芸能人の政治的発言、“面倒くさい人”扱いされるリスク(中川淳一郎)

芸能人の政治的発言、“面倒くさい人”扱いされるリスク(中川淳一郎)

イラスト・まんきつ

 ツイッターの「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグが、500万以上のツイート数を集めたことが話題になりました。「安倍政権にとって都合が悪いことを隠蔽するために心血を注ぐ」とされた、黒川弘務・東京高検検事長の定年延長に反対するものでした。賭け麻雀で辞任というナイスなオチになりましたが、この件で注目したいのは、“多くの芸能人が政治的主張をした”という点です。

 もちろん、常に反政権的な「いつもの面々」は当然としても、普段は政治的な話をしないきゃりーぱみゅぱみゅ、城田優、西郷輝彦などが乗ったのは若干驚きました。芸能人が政治的主張をすることについて、私は昔から賛成しています。マズイものはマズイと、影響力のある人が言うのはいいことだから。

 そんな状況下、日本の芸能人が置かれた環境について述べますね。正直、政治的発言をするのは、芸能人としてカネを稼ぐにあたっては得策ではありません。繰り返しますが、「政治的主張をするな」と言いたいのではない。「その主張によって、得られるカネかなり減るよ」と言いたいだけなんですよ。別にカネが減ってもいいんだったらガンガン主張しろよ、とも思います。

 ただ、私が彼らの所属事務所の社長だったら「お前、やめとけ」と言うでしょう。

 理由は、日本の芸能人の仕事でもっとも“おいしい”のはCM出演だから。

 海外では、俳優がもっとも稼げるのは大作映画やNETFLIX等のネット配信サービスのドラマであり、CMに出ることは“恥”と思う人も多いそうです。

 一方、日本を見てみますと、テレビ番組に出演して1回で100万円もらえるようなかなり売れている俳優が、CMであれば1本3千〜5千万円になるんですよ。CMは言われたことをやるだけでお金がもらえるし、その後「ウェブサイトでも登場してください」「CM発表イベントにも出てください」となれば、追加でお金がもらえる。

 芸能事務所の人々はこんなことを言います。

「お笑いのライブやイベントに出たり、テレビ番組に出演するのはプロモーションなんです。それらを多くこなすことによって、“この人は人気がある”と企業に判断され、それがCM出演獲得に繋がります。CM出演本数を最も多く獲得して“CM女王”などと称されることを目指すのが、収入を増やす一番の近道なんですよ」

 私も広告会社出身だからこの構造は分かっていたのですが、「それを事務所のお前が言うか?」と正直思います。俳優やタレント、芸人と呼ばれる人々は本来「芸」でカネを稼ぐべきなのに「イメージ」「好感度」がカネになるという事実を知った若き日の私は、衝撃を受けたものです。

 こうした状況があるだけに、芸能人の不倫、離婚、DVといった騒動は「イメージ」「好感度」を下げてCMオファーがなくなることに繋がる。政治的発言についても、「この人は面倒臭い」と思われるし、政治的主張が異なる人々から実際にクレームが多数寄せられるから、CMに起用するのを躊躇されるんです。

 別に企業も言論封殺をしたいわけではありません。単に「面倒臭い」んです。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

「週刊新潮」2020年6月4日号 掲載

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