新型コロナで亡くなった家族との最後の対面はなぜ許されないのか “おくりびと”も苦悩

「感染予防のため火葬場にも行けなかった。顔を見ることも、骨を拾うこともできなかった……」

 コロナウイルスに感染して亡くなった志村けんさんの兄の知之さん(73)が、報道陣の取材に応じ、声を詰まらせた姿が記憶に新しい。実際のところ、遺体はどう扱われたのか。

「志村さんは3月29日午後11時10分に新宿区の病院で亡くなり、全身消毒が施され、納体袋に詰められて、同区内の斎場に運ばれました。そして、納体袋ごと棺に入れられて、2日後の31日午後5時過ぎには荼毘に付されたようです」

 こう教えてくれたのは、都内の中堅葬儀社社員だ。

 通常、病院で亡くなると、まず自宅か葬儀会場に運ばれるのが一般的。多くの場合、その後、死装束かお気に入りの服に着替えさせて納棺。葬儀会館で通夜と告別式を経てから、火葬場へ運ばれる。ただし、死亡後24時間以内の火葬が禁じられている上、都内では火葬の予約がなかなかとれない。早くて死亡の3、4日後なのが現状なのだ。

 ところが、「新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令」が、この1月28日に急遽公布された。新型コロナウイルス感染症が、エボラ出血熱(1類感染症)、結核(2類感染症)、コレラ(3類感染症)などと同等の法律(「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第30条」)扱いとなったのだ。したがって、「遺体の移動の制限・禁止」が定められ、病院から火葬場へ直行しなければならない。遺体への消毒も必至。また、必須ではないが「24時間以内の火葬」も認可されている。志村さんの遺体は、この法律に則って扱われ、一般の遺体より早いスピードで火葬されたわけだ。

「志村さんのような火葬は、特別枠です。他の会葬者との接触を避け、その日の全ての火葬が終了した後に行うよう配慮された。厚労省から火葬行政へ、遺体を非透過性納体袋に収納・密封するよう連絡文書が出ていて、ホームページにも載っています。『通常の葬儀の実施など、できる限り遺族の意向等を尊重した取り扱いを』とも書かれていますが、現実問題、遺族が納体袋を開けて故人の顔を見るのすら不可能だった」(同)

 志村さんの場合、さらに「火葬場に行き、せめて骨上げをしたい」という遺族の思いも叶わなかった。それはなぜか。

「一つは、遺族には故人と濃厚接触した人がいる可能性が高く、火葬場の職員に感染する危険があるからです。もう一つは、ものものしい防護服やゴーグルを着用した職員の姿や、徹底的に消毒するところなどを遺族が目にし、さらに悲しませるのを避けるためでしょう。火葬場から各葬儀社へ3月半ばに送付された『新型コロナウイルス感染ご遺体の対応について』の文書には、親族5人まで立ち会いが可能と記されていますが、大事をとった」(火葬場OB)

 棺が火葬炉に入る時の立ち会いも、火葬終了後の拾骨も、火葬場職員が代行した。台車や火葬炉などが厳重に消毒されたことは想像に難くない。


■「透明の納体袋」を備える葬儀社も


 火葬場の調査研究、相談指導などを行う特定非営利活動法人・日本環境斎苑協会(神奈川県川崎市)主任研究員、森山雄嗣さんは、

「感染遺体の火葬依頼が来たらどうしたらいいかという問い合わせが相次いでいます。『時間帯は、最後あるいは時間外に』『遺族の立ち会いは断るほうが無難』『炉内の消毒を徹底するように』と答え、基本的には保健所の指示に従うよう伝えている。しかし、現状、自治体によって方針がまちまちです」

 と話す。神奈川県内の火葬場では、新型コロナウイルス感染遺体を、遺族が立ち会って火葬したとの報告が届いたという。

 仮に火葬に立ち会えても、納体袋に密封された故人の顔を見て「最後のお別れ」は絶対に無理なのか。透明の納体袋も作られており、神戸市が用意したほか、備える葬儀社も増えてきている。

 では、遺体と長く共に過ごすことができるエンバーミング(遺体衛生保全=血液を薬液に入れ替え、遺体を生前の元気だった頃の姿に近づける科学的な防腐施術)を施すことはできるか。

「もちろん技術的には可能です。ご遺族の気持ちを考えると、してさしあげたいのは山々ですが、私は、日本で新型コロナウイルスに感染して亡くなった外国人の方の施術を依頼され、お断りしました」

 と、エンバーマーの真保健児さん(ディーサポート社=東京都大田区)。エンバーミングは、欧米ではかなり一般的で、遺体の国際搬送に義務付けられている。「かなり悩みましたが、お断りしたのは、今はまだ遺体から自分が感染しないエビデンス(科学的根拠)がないからです」。所属する一般社団法人・日本遺体衛生保全協会(神奈川県平塚市)からも「協会として推奨しない。自粛するように」という通知が届いた。

 同協会事務局長の加藤裕二さんは、「欧米では、新型コロナ感染症で亡くなった遺体にも、防護服を着用してエンバーミングが行なわれているらしいので、日本でもできないかと、今、調査中です」


■新型コロナが変えた葬儀の風景


 一方で、新型コロナウイルス蔓延下、葬式の様相も変わってきた。愛媛県松山市では、3月22日の通夜、23日の告別式で、集団感染が発生した。それ以降、消毒の徹底、スタッフのマスク・手袋着用、窓や扉を開け、椅子を可能な限り離して置くのがもはや全国標準になった。

「葬儀会館からの要請もあり、参列者10名以内のワンデイ(通夜を省き、告別式のみの葬式)を推奨し、通夜振る舞い、精進上げなどの食事の提供も取りやめている」

 と、都内の葬儀社社長。葬式のますますの小型化が急激に進んでいるのだ。では、新型コロナ感染症で亡くなった遺体を扱う依頼を受けたら、どう対応するか。

「心苦しいですが、断ります。遺体に消毒が施されているとはいえ、納体袋に入れるのは、基本的に葬儀社の役目。遺体を動かす際に口や鼻から体液が吹き出し、我々が感染しない保証はない。それに、打ち合わせ時、故人の濃厚接触者である遺族からの感染も心配。社員が感染すると、休業に追い込まれる」(同)

 苦渋の選択だろう。もっとも、「断らない」と判断し、懸命に取り組もうとする葬儀社も少なくない。

 富士見斎場株式会社(神奈川県秦野市)の石井時明代表は、

「志村けんさんの見送りが報道され、ご遺族が火葬場にご一緒できないケースが周知された。依頼者に理解を得て、志村さんと同様の形式をとって故人をお送りしたい」

 と話す。

 新型コロナウイルス感染による死者の弔いは、否応なしに始まった。それぞれの場で、模索が続いている。

井上理津子 いのうえ・りつこ
1955(昭和30)年、奈良市生れ。フリーライター。京都女子大学短期大学部卒。タウン誌記者を経てフリーに。人物ルポや旅、酒場をテーマに執筆してきた。2010(平成22)年、長く暮らした大阪から、拠点を東京に移す。著書に『さいごの色街 飛田』『葬送の仕事師たち』『親を送る』『関西かくし味』『遊廓の産院から』『名物「本屋さん」をゆく』『旅情酒場をゆく』『はじまりは大阪にあり』『大阪下町酒場列伝』『すごい古書店 変な図書館』、『ポケット版 大阪名物―なにわみやげ―』『関西名物 上方みやげ』(共著)など。

デイリー新潮編集部

2020年4月19日 掲載

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