コロナ対策で「小池知事」の変わり身の早さ “命より五輪”で厚労省の警告無視から一転

コロナ対策で「小池知事」の変わり身の早さ “命より五輪”で厚労省の警告無視から一転

小池百合子都知事

 だれも逆らえない美しき正論「命」。それを掲げる小池百合子都知事が快進撃を続けるが、御旗が都民そして国民のためのものでなく、知事自身の野望の道具にすぎないとしたら――。

 ***

 新型コロナウイルスの猛威の下、「ステイホーム」が世界の合言葉になり、日本では小池都知事が繰り返している。むろん、感染を防ぎ、人命を守るべきだという声に、異論をはさむ余地はない。いまは可能なかぎり家にいよう、という訴えは正論である。

 一方、家にいる間に、我々の当たり前の日常を保証してくれていた数々のものが、ガラガラと音を立てて崩れていることも、忘れてはなるまい。いや、客足が遠のいた飲食店などが青息吐息で、文化や芸術に携わる人たちの仕事がすっかり失われ、教育機会が奪われた子供たちの未来に暗雲が垂れこめているのは、だれの目にも明らかなので、ここで改めて強調するまでもないかもしれない。

 だから、我々一人ひとりが「ステイホーム」を意識すべきなのは当然としても、この両刃の剣の扱いには慎重でなければならず、政治家はなおさらであろう。

 ちなみに、この言葉が大好きな小池知事はどうだろうか。いまネットやSNS上には、彼女を〈誰よりも本当にリーダーシップがあってフットワークの軽い方だな〉などと絶賛する声があふれている。だが、「スピード感が重要」とも繰り返す小池知事は、「ステイホーム」と初めて口にするまで、随分のんびりと構えていたのをご存じか。

 都政担当記者が言う。

「築地市場の移転見直しを撤回し、希望の党を立ち上げて大失敗してから、小池知事は、自分が開催都市の顔になる五輪のことしか頭にないようでした。新型コロナウイルスの感染が広がっても、五輪は“中止も無観客もありえない”と言うだけで、コロナ対策には全然触れなかった。いまでこそ“オーバーシュートの分かれ道”と繰り返していますが、感染拡大の分かれ道になると懸念された3月20日からの3連休前、厚労省クラスター対策班から“4月2〜8日に患者が320人にまで増える可能性がある”という試算を受け取りながら、知事は無視していたのです」

 大阪府の吉村洋文知事が、それを見て兵庫県との往来自粛を求めたのと同様の文書である。五輪開催への足かせになると、小池知事は警戒したのか。

 いわば、小池知事にとっては「命より五輪」だったはずが、一転したのは連休明けの3月23日だった。会見で、「オーバーシュートが発生するか否かの大変重要な分かれ目」と強調し、突如として「事態の今後の推移によっては、都市の封鎖、いわゆるロックダウンなど、強力な措置をとらざるを得ない状況が出てくる可能性があります」と述べた。

「IOCが五輪の延期に初めて言及したのが、その前日です。それを受けてIOCと日本側が話し合い、延期検討で合意したと発表した23日、小池さんは安心したのか、日本ではできもしないロックダウンを口にした。24日、彼女自身も加わったIOCのバッハ会長との電話会談で、五輪の延期が正式に決まると有頂天になったのは、安倍総理と交わしたグータッチからも明らかです。“感染爆発重大局面”というパネルを掲げ、改めてロックダウンを強調したのは翌25日で、真に受けた都民が他県に買い出しに押しかける状況を引き起こしました」(同)

 加えれば、自身が厚労省の警告を無視したため、直後の3連休に多くの人が花見などで感染したであろう失態を棚上げできるのも、この女史の得意技だろう。

 あとは機を見るに敏な政界風見鶏の面目躍如。強い言葉で不要不急の外出を控えろと呼びかけ、隣接県に追随を求めてリーダーシップを誇示し、さらに一歩進んだ行動に走った。政治部記者によれば、

「総理官邸を頻繁に訪れ、緊急事態宣言の発令を急かしました。官邸は当初、東京都の1日の感染者数が漸増であるうちは緊急事態宣言を出さなくていい、と慎重で、彼女の行動を、7月の知事選に向けたパフォーマンスだと、冷めた目で眺めていました。ところが、コロナ対策担当の今井尚哉総理補佐官が籠絡されてしまったのです」


■周辺県の知事の怒り


 周知のように4月7日、7都府県を対象に緊急事態宣言が出されたが、不安を煽り立てるテレビなどの影響で、すでに世論は、さらなる引き締めを望んでいた。むろん小池知事は、こうした風向きの読みはお手のものである。再び都政担当記者が話す。

「総理が緊急事態宣言を出してから、当該地域の知事が、特措法第45条にもとづき外出自粛を要請し、第24条にもとづき施設等の使用制限を求めることになっています。ところが、小池知事は安倍総理が宣言を発令する前日、先走って会見を開き、居酒屋や理美容、百貨店などにも休業を要請すると言ってしまった。結局、それら3業態には休業要請しないことになりましたが、百貨店などは閉める体制を敷いてしまったので、いまさら開けられません」

 結果、多くの事業者を苦境に追いこんでいるわけだが、それだけではない。

「休業要請などは、他県と足並みをそろえる必要があるのに、小池知事が独自に打ち出した、休業に応じる事業者への最大100万円の協力金は、財政的に潤沢な東京都にしか支払えない。だから神奈川県の黒岩知事をはじめ、みな反発しましたが、結局、都に倣うことになった。たとえば、東京では7時までしか飲めないお酒が、他県では遅くまで飲めれば、都民が押しかけてくる。それを避けるために都に倣うだけで、周辺の知事はみな、はらわたが煮えくり返っています」(同)

 しかも、10日に休業要請の詳細を明らかにした際には、「権限は社長かと思ったら、天の声がいろいろ聞こえてきて、中間管理職になった感じ」と発言。自身のフライングも、安倍官邸のイメージ低下につなげる手管はさすがである。

 先の政治部記者は、

「国が予想もしなかった小池さんの動きを、政権幹部たちは完全なスタンドプレーとみなしています。安倍総理はコロナ担当の西村康稔経済再生相に、“各知事がバラバラになってはいけないので調整するように”と指示しましたが、小池さんが抵抗したために難航しました。実際、小池さんのようにやると、もう一段ギアを上げたいときの手段がない。官邸は東京から他府県へのコロナ疎開を防ぐためにも、東京にそれなりの社会的機能を残したかった。安倍総理は“休業要請を出したりして調子に乗っているな。アピールに一生懸命じゃないか。協力金とか言ってるけど、世界に直接補償している国はないんだよ”と話しています」

 と解説し、こう続ける。

「小池知事は結果的に、官邸や政府への影響力を強めた。彼女はそれに自信を持って、政治家としてもう一歩、高いフェーズに行こうという野望を抱いていると言われています」

 さる官邸関係者が語る。

「小池さんは3月半ば、二階幹事長、それに天敵だった自民党都連の内田茂前幹事長との手打ち式を行って、選挙での心配がなくなった。だから積極策に出られるのです。もっとも、これほどスポットライトを浴びるとは、本人も想像しなかったと思いますが、霞が関では“持っている政治家だ”と盛んに言われています。ただ、菅官房長官らは我慢がならず、“経済も大事だ”という対立軸を構築。その先は、人命優先か、経済優先か、というおかしな争いになっています」

 野望や策謀というきな臭さとは裏腹に、小池知事は度重なる外出の自粛要請や休業要請に際し、「みなさま自身を守るため、家族を守るため、大切な人を守るため、私たちが生活するこの社会を守るため」と繰り返し訴えている。

 官邸との対立を逆手にとり、「人命優先」という、だれも否定できない切り札を手に、盤石の論戦に挑んだ結果は、すでに表れている。メディア各社の世論調査で、8割超が、緊急事態宣言の発令は「遅すぎた」と答える一方、都の休業補償については、8割超が評価したのである。

「週刊新潮」2020年4月23日号 掲載

関連記事(外部サイト)