コロナ禍で「自殺者27万人増」の驚愕シミュレーション 補償なき安倍政権の見殺しで

■政府による補償なし自粛要請で、最悪27万人が自殺に追い込まれる


 今、日本は新型コロナウイルスによる感染爆発、医療崩壊を回避するという名目で、政府より「緊急事態宣言」が出されている。そして、「社会的接触8割減」「ステイホーム」をスローガンとして、不要不急の外出自粛と自宅待機が要請されている。メディアでは、感染症対策の専門家の一人、「8割おじさん」こと西浦博北海道大教授の提案を受けた政府の8割減要請は「正当」であり、その要請に応えることこそが今、日本を守るための国民の義務なのだという「一大キャンペーン」が展開されている。

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 多くの国民もこのキャンペーンに協力し、ステイホームを実践。一部の国民が、「不要不急」と見なされ得るバーベキューやパチンコ等に出かけるや、激しくバッシングされる状況にある。巷では「自粛警察」とも呼ばれる「感染爆発・医療崩壊の回避という絶対正義」を掲げた全体主義的な社会的抑圧によって、多くの国民は自発的な自粛というよりはむしろ「萎縮」し、その有効性についての判断は半ば思考停止しつつ、半強制的に自宅に閉じ込められる状況に至っている。

■自粛により崩壊しつつある経済と社会


 これによって感染の拡大が抑制されている可能性はもちろんあるのだが、自粛によるさまざまな弊害の深刻さが、日に日に明らかになってきている。既に連日報道されているように、自宅に閉じ込められた人々のストレスは増大してDVや虐待が激化、大半の国民の所得は縮小し、仕事を失う人々も増大、そして収入が激減した多くの店舗や法人の廃業、倒産が相次いでいる。

 もちろん、政府が欧米諸国のように、店舗・法人に補償金を潤沢に支給するなら失業や倒産は最小限に食い止められるだろうが、我が国中央政府の対応はほぼ皆無だ。つまり今の安倍内閣は「自粛してください。でも補償はしません」という途轍もなく冷徹な態度に徹しているのである。結果、最後の頼みの綱である政府からも見捨てられた多くの国民は今、急速に明日への希望を失い始めた。挙げ句に空腹に耐えきれず犯罪に走りだす国民、さらには自殺する国民が今、にわかに増え始めた。

 事実、ゴールドマン・サックスは、安倍内閣が4月時点で決定した緊急経済対策を織り込んでもなお、4―6月期の実質GDPは前期比で年率25%下落すると予測。これは、国民1人あたり1年で111万円もの所得を喪失する速度の経済悪化であることを意味している。

 こうなれば確実に凄まじい失業率の増加を招くことは必至だ。

 そもそも「8割おじさん」西浦教授は、対策を何もしなければという(現実的にはあり得ない)前提で、感染死は数十万人に至るから8割自粛が必要だと主張したのだが、今度はその8割自粛のせいで自殺者数が増加することが懸念されるわけだ。だから、適切な政策方針を考えるには、自殺者の増加についての見通しを持つことも必要となる。ついては筆者は、当方がユニット長を務める京都大学レジリエンス実践ユニットにて、計量経済学の手法を用いて2020年度以降の自殺者数の推移についてのシミュレーションを行うこととした(推計方法の詳細はグラフを参照されたい)。

 結果、実質GDPが2020年度において14・2%下落し、失業率はピーク時で6・0%〜8・4%に到達し、累計自殺者数は約14万人〜27万人増加するという結果となった。本当かと疑うだろう。私も驚いた。

 詳しくこの結果を見ていこう。

 グラフが、このたび推計された自殺者数の推移だ。まず、2019年まで振り返る。ご覧のように、1997年までは自殺者数は年間2万人程度で推移していた。しかし1997年の消費増税によって日本はデフレ不況に突入し、その結果、倒産、失業が一気に拡大、自殺者数は1万人も急増して3万人を上回る水準に至った。その後日本はデフレから一向に脱却できず、自殺者数は高止まり。ただし(失業率が下落し始めた)2010年頃から徐々に自殺者数は減り、最近では再び2万人程度の水準に戻っていた。つまり、1997年増税によるデフレ不況で、日本は約20年間も自殺者が増えていたのである。結果、20年間で約40万人となるはずの自殺者が、トータルでそれより実に約14万人も増えたのだった。

 一方、今回のコロナ不況で、上記のように実質成長率は実にマイナス14・2%に至り、その煽りを受けて失業率は6・0〜8・4%に至ると予想された。これは、緊急事態宣言が出されたという状況を踏まえ、かつ、消費税は10%に据え置かれる前提での値だ。そしてコロナ収束後に経済が平常状況に戻っても、今のデフレが常態化した日本では年率1%未満の成長しかできず、コロナ不況前の状況に戻るのに楽観シナリオで19年、悲観シナリオでは27年もかかる。これは、一旦大きく落ち込んだ経済が、ここ約20年間の平均成長率に基づいてゆっくりと回復していくと想定した結果推計された年限だ。そしてその間に自殺者の増加数が少なくとも19年間で14万人、最悪では27年間で27万人に上るという結果になったのである(計算の詳細はグラフを参照されたい)。つまり、累計自殺者の増加数は、1997年増税によるそれと同程度、あるいは、その2倍程度の水準に至ると予期されたのである。


■自粛から自制へ〜半自粛のススメ〜


 以上のシミュレーションは、西浦教授が示した「最悪の感染死者数」なるものに匹敵する水準の自殺者数が、彼が提案した「8割減」によってもたらされる可能性を示しているのだが、筆者はここで、信憑性の視点から言うなら、実証データに基づく我々の計算は西浦氏のそれを圧倒しているという点を強調しておきたい。

 そもそも西浦教授が準拠する「2・5」という基本再生産数(1人の感染者が感染させる人数)は、WHOの示す「上限値」なのだが、これは今の日本には明らかに高すぎる。そもそも、西浦教授が8割減を言い出した4月上旬、既にほとんどの国民が手洗い、マスク着用を励行し、宴会やイベントはほぼ自粛されており、基本再生産数が「上限値」である可能性は万に一つもない状況であった。しかも彼のシミュレーションでは本来は「6割」だったのだが、歓楽街での感染は止められないとの彼の主観的な見込みで、それに(一切の定量的根拠も無いままに)2割を水増しして8割にしたという。しかし、緊急事態宣言下の歓楽街の諸店舗はほとんど休業していたのであり、その意味でも8割は明らかに過剰だったのだ。つまり彼が主張する「8割」という数字には一切何の根拠もなかったのである。

 しかも「接触を減らせ」と西浦教授は言うが、別に「接触しても感染させない事」は可能だ。我々京大ユニットではそうした視点から、ウイルス学が専門の宮沢孝幸京大准教授と共にその感染メカニズムを徹底的に踏まえつつ、社会心理学・行動心理学の視点も加味した上で最も効果的効率的な「感染防止策」として手洗い・マスクに加えて(1)目鼻口を触らない(2)換気の徹底(3)会食時の会話に気をつける(だから当面は宴会自粛)、という三つに配慮する「だけ」で十分だと提案している。こうすれば、これ以上過剰な自粛を続ける必要はない。「自粛」の水準を一定程度緩めつつ、外出時にしっかりと「自制」する、そうした「半自粛/半自制」の取り組みによって、社会経済活動を一定再開させつつ感染拡大を防ぐことができるのである。

 いずれにせよ、我々社会工学・社会心理学・リスクマネジメントの研究者からすれば、西浦教授の「接触機会8割減」は経済や社会に対する配慮が圧倒的に不足している。そもそもゴキブリ一匹を退治する為に家全体を燃やすような愚は避けねばならない。殺虫剤で事足りる筈だ。これからあらゆる都市・地域で検討が始まっている「出口戦略」において、この京大ユニット提案を是非、参照頂きたいと思う。


■安倍内閣よ、「財政規律」より「国民の生命」を守れ!


 ところで、こうした経済危機に伴う自殺は、政府による経済対策で大幅に軽減できるにも拘わらず、安倍政権は十分な対策を打とうとしていない、という点は強調しておかねばならない。これはつまり、国民は今、安倍政権に「見殺し」にされつつあることを意味している。

 そもそも我々の自殺者数シミュレーションは、今回の117兆円の緊急経済対策なるものを前提としている。安倍内閣はこの対策が「世界最大級」だと胸を張るが、その中身の実態は先進国の中では「世界最小級」だ。一般に政府自身が赤字国債などで調達し政府の財布から支給する資金のことを「真水」というが、国内に振り向けられる真水はこの117兆円の内わずか25兆円しかない。アメリカは既に300兆円の真水を決定しているが、日本のそれはその僅か12分の1しかないのだ。

 しかも、その予算執行は、何と5月からだ。諸外国の給付は、感染者が出たのが日本よりもずっと遅かったアメリカですら4月中旬からだった。欧州諸国もほぼ同時期に給付を開始しており、スピードにおいても規模においても、日本は欧米諸国に著しく見劣りするのである。

 それもこれも財務省に籠絡された安倍内閣が、「国民の生命」ではなく、プライマリーバランス(基礎的な財政収支、政府の収入と行政支出の差額)黒字化という「財政規律」を守ることを圧倒的に優先しているからだ。本来なら、少なくとも速やかに消費税凍結を含めた100兆円規模の真水の支出が必要不可欠な状況なのだが、そうした議論が永田町から一向に聞こえてこないのは、こうした事情があるからだ。

 その結果、我々日本国民は今、新型コロナウイルスで命を落とす以前に、財政規律を死守する政府によって殺(あや)められかねぬ状況に置かれている。我々日本人は「平和ボケ」だと長らく言われ続けてきたが、そろそろ目覚めなければ、自分たちの生活はもちろんのこと、命すら失うことになるのである。

 一人でも多くの日本国民の「覚醒」を期待したい。

藤井聡(ふじいさとし) 京都大学大学院教授 元内閣官房参与
1968年奈良県生まれ。京大卒。イエテボリ大客員研究員、京大大学院工学研究科助教授、東工大大学院教授等を経て現職。専門は公共政策論。著書に『強靭化の思想』『プライマリー・バランス亡国論』等。

「週刊新潮」2020年5月21日号 掲載

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