「全国民にPCR検査を」は間違っている 「新型コロナ」最前線の医師が解説

「全国民にPCR検査を」は間違っている 「新型コロナ」最前線の医師が解説

新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真(国立感染症研究所HPより)

■PCR検査数は「日本の恥」なのか


 油断は禁物とはいえ、国内の新型コロナウイルス新規感染者数は減少傾向にある。一方でなぜかいまだに激化しているのは「PCR検査」を巡る論争だ。

 検査を増やせ、という立場では「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系)が独走気味だったところに、最近新たに加わってきたのが島田眞路山梨大学長である。

 山梨大病院の元院長でもある島田氏は、産経新聞や東洋経済オンラインの取材に答えて、現在のPCR検査数は「日本の恥」という言葉まで使って、痛烈に批判をしている。

 島田氏の主張を要約すると、以下の通りである。

(1)日本のPCR検査数は諸外国と比べて少なすぎる。発展途上国並みだ。
(2)どんどん検査して陽性者はホテルや公共施設に収容して様子を見るべきだ。
(3)検査数を増やしても医療崩壊は起きない。
(4)検査数を増やさなかったのは、五輪などを考えたからだ。
(5)検査そのものは簡単なもので、もっと増やせる。

 ただ、そうはいっても実際に日本は「諸外国」よりも感染者数も死者数も少ない。検査数が多い国がうまくいっているとはいえないのでは、という疑問は残る。これについて、島田氏に直接問いただしたのが、杉村太蔵元代議士である。11日、「情報ライブ ミヤネ屋」(日本テレビ系)に出演した島田氏に対して、杉村氏は「検査数が少ないというご主張はわかるのですが、日本は圧倒的に死者数が少ない。それについてはどうお考えでしょうか」と質問をぶつけたのだ。

 しかし、これに対して島田氏は「世界と比べて圧倒的に検査数が少ない」という従来の主張を繰り返したうえで、「死者数が少ない」というデータ自体が信用できないと反論。要するに、日本がうまくいっているということ自体怪しい、それもPCR検査を増やさなければわからない、というのが島田氏の考えである。島田氏とは別に「全国民にPCR検査を」と呼びかけている人たちもいる。


■現場の医師からの声


「デイリー新潮」では、5月2日、実際に現場で新型コロナ対応をしている医師の声を紹介した(「最前線の医師」が語った本音)。都内の総合病院に務めるこの医師(以下、A医師)は、この取材で「現場の医師は誰もPCRを無闇に増やすことを望んでいない」と断言している。その主張の要点をまとめると、以下のようなものだ(なお、病院への問い合わせや抗議などが直接来ると、最前線での診察に支障が生じるのが懸念されるという理由で彼は匿名を望んでいる)。

「現場の医師が必要だと判断した患者に対してはPCR検査を行うべきだし、そのスピードや効率を上げることは必要だろう。

 しかし、ちょっと不安だとか、身の潔白を証明したいといった程度の人まで簡単に検査できるようなことは絶対にやらないほうがいい。

 不要な検査が増えることで、結果として必要な検査のスピードが遅くなる可能性が高い。実際に、保健所の電話がつながらない、というのはそのあらわれである。

 また、検査は100%ではない。偽陰性(本当は感染しているのに陰性となる)が必ず一定数出る。その人たちが、安心しきって自由に動き回るとかえって危ない。毎年のインフルの流行の原因も、この偽陰性の人が広めているという面がある。

 偽陽性の人もどこかに収容するとなると、その分のケアも大変だ。

 さらに検査そのものが感染を広げるリスクもある。感染症に不慣れな医師、クリニックに希望者がやってくると、そこでクラスターが発生する怖れがある。

 実際に検査数を無闇に増やした韓国やイタリアではクラスターが発生した。そもそも国によって事情が異なるので、外国のやり方をただ真似しても意味がない」


■「死者数がごまかされている」は陰謀論


 さらに、「死者数がごまかされている」という説に対しては「陰謀論の類」だと一蹴。こうしたA医師の話には、現場の医療関係者からも「同感」というコメントが多数寄せられていた。それでも今なお島田氏のように「PCR検査を増やせ」という声は止まない。

 改めて、A医師に「検査数」についての見解を聞いてみた。

「まず、実際の死者数がもっと多いはず、という意見は、データを示さない限り意味がないと思います。実際には、そんなデータは私が知る限りありません。

 感染に関連する死亡を疫学的に分析する方法に『超過死亡』を見るというやり方があります。通常の流行疾患や致死的疾患で亡くなる人が一定数いると仮定して、それより死亡数が増えているかを見る方法です。すごく大雑把にいえば、『毎年この時期、このくらいの人が亡くなっている』という数字と、今年の実際に亡くなっている人を比べてみて、どれだけ増えているかを見るということです。

 たとえばこれが例年よりもかなり増えていれば、仮に死因がハッキリしていなくても、新型コロナの影響があるかも、という推理をしてもいいかもしれません。実際に、新型コロナで多数の死者を出しているイタリア、スペイン、アメリカの都市では、かなりの超過死亡が見られます。

 では、日本はどうでしょうか。東京でこそ2月末〜3月末あたりに超過死亡が見られたものの、それ以外の地域では例年よりも少ないのです。東京も4月以降は、例年よりも死者数は少なくなっています。

 もちろん、若干数は真の死因が見逃されている例もあるかもしれませんが、それは全体に影響を与えるような数ではないはずです。

 この超過死亡を見るというやり方はオーソドックスな分析法で、これで見る限り、『ナゾの肺炎死』などが増えているという主張には無理があると言わざるをえません。隠された死者というのはどのあたりを指しての推論なのかわかりません。すべてのデータが隠蔽されている!というのならやはり陰謀論ではないでしょうか」


■検査にはデメリットもある


 しかし、まだ若い人が重症化した、亡くなったといった報道に触れると不安になるのが人情というもの。そういう不安を持つ人にとって「PCR検査を増やせ」という主張は耳に心地が良いのも確かだ。

「何となく体調が悪い、という時に今であれば、新型コロナではないかと思って、検査したくなる気持ちはよくわかります。特にテレビなどから膨大な情報が発信されているので、不安が増すのもわかります。

 ただ、前回もお話ししたように、コロナであろうがなかろうが、体に重大な異変があれば急いで病院に行く必要があるし、救急車を呼ぶのもいいでしょう。コロナっぽくないから救急車を呼べないとか、陰性だったから呼べないとかそういうふうに考えないでください(だからといって、不要に救急車を呼ぶのもやめてください)。コロナ以外に人命にかかわる病気やケガはいくらでもあるのです。

 一方で、そこまでの症状がないのに検査をしたいというのは、気持ちはわかりますが、デメリットが多いことはぜひご理解ください。

 まず、本当に必要な検査を遅らせることになります。そもそも世の中には他の病気も山ほどあり、そうしたものの検査もしなければならないのです。

 さらに、検査先で感染するリスクがあることも忘れないでください。せっかく本来は陰性だったのに、そこで感染したら残念なことです。報告されている院内感染の多くは、新型コロナの診察とは関係のない科や病院で発生しています。その方たちに罪はないのですが、結局、感染症対策に習熟していない人たちのところが感染源になってしまう可能性は高いと感じています。

 各地の医師会が急遽作っておられるPCR検査センターでは、必ずしも慣れていない方も動員されているようにも聞きます。そこが新たな感染源になることを個人的にはとても心配しています。

 検査をしないと不安だと感じる方のお気持ちはわかりますが、PCRで1回陰性となったからといって、その後も陰性が保証されるわけではありません。では毎月検査するのでしょうか。キリがないのではないでしょうか。

 医療にかけられるコストは有限です。そのすべてを新型コロナの、それも検査に注ぎ込むといったことをする必要はないはずです」


■不確かな情報を伝える前に考えてほしいこと


 A医師はこう続ける。

「個人としてどのような推理をするのも自由だとは思うのですが、メディアの方はそれを広める際にもう少しお考えいただきたいとは思います。

『PCR検査は実は簡単だ』という主張を、この数カ月必死で検査に従事している検査技師の方たちはどう聞くのでしょうか。私の知る限りではそんなに簡単な検査ではなく、かなりのスキルが必要です。将来的に簡易な方法が広まるのはとてもいいことですが、安易に『誰でもできる』みたいなことを言うのは、現在の検査技師の方々へのリスペクトを欠いています。

『本当の死者数は不明だ』という主張は、裏を返せば、現在診察をしている医師、検死をしている医師らは技量がない、あるいは陰謀に加担している、そのどちらかだと言っているのと同じことです。日本のシステム上、そうでなければ説明がつきません。これも医療関係者に感謝を、というメッセージの逆のような気がしますがどうでしょうか。

 先日、NHKに出ていらしたWHOシニアアドバイザーの進藤奈邦子さんは、日本の対応は世界的に高い評価を得つつある旨を語っていらっしゃいました。

 実際のところ、皆さんの自粛の効果もあり、この数週間で私の病院はかなり落ち着いてきています。『2週間後にはニューヨークになる』と言われてから1カ月くらい経ちましたが、あの頃よりもかなり余裕が出てきています。もちろん、個々ではお気の毒な亡くなり方をした方もいらっしゃるでしょうし、まだまだ改善したほうがいいこともあるとは思います。

 ただ、死者数を抑えることができて、感染者数を減らすこともできているのだから、大筋ここまでやってきたことは正しいと思っています。間違ってもどんどん検査拡充だ、全国民検査だ、みたいな変な方向に進むことはやめて欲しいと心から思います。

 もちろんまだ気を緩めるのは早いので,国や自治体の方針がどうであれ、以前と同じ生活に戻すのではなく必要最小限な行動を心がけていただきたいと思います。

 そして、少しでも風邪っぽいなと感じた時には、万が一を考えて学校や仕事を休む勇気をもってください。たとえ新型コロナでなくても、体調が悪い時に休むのは責められることではありません」

デイリー新潮編集部

2020年5月20日 掲載

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