吉村知事と小池知事、“改革の経験”と“ビジョン”に差 経済に配慮なき都のロードマップ

吉村洋文知事と小池百合子知事の『改革の経験』と『ビジョン』の差を指摘

記事まとめ

  • 東京都の『ロードマップ』について、経済に厳しすぎるとエコノミストが指摘している
  • 第2波が来ても責任を負いたくないから小池知事は慎重姿勢なのだと推測されている
  • 一方、吉村洋文知事は改革を進めた経験があり、今回も責任を負う姿勢を見せたという

吉村知事と小池知事、“改革の経験”と“ビジョン”に差 経済に配慮なき都のロードマップ

吉村知事と小池知事、“改革の経験”と“ビジョン”に差 経済に配慮なき都のロードマップ

吉村洋文知事と小池百合子知事

 5月22日に発表された東京都の「ロードマップ」では、コロナウイルスの新規感染者数やPCR検査の陽性率などの指標を用いて、3つのステップで休業要請などが緩和される。ステップ3になれば、現在22時まで認められている飲食店の営業は午前0時まで可能となるが、接待を伴う店に関しては最後まで営業は認められない。これが神奈川県であれば一斉に自粛要請が解除されており、近隣県との「足並み」はそろわないのだ。

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 都のロードマップについて、第一生命経済研究所の首席エコノミスト、永濱利廣氏はこう評する。

「経済に厳しすぎます。もう少し経済に配慮し、今後の対策を考えたほうがよいのではないでしょうか。緊急事態宣言下では、東京都だけでGDPの損失が1日当たり457億円もありました。ステップ1では、全体の5割ほどを占める不要不急の消費が4分の1、全体の8分の1程度戻るだけ。ステップ2でも戻る消費は全体の4分の1程度で、ロードマップ通りに進めれば、経済の早急な回復は見込めません。また、都が唱える“新しい日常”を守っていたら、飲食店でも向き合ったり隣に並んだりできない。営業時間が延びても集客に影響が出て、十分な利益が確保できません」

 だから、経済部記者によればこんな企業も現れる。

「“いきなり!ステーキ”を展開するペッパーフードサービスは、昨年末に1300円前後だった株価が、5月7日に423円まで下がった。わずか5年で400店以上に急拡大した“いきなり!ステーキ”も、客単価が2千円近く、ファストフードにしては割高と認識されて客離れが。そこにコロナ禍で多くの店舗が休業や時短営業を余儀なくされています。いま“ペッパーランチ”事業の譲渡先を探していますが、外食産業はコロナの影響でどこも余裕がありません」

 レナウンに続く東証1部上場の――とならないことを祈るが、こうした例を見るにつけ、敷かれているのは都民、日本経済にとっての「死のロードマップ」と言えよう。その軌跡が、小池知事の不戦勝のウィニング・ランに――。そんな空前絶後のシュールな競技ではなく、真っ当なスポーツの試合をこそ早く開催してほしいものである。

 さて、永濱氏は、

「カラオケボックスやスポーツジムは、ステップ3になっても営業を再開できないとされていますが、方法を考えれば、再開できる余地はあると思います」

 と続けるが、小池知事の慎重姿勢を、さる都政関係者はこんなふうに見る。

「あのロードマップは国の基本的対処方針に沿っていて、ナイトクラブやカラオケなどについては、国が指針を示していないので決められないのです。要は、国の後ろ盾があれば、不測の事態が生じても言い訳ができる。第2波が来ても責任を負いたくないから、お金をばらまく以外、踏み込んだことはしないのです」

 その点は、日本医科大学特任教授の北村義浩氏も看破しており、こう話す。

「感染者数が少なく医療も逼迫していないので、宣言解除後に“新しい日常”が実践されるなら、ロードマップの1、2、3を同時に解除してもいい。一つのステップを解除するのに2週間待つというのも、医学的な判断ではないと思います。39県の宣言を解除した際、安倍総理が解除された県民に向けて“三つのお願い”をしましたが、そこに“少しずつ、段階的に”という言葉があった。それに合わせた格好でしょう」

 首都圏の緊急事態宣言が解除される直前、小池知事は、ステップ1を短縮する可能性に触れた。これも政府の新たな基本的対処方針で、6月を迎えずに小規模のイベント開催が認められたからにすぎないという。


■なんら改革をしていない


「東京都のロードマップを見ると、ナイトクラブやカラオケ、ジムが最後のステップまで×ですが、そういう業種は消えてしまうのではないか、大丈夫なのかな、と思ってしまいます。いつまでも開けられないと、アンダーグラウンド化する可能性もありますよね」

 と首を傾げるのは、神奈川県の黒岩祐治知事だ。神奈川では、そういう業種の営業も認められるわけだが、

「同じ業種でも、感染症対策をよくやっているところと、やっていないところがあると気づき、業種ごとの休業要請で本当にいいのか、という考えに至ったのです。感染拡大防止と経済を両立させるには、業種ではなく“感染拡大防止策をきちんとやっているか”が基準になると思い、業種ごとに感染拡大防止ガイドラインを作成しました。事業者の方々はそれをチェックし、県作成の“感染防止対策取組書”を貼り、お客さんにアピールしてほしい。県民のみなさんには、それを見てお店を選んでいただく。そういう流れを作りたいのです。街の声を聞いても、みなさんウイルスの怖さを痛感しておられる。それなら外出自粛や休業の要請が解除されても、ワッと元通りになることはないだろうと。県民のみなさんを信じているということですね」

 黒岩知事自らが、経済のためにもリスクをとっているということだが、小池知事はリスクを嫌う。それは大阪府の吉村洋文知事とくらべても明らかで、

「大阪は緊急事態宣言が解除される前から、自分たちが作った基準をクリアできれば、自分たちの判断で自粛を解除し、責任は自分たちでとる、としてきました。一方、東京はあくまで“国が言ったから”と、国の責任にする姿勢です」

 とは前都知事の舛添要一氏の弁。元東京都知事で、現在、大阪府・大阪市の特別顧問を務める作家の猪瀬直樹氏も言う。

「吉村知事は壁にぶつかりながら、大阪都構想という、二重行政の無駄をなくす改革を進めてきた経験がありますが、小池知事はこれまでなんら改革をしていない。満員電車解消や花粉症ゼロなどは掲げても、なにも解消されていません。それが二人の差でしょう。改革を進めようとすれば、霞が関やマスコミほかと戦うことになり、反対派や世論を納得させるには、明快なアジェンダやロードマップを作り、ファクトとロジック、透明性で問題点をクリアにする、というステップを踏むことになる。そういう渦中にいれば、人々に必要な政策や情報の適切な伝え方が自然とわかるはずです。吉村知事は、たまたまコロナ対策で成功しているのではなく、経験があるから適切に対応できているんです」

 さらに、こう続ける。

「知事として改革をするとは、“この自治体をこうしたい”というビジョンがあるということ。都構想を通じてよりよい大阪にしたい、それには、コロナで打撃を受けた経済を早く立て直す必要があり、多少のリスクをとってでも、なるべく早く経済を回して出口戦略を練る――。吉村知事は、そういう当たり前のことをしているだけです。一方、小池知事には“東京都をこうしたい”という目標がないから、改革もしないし、リスクもとらないということではないでしょうか」

「週刊新潮」2020年6月4日号 掲載

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