「ポツンと一軒家」で考える軽トラ事情 農道のフェラーリやポルシェの異名を持つ車種も…

「ポツンと一軒家」で考える軽トラ事情 農道のフェラーリやポルシェの異名を持つ車種も…

ダイハツ・ハイゼット(DY5W-sport/Wikimedia Commons)

 2018年10月に始まった「ポツンと一軒家」(テレビ朝日系、日曜午後7時58分)は、今や国民的人気番組となった。この番組の台頭により、あらためて存在感を示しているのが、軽トラこと軽トラックだ。一軒家のある地域で住民たちが足代わりにしている。軽トラ事情を調べた。

「お仕事中、すみません。衛星写真に写っている、この一軒家を探しているのですが、お分かりになりますか?」

「ポツンと一軒家」のスタッフが地方の住民にそう尋ねると、心優しい住民が「案内してあげるよ」と言い、一軒家まで車で先導してくれる。そんな時の車はほぼ間違いなく軽トラだ。この番組が大人気になるのと軌を一にして軽トラを目にする機会が急増した。

 軽トラとは、軽自動車(排気量660t以下)に該当する小型トラックのことで、最大積載量は僅か350sに過ぎない。とはいえ、みかんコンテナなら50個以上、小玉のリンゴなら約1400積める。少年ジャンプなら500冊、単3乾電池なら約1万4900本OK。スクーター型の原付バイクなら4、5台載せられる。若い単身者の引っ越しなら、軽トラで十分だろう。

 標準的な耕耘機の重さは200〜300sなので、これも優に運べる。薪なら約60束。自宅と田畑や山林を往き来する人たちにとっては便利な代物だろう。

 片や都会では軽トラをあまり見ない。なので、農業、林業、漁業などの第1次産業が盛んな地方ほど所有台数が多いのかと思いきや、違った。2019年3月末現在、軽貨物車(軽トラ、軽バン、軽ボンネットバン)の保有台数は全国約850万台。その内訳を都道府県別で見たところ、ベスト5は次のとおりだった。

(1)愛知県、約35万6000台

(2)大阪府、34万1100台

(3)福岡県、約32万2700台

(4)千葉県、約31万7000台

(5)埼玉県、約31万4800台

(一般社団法人 全国軽自動車協会連合会のデータを基に算出)

 人口数の違いがあり、軽バン、軽ボンネットも含む数字とはいえ、軽トラは地方でばかり乗られているわけではないようだ。酒店などが配達に使っているほか、用途が広くて、ちょっとしたトラック野郎気分も味わうことも出来るから、愛車にしている若者も少なくない。サーフィンボードやアウトドア用品など遊び道具が積めるのが魅力なのだろう。

 国内の自動車保有台数は計約8230万台。そのうち軽トラを含めた軽貨物車は約10分の1。自動車全体の新車販売台数は年間約520万台で、うち軽トラの新車は約18万台。日本の車社会の中で地歩を固めている。

 人気の理由の一つは諸経費が格安であること。例えば税金。軽自動車は年間1万800円だが、軽トラは5000円で済む。約半分だ。ちなみに排気量が1000tから1500tまでの自家用自動車だと年間3万4500円かかるので、軽トラの7倍近い。

 燃費は車種によって相当違いがあるものの、目安は1リットル15km前後。軽自動車と同程度かやや劣るが、その分、耐久性に優れていて、乱暴に扱わない限り、20年以上乗れるのが一般的である。お得なのだ。

 軽トラの長所は経済面だけではない。最近の軽トラは走行性も優れている。

「ポツンと一軒家」では、番組スタッフの乗る4WD(4輪駆動)車が、地元の人が乗る軽トラを追い、狭い道や悪路を走る。その際、スタッフは「(軽トラで)大丈夫なのかな」などと心配するものの、それは取り越し苦労なのだ。番組に登場する軽トラが、狭い悪路で飛ばすのは、道に慣れているからだけではない。

 軽トラにも4WD車があり、狭い道や荒れた道、雪道でもパワフルに走れる。市中で酒屋などが愛用するものには2WD車もあるものの、「農村地帯や山間部の軽トラは4WD車と思って間違いない」(自動車ディーラー)。2WD走行と4WD走行をスイッチ一つで切り替えられるタイプもある。

 おまけに車幅が全幅1・48m以下とこぢんまりしているから、狭い道は大得意なのだ。3ナンバーの普通車(2000t超)なら2・5m以下なので、約1m違う。「ポツンと一軒家」で心配されるべきは、むしろ取材班のほうなのだ。

「軽トラは街乗りでは苦労しそう」という声もあるだろうが、実際には市中でも走りにくいということはない。「荷物を積んでいなかったら、軽自動車が最強」という評もあるくらい。なにしろF1マシン同様に軽量化が追求されている。荷物を積むためだ。荷台を空っぽにすれば、走りに向いた車と化すのだ。

 1999年から2012年に販売されていた「サンバー」(スバル)の6代目は「農道のポルシェ」の異名を持ったくらい。冗談ではいない。きちんとした理由があった。駆動方式が軽トラでは異例のRRで、ポルシェ911と同じだった。エンジンが後部にあり、後輪が駆動。走行性も抜群と評判だった。

 6代目サンバーのエンジンは4気筒で、過給器方式の一つであるスーパーチャージャーを採用したモデルもあった。これによって、より多くの空気をエンジンに送り込むことが可能になり、高い出力の実現に成功した。

「農道のフェラーリ」と呼ばれる軽トラは今もある。「アクティ・トラック」(ホンダ)だ。エンジンを後輪の車軸の前に搭載し、後輪を駆動させる、ミドシップ(MR)だからである。こちらも走りには定評がある。

 最近の軽トラは安全装備も充実。例えば、草刈正雄(67)扮する老農夫が納豆を食うCMでおなじみの軽トラ「スーパーキャリイ」(スズキ)には、夜間の歩行者も検知するデュアルカメラブレーキサポートが搭載されている。2つのカメラが前方の歩行者や車両を検知し、衝突の恐れがあると判断すると、ブザー音などで運転手に警告するのだ。

 さらに、衝突の可能性が高まると、自動で弱いブレーキが作動する。そこで運転手がブレーキペダルを踏むと、踏む力をアシストする。もっと衝突の危険性が高まると、自動で強いブレーキがかかり、衝突の回避や衝突時の被害軽減が図られる。

 草刈おじいちゃんが自慢するスーパーキャリイのお値段は、メーカー希望小売価格が117万2600〜141万3500円(スーパーキャリイX、メーカー希望小売価格、消費税込み)。ただし、兄弟分のキャリイKCには80万円を切るリーズナブルなモデルもある。

 2019年の軽トラ売れ行きランキングを見てみよう。

(1)ダイハツ「ハイゼットトラック」約8万1000台
(2)スズキ「キャリイ」約6万500台
(3)ホンダ「アクティ・トラック」約1万5300台
(4)日産「NT100クリッパー」約9400台
(5)スバル「サンバートラック」約5800台
(6)三菱「ミニキャブトラック」約4300台
(7)トヨタ「ピクシストラック」約4000台
(8)マツダ「スクラムトラック」約2300台

 ダイハツ、スズキ、ホンダが軽トラのビッグスリーなのだ。1位のダイハツは軽トラの老舗であり、面目躍如。1957年に軽トラのルーツとも言える「ダイハツ・ミゼット」を発売した。

 3輪で259tだった。今の半分以下の排気量しかない。それでも300sまで積めたのだから立派だ。映画「ALWAYS続・三丁目の夕日」(2007年)に登場したのもミゼットである。

 1963年にはホンダが「T360」で軽トラに参入。2輪メーカーだったホンダにとって、これが初の4輪車であり、日本の車で初めてDOHCエンジンが搭載された。開発の総指揮を執ったのは同社創業者の故・本田宗一郎氏。当時のホンダの技術の結晶だった。

 ただし、ホンダは現行モデルであるアクティ・トラックの生産を2021年6月に終了し、以後は軽トラから撤退する。開発費なども含めた採算面の問題らしい。

 ホンダの撤退後はダイハツ、スズキの2強の争いとなる。ほかの5社はOEM(他社が製造した製品を自社ブランド販売)だからである。スバルとトヨタの供給元はダイハツだ。日産、三菱、マツダはスズキから提供を受けている。

 あぜ道や砂利道、狭い道や悪路なら軽トラのほうが向く。「ポツンと一軒家」取材班も軽トラに乗り換えてみたらどうだろう。カメラなどの機材を荷台にたっぷり積めるから、もってこいではないか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
ライター、エディター。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年5月5日 掲載

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