コロナ禍のトラブル 朝日新聞も絶賛の「キャバ嬢社長」が従業員に給料未払い

コロナ禍のトラブル 朝日新聞も絶賛の「キャバ嬢社長」が従業員に給料未払い

突然、時給が半額以下に(写真はイメージ)

■社長は全面否定


 朝日新聞が、キャバクラ嬢のインタビュー記事を掲載した。何でも取材するのが報道機関とはいえ、やはり珍しいことだろう。しかも、そのキャバ嬢は今般のコロナ禍を悪用し、自身が経営するキャバクラで働く女性の時給を不当に引き下げた――などとネット上で非難されたのだ。

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 朝日新聞デジタルの中に、「好書好日」という書籍の情報サイトが開設されている。検索サイトに表示される内容紹介を引用させていただく。

《映画や美術、食などをもっと楽しむための本の紹介から、朝日新聞の読書面に掲載された書評まで、あなたと本の出会いをお手伝いします》

 このサイトに「働きざかりの君たちへ」という特集ページがあり、《働くことに対してモヤモヤを抱える人たちに向けた》という記事が掲載されている。そして4月19日には「歌舞伎町で95カ月連続No.1のキャバ嬢・桜井野の花さん 勝てる場所を探して継続する『「一番」という生き方』」というインタビュー記事が配信された。その中から桜井さんの発言を1つだけご紹介しよう。

《有名になれば、もちろん時には批判とか中傷もあるけれど、とりあえず注目を集めることができます。その結果、会社やお店にたくさんのお客様を集めることができたり、Youtubeチャンネルにたくさんの人が訪れて広告収入も増えたりする》

 桜井さんは、このインタビュー記事で、「有名になれば儲かる」と一貫して主張している。そのためにも「セルフブランディング」が大事なのだそうだ。

 インタビュー記事で「有名になれば批判の対象となる」と発言した通り、彼女のInstagramやYouTubeなどでは最近、“批判”のコメントが目立つ。原因は、従業員に対する給与の未払いや、“不当な解雇”の疑いが持たれているためだ。

 そもそも朝日新聞の書籍情報サイトが桜井さんに注目したのは、2月に光文社から『「一番」という生き方 95か月連続NO.1を続ける私の自己ブランディング術』という書籍が上梓されたからだと思われる。同書をAmazonで検索すると、《出版社からのコメント》に《【著者ごあいさつ】》が掲載されている。

《魑魅魍魎が跋扈する新宿歌舞伎町で「95か月連続ナンバーワン(※2020年1月現在)」のキャバクラ嬢です。同時に、オーナー社長として「桜花」「花音」を経営しています。テレビやその他メディアで、私の顔を見たことある方もチラホラいらっしゃるかもしれません》(註:改行を省略した。以下同)

《「整形に2000万円以上かけたキャバクラ嬢」、「SNSのフォロワー50万人超」、「ホストに狂って〇万円つぎ込んだ」などなど、インパクトあるキャッチフレーズとともに紹介していただくことが多い》

 桜井さんは《キャバクラ嬢》を自称することが多いが、上記の通り、キャバクラの経営者としても知られる。実際、彼女のTwitterや動画などでは《キャバ嬢社長》、《キャスト兼オーナー社長》と自称することもある。

 ちなみに「キャスト」という業界用語だが、キャバクラやパブといった店で働く女性を指す。「ホステス」、「コンパニオン」、「フロアレディー」の類語だ。

 桜井さんのInstagramやTwitter、YouTubeなどのコメント欄には、どんな批判が投稿されたのか、大別すると以下の2種類となる。

「新型コロナ問題を悪用し、キャストの給与を不当に引き下げた」
「新型コロナ問題で東京都が営業の自粛要請を行っているにもかかわらず、経営する店舗で営業を行った」


■新型コロナの問題を悪用


 この投稿は本当なのだろうか。桜井さんの経営する「花音」に勤務し、「時給を不当に引き下げられ、自分の意思に反して解雇された」と訴える女性に話を聞くことができた。店での源氏名はヒトミだった。

「私だけではなく複数のキャストが、時給を一方的に引き下げられるなど、同じ被害を受けています。つまり組織ぐるみで給与を意図的に引き下げたり、キャストの意に反した解雇を行ったりした可能性があると思っています。結局、野の花さんは新型コロナの感染拡大を悪用し、人件費を削減しようとしたのではないでしょうか」

 そもそもヒトミさんは、どのような経緯で「花音」に務めるようになったのか。きっかけは桜井さんのYouTubeを閲覧したことだったという。

「たまたま野の花さんの動画を見ると、そのトークに魅了され、ファンになりました。私も銀座の店で働いた経験がありましたが、野の花さんも過去にはキャストの1人として働き、今も店を経営しながらキャバ嬢として接客を続けています。私たちキャストの気持ちも深く理解してくださるだろうと考え、野の花さんの下で働きたいと思ったのです」

 YouTubeでは求人募集も行われており、応募用のメールアドレスも記載されていた。さっそくヒトミさんがメールを送ると、すぐに面接が決まった。だが、「果たして採用されるのだろうか」と不安のほうが強かったという。

「店の立地で、お客さまの雰囲気は変わります。評価されるキャストのイメージも、場所によって変わります。私は歌舞伎町で働いたことはなかったので、それが不安でした」

 実際に面接が始まると、“経験者”であり“即戦力”かどうかを問う質問が印象に残ったという。例えば「前のお店のお客さんを、どれくらい連れてこられますか?」という具合だ。

「最初の1か月は時給が保証されるのが業界の慣例です。その後は売上に応じて、時給が変わります。ネットで『歌舞伎町の相場は時給5000円から1万円』と書いている記事を読んでいたので、面接では時給6000円を提案しました」

 面接後に体験入店も行われた。やはり銀座とは雰囲気が異なったが、ヒトミさんは仕事をそつなくこなし、終わると採用と告げられた。2月19日に正式入店となり、以前の客も応援に駆け付けるなど、手応えも感じていたという。

「2月29日の勤務を締め日とし、最初の給与が支払われました。明細では、58時間50分を働いたことになっています。保証時給6000円で基本給が35万1000円。これに指名や同伴出勤などのバックが加算され、所得税などが差し引かれて31万4000円が初月給でした」

 3月も勤務を続けるうち、次第に新型コロナの問題が大きくクローズアップされてきた。ヒトミさんも欠かさずニュースをチェックしていた。そして30日の夜、小池百合子都知事が「4月12日まで、ナイトクラブなどは営業を自粛してほしい」と要請した。

「花音は営業を続けているので、私は担当の男性スタッフにLINEを使って『4月12日まで、お客さまの来店予定がある日以外は、お休みしていいですか』と相談しました。理由を訊かれたので、『都知事が営業自粛を呼びかけました。お客さまを誘いづらいですし、私も新型コロナのリスクを避けたいです』と説明しました」


■一度は謝罪した桜井さん


 少し間をおき、男性スタッフは「休むことで契約の出勤日数に達しない場合、その分は当日欠勤と同じ扱いにします」との返事を送信してきた。つまり場合によっては罰金を科すというわけだ。これを「おかしい」と考えたヒトミさんは、桜井さんに直接、連絡を取ることを決めた。

 店で姿を見ることが珍しくないとはいえ、やはり社長となれば雲の上の存在だ。携帯の番号も知らなければ、LINEでつながっているわけでもない。そこでヒトミさんは公式InstagramのDM(ダイレクトメッセージ)を利用することにした。

「自分の身だけでなく、家族の健康も守るために休みたいと相談しました。それでも駄目というのは、いかがなものでしょうか」というメッセージを送った。だが、返事はなかった。一方、担当の男性スタッフにもLINEで同じメッセージを送ると、こちらは「みんな出勤しています。不安なのは男性スタッフスタッフも同じです」と返信があった。

「そこで、4月12日まで休むと、罰金はいくらになるのか訊きました。すると男性スタッフからは『4月12日まで来ないということでいいのですか』というメッセージが送られてきただけで、何も答えてくれませんでした。この時、既にお店に来られるお客さんの数は減る一方でした。私は色々と考えた結果、『新型コロナウイルスの影響で売上が作れませんし、不安なのでお店を辞めたいです』と伝えました」

 今回は「分かりました」と返信があった。ヒトミさんは契約書に「辞める前は1か月前に申告」と記載されていたのを思い出し、「1か月は働く感じですか?」と質問した。すると「いえ、もう来なくていいです」と突き放された。

 驚いて給与について質問すると、「計算が終わっていないので、お待ちください」との返信だった。この時、ヒトミさんは「自分の辞職願が受理されたのではなく、店から解雇された」と受け止めたという。すると2日後に、桜井さんからDMの返信が届いた。

 そこには「コロナで休みたい人は罰金を科しません」といった内容のことが書かれていた。ヒトミさんは自分が解雇されたことを桜井さんは把握していないのではないかと思い、男性スタッフとのLINEのやり取りを画像データにして桜井さんに送った。すると「私の伝達不足で従業員が普段通りの対応をしまっただけです。私の責任です。すみません」と謝罪の返信が届いた。

 そして4月16日、この日は3月分の給料日だった。ヒトミさんは歌舞伎町まで取りに行った。店内にはヒトミさんの他に4人のキャストがいた。全員、店の対応には不満を持っていたようで、ある女性は「もう辞める」と明言していた。

「1人ずつ部屋に呼ばれ、私は最後でした。部屋でお給料を受け取り、封筒の中にある明細を見て驚きました。時給1267円で計算されていたのです。後で分かりましたが、これは東京都の深夜時間帯における最低賃金の時給なのです。夜のお店、しかもキャバクラでこの時給はあり得ません」


■突然、時給が半額以下に


 ヒトミさんが給与を計算してみると、不当に給与を引き下げられた疑いは濃厚だった。そもそも2月19日に入店したため、3月19日までは保証時給が6000円と取り決めていた。それ以降は売上によって時給が変動するのだが、3月の売上は47万円。店の規定に従えば時給は2500円になるはずだった。

 本来の給与は48万3831円。一方、給与袋に入っていた現金は16万2000円。差し引き、約32万円の未払い分が発生した。

「その場で『なぜ、こんなに少ないんですか?』と質問しました。すると契約書を見せられました。そこには『急遽・無断退店の場合は基本的には給料の支払いは有りませんが、やむを得ない事情での1ヶ月未満の退店は東京都の定める最低賃金とします』と書いてありました」

 ちなみに正式な契約書は1通しか作成されず、店側だけが保管している。キャストには契約書などの内容を要約した用紙が手渡され、急遽・無断退店の取り決めについては書かれていた。

「もう来なくていいと言ったのは、そっちじゃないですか」とヒトミさんは抗議したが、「辞めたいと相談したことを退店申告と見なした」と説明するだけで、全く進展がなかった。ひとまず引き下がったが、ヒトミさんは4人の同僚の女性に連絡を取った。すると、やはり全員が保証時給を半額などに引き下げられていたことが分かった。

「新型コロナの影響で、がくんと客足が落ちました。結局、こんなやり方は、私たち新人のキャストをリストラし、人件費を削減するのが目的だと言われても仕方がないと思います」

 ヒトミさんは労働基準監督署を訪れ、給与明細などを持参して経緯を説明した。すると担当者が決まったが、「新型コロナの問題で様々な問題が発生しており、少し待っていただけますか」と言われたという。

 一方、桜井さんはYouTubeに4月3日、「新型ウィルスに対する経営者としての今の私の気持ち。【緊急会見】」と題する動画をアップし、「コロナでお店を自粛することは従業員と心中することと同じなので従業員を守るためにも自粛はしません」と明言した。

 すると、YouTubeのコメント欄に批判が殺到する事態となった。このため桜井さんは4日に「新型ウィルスへの今後の歌舞伎町のキャバクラの対応について【緊急報告】」の動画をアップ。涙を浮かべながら謝罪し、「4月12日まで営業を自粛する」ことを明らかにした。

 その後、東京都は政府の緊急事態宣言に基づき、4月10日、休業を要請する施設の詳細を発表し、キャバクラを含む遊興施設については休業要請は5月6日まで延長された。

「それでもYouTubeのコメント欄には『4月13日から営業再開してるのは本当ですか?』との書き込みがあります。事実だとしたら問題だと思います。私たちの不当解雇、給与未払いの問題も、野の花さんがしっかり法律を守ろうという意識が低いことを浮き彫りにしているのではないかと思います」(同・ヒトミさん)

 こうした告発に対し、桜井さんは何と答えるのか。4月30日、キャバクラの「花音」に電話すると男性スタッフが応対した。取材申請も行えたことから、営業を再開していることが確認できた。

 後日、桜井さんは記者の携帯に電話をかけ、取材に応じた。まず、営業再開の問題については事実だと認めた上で、次のように説明した。

「私自身の個人的な考えとしては、自粛の必要性は充分に理解しています。営業を自粛できないか検討したのですが、残念ながら実現に至らなかったという経緯があります。私は『桜花』と『花音』以外にも2店舗を経営しており、更に5店舗目のオープンも準備していました。営業している4店舗では家賃の減免などを大家さんに交渉したのですが不調に終わり、5店舗目はキャンセルの時期に大家さんと見解の相違があり、家賃を請求されています。これだけでも1000万単位の“負債”として、私にのし掛かっています」

 もちろん、スタッフを雇用しているため、家賃に加えて人件費も発生している。困り果てた桜井さんは顧問弁護士に相談したという。

「顧問弁護士は『自粛する必要はない』という見解を示し、『営業を再開しても、法的には全く問題ない』と助言されました。確かに店の営業を自粛しても毎月、家賃と人件費は発生します。一方、店を開けば、ほんの少しでも収益が得られます。経営状態が急速に悪化しているということだけは、どうか指摘させてください」

 ちなみに世論の動向を踏まえ、営業再開は全く宣伝していないという。気心の知れた常連客に情報が届き、来店してくれればありがたいというスタンスを選択している。

 一方、元キャストの訴えに対しては、「時給の問題も、退店に至る経緯も、全て契約書で取り交わした条項に則って行いました」と真っ向から否定した。

「御社が取材した女性に心当たりがあるつもりですが、入店してすぐ、年齢の関係から『正直、キャバクラはキャストとして働くのはしんどい』と彼女から言われたこともありました。数回にわたって『辞めたい』と漏らしたことも把握しています」

 つまり、プロ意識が欠如していたことも、大きな要因の1つと指摘するのだ。

 ヒトミさんは近況として「源泉徴収票の発行を店に依頼しているのだが、全く返答がなくて困っています」と明かす。今後も双方で、様々な動きがありそうだ。

週刊新潮WEB取材班

2020年5月11日 掲載

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