コロナで行われる「命の選別」 医療崩壊が始まっている大病院の現実

コロナで行われる「命の選別」 医療崩壊が始まっている大病院の現実

慶應義塾大学病院

■「慶應病院」は手術不能!? 大学病院で何が起こっているか なぜ「東京女子医大」「順天堂」は感染者を受け入れないのか


 感染が拡大するにつれ、患者の受け皿となるべき医療現場からの悲鳴は大きくなるばかり。病床、医療機器、さらに医師までもが不足し、大学病院が積極的にコロナ患者を受け入れないという声も漏れ伝わってくる。日本でも「医療崩壊」の4文字が現実味を帯びるなか、「命の選別」という事態は回避できるのか。

 
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 首都圏の大病院に勤務する内科医が頭を抱えるには、

「街なかのドラッグストアと同じく、院内でもマスクがとにかく足りません。うちの病院でも、医師はマスク1枚で3日間しのぐような状況です。PCR検査で患者の喉や鼻腔から検体を採取するスワブ(綿棒)すら枯渇しつつある。現時点でも、軽症の方にまでPCR検査を実施する余裕はありません。病床にしても、コロナ患者を他の入院患者と相部屋にすることはできないため、病院にコロナ以外の患者を受け入れる余地がなくなってしまうわけです」

 コロナ対応に当たっている医師は、同時に、通常の外来患者や入院患者への対応も迫られる。しかも、

「臨時手当が出ることもなく、実質的にはタダ働き。家族への感染リスクを心配して、帰宅できない医師もいるほどです。症状の軽い外来患者が実は“陽性”だった、という例も珍しくないため、医師も職員も疑心暗鬼に陥っています」(同)

 コロナ蔓延で医療崩壊に至ったイタリアでは、1万6千人の医療従事者が感染し、医師100人超が命を落としたと報じられる。

 日本でも感染の恐怖に駆られた看護師の“コロナ退職”が起きているという。

 日本医科大特任教授の北村義浩氏によれば、

「小規模なクリニックや個人病院ではコロナの診断を受けつけず、玄関に“咳や発熱のある方は下記にご連絡ください”と自治体の相談窓口への案内を張り出していることも多い。待合室で高齢の患者にうつしたら大変なのは分かります。ただ結果的に、高血圧や糖尿病などの慢性疾患のある患者も、熱が出たら診察を受けられない状況なのです」

 となれば、コロナに怯える患者は大病院に足を運ぶしかない。だが、台東区で最大の病床数を誇る永寿総合病院では入院患者やスタッフら100人以上が感染。病院自体がクラスター(感染集団)化してしまった。

 さらに、この病院からの転院患者を受け入れた慶應義塾大学病院でも、

「当初、慶應病院はその患者が陽性だと知らされないまま手術を行っていた。当然ながら、患者の手術に関係した医師や看護師、研修医には濃厚接触が疑われます。彼らはICUにも出入りしていたため、現在は手術もままならない状態なのです」(慶應病院関係者)

 これに対し、慶應病院は、

「手術等の急ぎ治療が必要な患者さんへの対応と、既に予定されている手術は行っております。延期できる手術については、こちらからご連絡の上、延期をさせていただいております」

 と回答したが、

「急ぎでなければ手術も延期で、混乱はゴールデンウィーク明けまで続きそう。当面の間は新規の入院や、初診・救急の外来診療も停止しています」(先の関係者)

 北村氏が続ける。

「これは慶應病院だけに留まりません。院内感染が起きていない他の大病院でも、医師不足などが影響して“不要不急の手術”は5月以降に先送りされている。正常な医療態勢が阻害されているという意味では、すでに“医療崩壊”が始まっていると考えるべきでしょう」


■若者に譲る


 大阪大学人間科学研究科未来共創センター招聘教授の石蔵文信氏はこう語る。

「日本の病床数は他国と比べてかなり多いため、軽症者をホテルなどに移せば余裕が出るはず。ただ、問題は集中治療室(ICU)です。コロナ患者をICUに収容すると、他の重症患者の受け入れや治療が困難になります。しかも、ICUで患者にエクモを使えば、専門の医師や技士が常についていなくてはならない。イタリアでは回復の見込みの少ない高齢の患者よりも、若い患者に人工呼吸器が優先的に用いられますが、ただでさえ負担の大きい医療従事者に命の選択まで強いるのは酷だと思います」

 石蔵氏は〈集中治療を譲る意志カード〉を作成し、ネット上で公開した。

「臓器提供の意思表示カードのように、コロナで高度医療を受ける際、“医療機器が不足したら若い人に譲る”ことを表明しています。私も高齢者なので、これを持ち歩くつもりです。医療崩壊を防ぐ最後の砦として、高齢者がこうした姿勢を示すのもいいのではないか」

 もちろん、「命の選別」など起こらないに越したことはない。だが、それほどまでに医療現場が逼迫しているのは事実だ。にもかかわらず、コロナ患者の受け入れに消極的といわれるのが大学病院である。

 文科省は9日、全国に170ある大学病院に対し、コロナ患者の受け入れに最大限取り組むようお達しを出した。だが、13日現在までに受け入れ可能としたのは101病院に留まる。反対に、東京女子医科大学はHPで〈当院は感染症指定病院ではないため、新型コロナウイルス感染症の検査・診断・治療を行う施設ではありません〉と打ち出しており、順天堂大学医院も受け入れは限定的とされる。

 医療ガバナンス研究所の上昌広理事長は、

「他の病院が受け入れているなかで、大学病院だけが優遇される理由はありません。最先端の医療設備が充実した大学病院もコロナ患者を受け入れるべきでしょう。このまま感染が拡大すると、小規模医院と大学病院ばかりの東京は“コロナ難民”で溢れてしまいますよ」

 順天堂医院の担当者によれば、積極的に受け入れてはいないものの、

「当院に入院・通院中の患者に陽性が確認された場合や、省庁から個別の要請があった際にはコロナ患者を受け入れています。ただ、当院にはコロナ以外の重大な病気で手術や検査を必要とする患者が数多くおられ、そうした方々の命を守る必要がある。高度な医療設備や技術があるからこそ、当院でしか治療できない患者もいるのです」

 2月に「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗客128人を受け入れた藤田医科大学岡崎医療センターは、徹底したゾーニングで二次感染を防いだ。だが、守瀬善一院長はこう語るのだ。

「当時はまだ開院前だったので、一般の病院では難しい対応が取れたのだと思います。ただ、救急患者が出入りし、ICUで重病患者を治療しているような大病院では、院内の動線が入り乱れているので当院と同じような対応は困難でしょう。限られた医療資源を活用するためには、日本全体で役割分担を考えていく必要があると思います」

 コロナ感染者の受け入れを断る大学病院は、受け入れている病院から他の病気の患者の転院治療を引き受けてはどうか。

 医療崩壊を防ぐため、そして命を守るために国を挙げての最善策が求められる。

「週刊新潮」2020年4月23日号 掲載

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