250戸所有のカリスマオーナーの告白 「私はこうして家賃滞納を回避しています」

■「私が悪いんじゃない、コロナが悪い…」


「家賃負担が重い」「家賃を猶予して」と悲痛な表情で語る一般市民の姿が、テレビ等で繰り返し放映されている。厚生労働省は、失業して家賃が支払えない人が対象の制度、「住宅確保給付金」について、4月20日と24日、立て続けに支給要件の緩和を発表し、住居を失う人が出ないよう呼び掛けている。

「家賃が重い」という人がいれば、それに応える側もいるわけで、賃貸管理会社や賃貸オーナーも日々対応に追われている。

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〈アルバイト代がゼロになったので免除してほしい〉

〈とにかく半額にして〉

 東京都内のある管理会社ではそういった電話が鳴り止まず社員が忙殺されていた。問い合わせ数は、1日250件を超えている。

「特に多いのが、高額な部屋に住んでいた個人事業主の方々と、低家賃帯の生活困窮世帯。中間の層は今のところまだ少ないです」(管理会社)

 同様に、滞納発生時の家賃を保証する家賃債務保証会社も対応に苦慮している。支払いを促す電話を掛けると、出た瞬間「うるせー」と怒鳴られたり、「なんで私だけに掛けてくんのよ、むかつく、あんた何様なの?」と逆ギレされたり。

「私が悪いんじゃない、コロナが悪い、社会が悪い」と罪の意識がない滞納者とのやり取りが延々続いていた。

 テナントや入居者が、収入減少を理由に家賃を支払わないのは、法的には説明できないことだ。しかし、不動産を所有するオーナーは、社会的に強い立場だという考えが浸透しており、強気な態度で督促をすればトラブルになりかねない。

 とはいっても、オーナーも銀行から借入をしている人がほとんどで、家賃収入が減ると返済が滞る。どのような対策が考えられるのか。国内外に250戸の賃貸住宅を所有するカリスマオーナー村瀬裕治さん(55)に、滞納を防ぐ取り組みについて聞いた。

「普段から滞納が起きないような友好な関係作りを入居者の皆さんとしておく、というのは大前提として、今は私が自分できることを考え、実践しています」

■テナントのドラッグストアから


 村瀬さんは、まず、建物管理の仕事、例えば掃き掃除や球切れ交換、自転車整理を、入居者に委託している。ちょっとした仕事を手伝ってもらうことで、その頻度や内容によって共益費を免除したり、時給を支払ったりしているのだ。「在宅の方が増えた今は、より取り組みやすいようです」

 サプライズ大作戦も功を奏した。所有するマンションの1階に入居するテナントのドラッグストアから商品券117万円分を購入。1世帯につき3000円分ずつ配布する計画だ。平等を期すため、滞納者にも配っている。また「廊下の電球が切れていますよ」など、建物メンテナンスに協力をしてくれた人にはプラスして配布する。

「65万、10万とそれぞれ滞納していた入居者さんにも、“品切れでマスクは買えませんが、トイレットペーパー購入の際の足しにしてもらえれば”と手書きの手紙を添えて郵送したところ、連絡が途絶えていた滞納者の方からお礼の連絡がきたんです。驚きました。女性と入居者はサプライズがお好きなようです」

 テナントの売り上げアップと入居者のトイレットペーパー代補助、2つを同時に叶えた取り組みだ。

 さらにスピード感を持った対策は続く。生活が困窮し、クルマを売ってしまった入居者が利用できるカーシェアのサービスだ。現在クルマ3台を無料で貸し出している。駐車場、ガソリンなどに関する費用もオーナー負担だ。

 クルマを売って維持費や保険代、自動車税や車検代、駐車場代から解放されればゆとりが生まれる。レンタル中できた車体のキズも大きいものでなければオーナー負担で修理するという太っ腹企画。赤字にならないかと尋ねると、「クルマを手放す人が増えて駐車場に空きスペースができたら、そこで入居者の方が便利だと思うようなもの……例えばレンタルルームやコイン乾燥機などを設置して、副収入を得るつもりです」とたくましい。


■スーパー銭湯のチケットを


 さらに村瀬さんは、従兄弟の娘さんが経営するパン屋と連携し、売れ残りを安く仕入れ、マンション入居者には無料で配布するサービスも計画中だ。所有するマンションは、3分の1がファミリーマンションで、入居者同士のコミュニティが醸成されている。以前、給湯器の故障でお風呂が使用できなくなった時、スーパー銭湯のチケットを配ったことがあった。それからというもの「家族ぐるみで裸の付き合いできた」と入居者同士の交流が盛んになったのだ。パンは、マンションのまとめ役のような人に頼んで配る予定だ。

「この仕組みを使えば食料品の共同購入もできるかもしれません」  
村瀬さんは常々、賃貸マンションのスケールを活用したサービスができないと考えてきた。

「共同住宅にはたくさんの入居者がいますから、数の力を使ってできることがあると思うんです。例えば、マンション全員が家族のような扱いで『携帯利用料家族大幅値引き』とか、各部屋が支払っている上下水道、ガス・電気等々の基本料金おまとめプランとか」

 合言葉は、「入居者さんの財布は軽く、オーナーの通帳には安定を」だ。

「とはいえ、我々オーナーも来年、再来年のことまではわかりません。家賃減額や滞納が続けば経営が立ち行かなくなる人も出てくるでしょう。ですから、コロナが原因の滞納の場合は、その未収金分について、利益が出ている期中に損金として計上できるようにしてもらいたいです。入居者さんの給料明細があれば証拠になるはず。そういった税制面での優遇がないと、オーナーだって辛い」


■領収書の要らない経費を認めて


 通常、滞納による未収金は損金とみなされず、売り上げとして計上される。オーナーはその分の税金を支払っている。せめてこの1〜2年は、オーナー側にもコロナ特別措置があれば、入居者向けにサービスをする余裕も生まれる、というのが村瀬さんの考えだ。

「感染された入居者様にオーナーからお見舞金として50万円を支払います。ですから、国会議員のみなさんのように、月100万円の領収書の要らない経費を認めて欲しい。先生方と違い歌舞伎町での遊興費には使いませんから……」

 日に日に深刻化する現状はまさに非常事態。入居者も大変だが、家賃を払ってほしいと訴えるオーナーも、滞納家賃を請求する保証会社も皆、危険にさらされながら、かつ前例のない中で仕事をしている。村瀬さんのようなオーナーは大家の鑑と言えるが、保証会社も入居者支援に奔走している。

 ある保証会社の幹部は、「滞納した方に、ただ払って、出て行ってと言うのはナンセンス、モラル違反です。お一人ずつの状況を把握して、住宅確保給付金や緊急小口融資の斡旋をし、伴走しながら分割で正常化させる必要があります。そうすれば、家を失う人を少なくできると思います」と語っていた。

 相田みつをさんの詩に「うばい合えば足らぬ わけ合えばあまる」とある。家賃の現場では立場を超えた助け合いが始まっている。

吉松こころ(Hello News)
鹿児島県伊佐市(旧大口市)生まれ。週刊全国賃貸住宅新聞に勤務し、営業デスク、取締役を経て、2015年に独立。不動産業界で起きていることを配信する、株式会社Hello Newsを立ち上げ、不動産・建築業界で生きる人々を取材している。Webメディア「週刊ハローニュース」は毎週木曜更新。上京して22年間で引っ越した回数は18回。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年5月1日 掲載

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