スウェーデンの“ゆるい”コロナ対策 現地の日本人が証言する異色の戦略の実態

スウェーデンの“ゆるい”コロナ対策 現地の日本人が証言する異色の戦略の実態

コロナ克服のカギは、規制や自粛ではなく、“大人の対応”

 狂気の「人体実験」か、世紀の「英断」か。北欧の福祉国家が進める異色のコロナ戦略に、世界中の注目が集まっている。現地に暮らす日本人への取材で分かった知られざる実態とは。

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 ロックダウンはおろか、厳しい外出制限や飲食店への休業命令、さらには小中学校の休校措置もナシ。首都・ストックホルムではマスクさえつけずにカフェで寛ぐ人々の姿が散見される。

 世界でも類を見ないほど“ゆるい”対策で知られるスウェーデンだが、決して未知のウイルスの影響から無縁というワケではない。

 実際、6月3日時点での感染者数は約3万8千人にのぼり、死者は4403人を数える。人口が約1千万人と、日本の10分の1以下に過ぎないことを考えれば被害は甚大だろう。

 致死率は12%に迫り、人口当たりの死者の割合ではアメリカや中国を上回る世界6位につけている。

 トランプ米大統領も自身のツイッターで、

〈ロックダウンを決断しなかったスウェーデンは手痛い代償を払った。アメリカの決断は正しかったのだ!〉

 とスウェーデンをコキ下ろしてみせた。だが、

「批判的な意見があることは知っています。ただ、スウェーデンの政策は合理的だし、情報公開にも積極的なので多くの国民が政府に信頼を寄せているのです」

 とは、YouTube上で〈スウェーデン移住チャンネル〉を運営する、ストックホルム在住の吉澤智哉さんだ。

「こちらでは毎日14時に公衆衛生局が会見を開き、感染者数や死者数だけでなく、重症患者用の病床数や占有率まで発表される。きちんと情報を伝えて、あとは国民の判断に委ねるという姿勢が一貫しています。もちろん、規制が全く存在しないわけではなく、50人以上の集会や高齢者施設への訪問は禁止されているのですが、それ以外の外出はほぼ自由。国内旅行も車で1〜2時間で移動できる範囲なら問題ありません」

 また、現地で特別支援学校の教員を務めるサリネンれい子さんに、学校事情について尋ねると、

「高校や大学はオンライン授業ですが、幼稚園や保育園、小中学校は平常通り開いています。学校を一律に閉鎖しないのは、教育を受ける権利を奪ってはいけないという考え方が浸透しているから。加えて、スウェーデンはもともと学校を欠席しやすい環境なんですね。親が12歳未満の子どもの看病で仕事を休んでも、給与の約8割が保障されます」

 学校生活での変化は手洗いの推奨や、卒業式などの催しが縮小、もしくはオンライン化された程度。一方、

「学校で発生したクラスターでコロナに感染して亡くなった教員もいます。しかし、それによって国の政策を批判する人は見当たりません。スウェーデンには“たとえコロナに罹らなくてもいつ交通事故で死ぬか分からないじゃないか”という死生観を持つ人も少なくない。国を糾弾するよりも、個人の責任でやれることをやろう、というわけです」(同)


■“集団免疫”の獲得


 こうしたスウェーデンの政策について、ノーベル財団のヘルディン会長ら2千人超の研究者は3月末、〈集団免疫の獲得を待つ戦略は科学的根拠に乏しい〉と猛烈に批判し、厳格な措置を講じるよう求めた。

 同じく“集団免疫”の獲得を目指したイギリスはわずか数日で撤回し、ロックダウンに踏み切っている。

 だが、スウェーデンのステファン・ロベーン首相は、

「私たちは個人として責任を負わなければならない。全てを立法化して禁止することはできない。常識の問題だ。大人である私たちは、まさに大人として行動する必要がある」

 とブレない姿勢だ。

 サッカーリーグも6月中旬に開幕予定。このリーグで活躍する安岡拓斗選手は、

「ウインタースポーツ以外ではサッカー人気が圧倒的なので、ファンの後押しもあって早い決断となった印象です。現状では、スタジアムに観客を入れる方向で話が進んでいます。自己責任を重視するお国柄なので、観戦するにしても感染リスクは承知してください、という感じですね」

 他方、漫画で現地の日常を描くYukaさんは実際にコロナに罹っている。

「ストックホルムの自治体は、コロナの症状が出た際に病院へ行くべきかを判定するサイトを開設しています。その結果を参考に、私は2週間の自宅療養を選びました。後になって抗体検査で陽性と出て、罹患していたことが分かったのです」

 スウェーデンの致死率は日本の倍以上。不安はなかったのだろうか。

「致死率の高さは高齢者施設でのクラスターが原因と発表され、私も納得していましたからね。生活もさほど変わらないからか、警察が4月に発表したデータによれば、コロナとDVの増減に大きな相関性は見られないそうです」(同)

 浜松医療センター院長補佐の矢野邦夫氏はこう話す。

「コロナ対策で最も重要なのは、新型コロナウイルスによる死亡者と、経済難による死亡者の総数を少なくすること。スウェーデンの死亡者数はいまがピークで、しかも、集団免疫を獲得しつつあります。そう考えると、いまから3年後には、経済を止めなかったスウェーデンが“成功例”になっているかもしれません」

 しかも、現時点でもロックダウンしたベルギーやフランス、これに加わったイギリスより致死率は低い。

 コロナ克服のカギは、規制や自粛ではなく、“大人の対応”かもしれない。

「週刊新潮」2020年6月4日号 掲載

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