石田純一、クドカンが公言 岡田晴恵氏も推す「アビガン」コロナにホントに効くの?

■すでに中国産ジェネリックに


 女優の岡江久美子さんが、新型コロナウイルスによる重症肺炎のため亡くなられた。アビガンが投与されていれば助けられたのではという声が方々からあがっているのは事実だ。理由の1つに、同じ新型コロナウイルス感染から快方した脚本家・宮藤官九郎氏やタレント・石田純一氏らがアビガンの恩恵をメディアで公言したこともあるだろう。果たして我々は、アビガンを特効薬として認識してもよいのだろうか。

 東京オンコロジーセンター代表の大場大氏、国立がん研究センター研究所 がん幹細胞研究分野分野長の増富健吉氏は共にがんを専門とする。忖度のない立場からアビガンについて指摘する。

大場:岡江さんの訃報をお悔やみ申し上げます。一部のメディアから、乳がん手術と再発予防のための放射線治療による免疫力低下が原因だったのでは、といい加減な情報が伝えられました。同じ乳がん治療を受けている患者さんたちの心配・不安を大きく煽るような無知な報道がなされたことを残念に思います。

 一方で、著名人が受けた治療が「最善の治療」であるかのように錯覚してしまうバイアスはがん治療についても相当する話です。では、今回のテーマであるアビガンについて話をしましょう。

 その前に、「アビガン」は富士フイルムの子会社である富山化学の商品名であり、一般名は「ファビピラビル」。緊急事態宣言時に安倍首相が、公の場でいきなり商品名を持ち出したことに利益相反の観点から違和感を覚えました。富士フイルムは、2016年に中国大手製薬企業と特許ライセンス契約を結んでいて、開発・製造・販売を中国で行う権利を許諾しています。ところが、現在、基本的な特許ライセンスは失効しているとのこと。かろうじて製造特許は継続しているようですが、中国で提供されているのは中国産ジェネリック薬品となります。

 では、増富さんにお聞きします。そもそも抗インフルエンザウイルス薬として開発されたこの薬が、なぜ注目されるようになったのか。アビガンと他の抗インフルエンザ薬との違いを教えてください。

増富:ご指摘があったようにアビガンは、そもそも抗インフルエンザ薬として開発されてきた薬です。まず、抗インフルエンザ薬について説明しますね。

 すべての薬には必ず、その薬がなぜ、ある病気に効果があるのか科学的理由があります。日本で使用可能な抗インフルエンザ薬について、それは大きく分けて3種類。解りやすくあえて実際の商品名を用いながらかみ砕いて説明すると、以下の通りになります。

・タミフルやリレンザなど(ノイラミニダーゼ阻害剤):細胞内で増えたウイルスが細胞外に放出される時に必要な酵素があります。これを阻害することで、ウイルスが細胞の外に放出されるのを阻止し、治療効果を発揮するタイプ。

・ゾフルーザなど(キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤):ウイルスが増殖するために必要なタンパク質が合成される過程において、重要な酵素を阻害することでウイルスの増殖を抑え込むタイプ。

・アビガン(RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤):ウイルスが自らの遺伝子を複製(コピー)する際に必須の酵素である「RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)」を阻害することで、ウイルスの増殖を抑え込むタイプ。

■合理的な戦略


大場:ではなぜ、新型コロナウイルスに対する治療薬として、アビガンが候補に挙がってきたのでしょうか。アビガンが治療薬として期待できる根拠があれば教えてください。

増富:インフルエンザウイルスをはじめ、コロナウイルス(従来の風邪ひきコロナウイルス、SARS、MERS、今回の新型コロナウイルス)、C型肝炎ウイルス(HCV)、ポリオウイルス、麻疹ウイルス、エボラ出血熱ウイルス、西ナイル熱ウイルス、デング熱ウイルスなどはすべて、「RNAウイルス」という種類に分類されるものです。

 これらのRNAウイルスはどれも、自らの遺伝子を複製(コピー)し増殖する際に、「RdRP(上記参照)」という酵素を利用する、という共通の特徴があります。

 RNAウイルスに属するウイルスであれば、この「RdRP」という酵素の構造やはたらきが非常によく似ているといえます。ということは、新型コロナウイルスといえども、同じRNAウイルスであるインフルエンザの「RdRP」を狙い撃ちにするアビガンが効くかもしれないという考えが出てくるわけです。

 あとで話をしたいエボラ出血熱に対する治療薬のレムデシビルについても同じ考え方です。大切なことは、RNAウイルスとしての特徴であり、なおかつそのウイルスが遺伝子のコピーをつくり増殖するために必須であるアキレス腱を狙おうとすれば、「RdRP」が治療の標的候補に挙がってくるは合理的な戦略だといえます。

大場:理屈上、「RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)」を標的とするコンセプトが重要であることは理解できました。一方で、実験室の世界ではなく、ヒトに投与する薬としてはどうなのでしょうか。

増富:妊婦さんに投与した際の催奇形性の問題が危惧されているようですが。

大場:催奇形性という言葉で、「サリドマイド事件」を思い出しました。現在、サリドマイドは徹底した安全管理システムのもと「再発又は難治性の多発性骨髄腫」治療薬として承認されています。

 1957年に「コンテルガン」という名称で催眠・鎮静剤として世界中で発売されたのですが、先天性四肢・臓器障害といった胎児の重症奇形の原因がサリドマイドだと判明したのです。1961年のレンツ警告後も、国内では約10カ月間にわたって販売され続け、被害認定が309人、約1000人以上に影響があったといわれています。

 決して同じような薬だとは言いませんが、新型コロナウイルス患者に対する安全性の担保がないまま、「観察研究」として政府は「アビガン」を推奨した。そのことが国際的に見て、後に倫理上問題視される可能性があるかもしれません。

増富:どういう意味でしょうか? また、有効性についてはどうですか?

大場:「介入研究」として慎重に事を運ぶべきところが、特定の商品名を政府が公で推奨してしまい、まるで特効薬のような空気をつくってしまった、という点でしょうか。

 有効だという評価は、すべて中国からのデータです。先に触れたジェネリックである中国産ファビピラビルを使用しているのですが、臨床試験の質そのものに問題がありそうで、どこまで科学的に信用してよいものか。新型コロナウイルスのほとんどが自然回復する中で、対象を明確にした質の高い比較試験で結果をみてみないと、本当にアビガン効果なのかはわかりません。

増富:最近では、アビガンのみならずエボラ出血熱ウイルスに対するレムデシビルの可能性も伝えられていますね。いずれの薬が承認されるにしても、質の高い臨床試験での検証をふまえないと国は認可できない、ということは当たり前のことです。まず、情報を発信する側がこうした点を理解したうえで、興味本位ではなく、正しい情報を発信してくれるということが大切に思います。

大場大(おおば・まさる)
1999年 金沢大学医学部卒業、2008年、医学博士。2016年より東京オンコロジーセンター代表を務める。2009年−2011年がん研有明病院。2011年−2016年、東京大学医学部附属病院肝胆膵外科。2019年より順天堂大学医学部附属順天堂医院肝胆膵外科非常勤講師。専門は、外科学、腫瘍内科学、消化器病全般。

増富健吉(ますとみ・けんきち)
1995年 金沢大学医学部卒業、2000年、医学博士。2001年−2007年 Harvard大学医学部Dana-Farber癌研究所。2007年より現職。がん細胞の増殖と、コロナウイルスを含むRNAウイルスの増殖に共通の仕組みがあることを突き止めており、双方に効く治療薬の開発が可能かもしれないと考えている。専門は、分子腫瘍学、RNAウイルス学、RNAの生化学、内科学。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年5月3日 掲載

関連記事(外部サイト)