出張から帰ったら感染者扱い――地方に広がる予防策で夫婦の間に亀裂

【コロナ禍】東京出張から帰ったら感染者扱い――地方に広がる予防策で夫婦の間に亀裂

東京出張から帰ったら感染者扱い…(※写真はイメージ)

■防衛策か? 偏見か?


 全国の地方在住者にとって、東京都民や出張などで東京に行った者は、誰でも「新型コロナウイルス感染者」――。差別や偏見といった言葉を使うべきかは分からないが、そんな風潮が顕著になっているという。まずは東京と長野県の往復が日常と化している、50代の男性自営業者の体験談に耳を傾けていただきたい。

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「生まれも育ちも長野県で、大学入学で上京し、就職も都内の会社でした。その後、東京で会社を立ち上げ独立しましたが、従業員は私だけ。そして数年前、共に80代の両親の介護が必要となりはじめたのを機に、実家でも仕事ができる環境を整え、妻には長野に移住してもらい、私は東京と長野の往復生活をするようになりました。その際、父が田畑を所有していたので、農業も新規事業として挑戦することにしたのです」

 介護と農業に従事するのだから、長野に軸足を置いた東京との往復生活である。そこに新型コロナウイルスが発生した。

「これまでも東京には定期的に出張していました。3月下旬にも東京に行っています。今回の出張は4月6日から8日までの2泊3日、緊急事態宣言が出される前に決まっていました。取引先に商品見本を見せなければならなかったのですが、その予定は1カ月ほど前に決まっており、先方の意向は『これまでと同じく現物を直接見せて、商品の説明をしてください』というものでした。加えて、新しく外部の人と組んで仕事をすることになり、これも1カ月ほど前に顔合わせの会食の予定を組んでいました」

 顔合わせについては、会食は中止にして電話やテレビ会議も検討した。だが、関係者全員が「コロナで大変な時期だけど、集まるのは4人だけだし、長く信頼関係を築いていくためには当初の予定どおり会食をしましょう」と意見が一致した。

「会食は先方が行きつけだった浅草の小さな飲食店で行いました。もともとお酒を呑まない方ばかりだったので、私もビールを1杯しか飲みませんでした」

 取引先に商品見本を見せ、浅草で顔合わせをするなど慌ただしく動き、男性は安倍首相が緊急事態宣言の記者会見を行った4月7日の翌日、高速バスで長野県に帰った。そして帰宅してみると、妻が勤務先から「2週間の出勤自粛」を要請されたことを知り、腰を抜かしそうになったという。

「妻は障害者就労支援施設で働いています。週に4日間のパートタイムで時給制です。田舎ですから、上司は私のことも知っています。何かの際に『最近、ご主人は東京に行ってるの?』と訊かれたそうで、妻は正直に答え、『勤務を休んだほうがいいですか?』と自分から提案したそうです。障害者が身近にいるので、通常の職場とは違いますからね。上司は少し迷う素振りも見せたそうですが、最終的には『そうですね』と出勤自粛を持ちかけられたとのことです」

 安倍首相は緊急事態宣言を発令した際、「人と人との接触を7割から8割削減すことが前提だ」と呼びかけた。

 男性が驚愕した理由に「コロナ問題が発生して以降、東京に出張しても、人との接触は8割減どころか9割くらいに激減しているはず」という感覚もあった。

「コロナの影響で、電話やメールで要件を済ます取引先の人も多いんです。長野から東京に向かう高速バスも、乗客は私を入れて2人だけ。浅草で会食をした時も、外国人だろうが日本人だろうが観光客はいない。街は閑散としていました。飲食店の客も、私たちだけでした。いつもの東京出張とは比較にならないほど人に会っていないのに、妻の職場の人たちは『ご主人は感染していてもおかしくない』と判断した。率直に言ってショックでしたし、驚きました」

 男性の驚きを倍増させたことの1つに、妻も「店長の判断は当然」と思っていることもあったという。

「妻は『夫が東京に行ったのだから、出勤自粛は当然だし、休業補償の必要もない』という考えなんです。彼女の上司も、休業補償には言及しなかった。私なら自粛を受け入れるか分からないし、受け入れても休業補償は要求すると思います。長年、連れ添った夫婦でも、かなり考えが違うことを思い知らされ、これもショックでした。夫婦喧嘩はしたくないので妻の意思を尊重しましたが、『周囲の人たちは私のことを感染者と恐れているのかな』とか、『この時期に東京へ行くことが非常識と思われたのかな』という不安が何度もよぎりました」


■「県外から来た人は感染者」


 長野県のローカル紙である信濃毎日新聞は4月9日、サイト「信毎web」に「新型コロナ 県内新たに感染者5人 1日で最多」と報じた(註:引用は全角数字を半角にするなどデイリー新潮の表記法に合わせた。以下同)。

 記事には《県内での感染確認は19人になった》という記述もある。東京と比べれば、格段に少ない。

 こうなると、東京への出張者に対して、ニューヨークやイタリアからの帰国者と同じ印象を持たれても仕方がないのかもしれない。

「県内感染者の大半は、実際のところ、東京や大阪に行って感染した県民です。おまけに妻の周囲は、『この時期に東京へ行く身内なんていない』という人ばかり。長野の人たちがそう考えるのは、民放のワイドショーやテレビニュースが与える影響も大きいのではないでしょうか。地方局であっても、地元ニュースの時間は短く、キー局の放送が大半を占めます。長野県のテレビにも『【速報】都内、今日も新たに100人以上の感染が発覚』という感じでデカデカと報じられるわけですから、東京が非常に危険なところというイメージを持つ人が増えても不思議ではありません」

 この男性が、たまたま宇都宮市に住む知人と連絡を取り、妻の出勤自粛問題を話すと、「同じことは宇都宮でも起きているよ」と教えられたという。

「気がかりなのは、コロナ感染のリスクは議論しても妥協点が見つからないということです。『東京に数日滞在したくらい、どうってことないだろう』という人と、『今の東京には感染リスクがある』という人は、いくら議論しても平行線でしょう。私たち夫婦と同じように日本全体にも、ある種の断絶が生じてきているようで、それも気がかりですね」

「県外から来た人は感染リスクのある“危険人物”と見なす」という方針を、明確に示した自治体もある。日本経済新聞は4月7日(電子版)、「秋田県、来県者は2週間外出自粛を要請 感染拡大で」と報じた。

《秋田県は新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、県外から来た人に2週間程度外出を自粛するよう要請した》

 こうした傾向は、全国で広がっているようだ。政治を担当する記者が言う。

「国会議員は平日なら東京で働き、週末は地元に帰って政治活動をするというのが基本中の基本です。ところが複数の国会議員が『地元の後援会から、今は感染が怖いから帰ってこなくていいと言われた』というグチを耳にすることが増えています」

 地方在住者が都民を“バイ菌”扱いするのはやむを得ないのかもしれないが、それを都民は肯定するのだろうか、あるいは猛反論するのだろうか。

週刊新潮WEB取材班

2020年4月14日 掲載

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