ナゾの「時代劇CM」はなぜ作られるのか 広告制作の裏側を解説(中川淳一郎)

ナゾの「時代劇CM」はなぜ作られるのか 広告制作の裏側を解説(中川淳一郎)

イラスト・まんきつ

 仕事上、広告制作者側にたびたび「制作意図」をヒアリングしてきましたが、まだ聞いたことがないのが「時代劇モチーフCM」について。謎過ぎて聞くのが怖くて……。

 脂ぎったオッサン2人が薄暗い部屋で話をしている。これは「ランドマーク税理士法人」のCMなのですが、同社の公式発表では「代官と庄屋の密談」だそうです。「我々もそろそろ」「引退ですなぁ」とニヤニヤ笑いながら話す2人。そこに突然、天井から手裏剣が投げられる。「なにやつ!」とギョーテンする2人。かつて「水戸黄門」で女忍者「かげろうお銀」を演じていた由美かおるが、そのときと同じような衣装を身にまとって飛び下りてきて、「ランドマークがあるじゃない!」。3人は現代の格好になって「ラララランドマーク」と同社CMの決めポーズをする。

 なんで「相続をちゃんとしなくちゃ」という子孫思いの心温まる話をしているのに「ひっひっひっ」と悪だくみをしているような演出になるんだっつーの!

 給湯器メーカー「パーパス」も時代劇風CMを出しています。石川五右衛門が釜風呂に入っていると「五右衛門殿、気持ちよさそうだな」と武士に言われる。五右衛門は「絶妙かな、絶妙かな」とご満悦。最後にはちょび髭の武士も扇を振りながら釜風呂に入って「絶妙かな、絶妙かな」とご満悦。家来は「殿!」と若干困り気味。

 あるいは、不動産ファンド「みんなで大家さん」のCMでは、「てーへんだ、てーへんだ!」と「うっかり八兵衛」みたいなヤツがチラシを街角で配っている。将来が心配だ、といった号外なのでしょうが、周囲の人は皆ニヤニヤして「自分は大家だから安心だ」と言う。そして最後は「ワシは庶民が幸せそうで良かったわぃ、ウヒヒ」と、織田信長風の殿様が安土城風の天守閣から地上を見下ろして満足そうにする。

 これらを見ていると「なんでこの演出になっているの?」と疑問だらけですが、察するに、内容を決める責任者に時代劇ファンがいるのかもしれません。

 CM作りの一般的なやり方は、競合コンペの場合、各広告代理店の営業が呼び出され、「オリエン」と呼ばれる説明を受け、訴えたい内容、予算などを伝えられます。そこからはまさに「かげろうお銀」のごとく、代理店の営業が隠密となって、広告主の本音やらキーマンの嗜好を探り始めます。

 例えば、担当者との会話で「ところで、山田部長ってどんな表現が好きなんですか?」と聞き、「趣味は時代劇鑑賞と言ってましたね」なんてネタが耳に入ります。隠密営業は会社に戻ると「今回は時代劇でいこう」とか言い出して、「忍者バージョン」「維新バージョン」なんかを提案するのでは。

 それにしても、給湯器のパーパスの「風呂釜」=石川五右衛門、という発想はなんでしょう。お風呂と時代劇なら、「水戸黄門」の由美かおる入浴シーンでしょうよ! だって、五右衛門は死ぬんだから! ちなみに五右衛門役の俳優は、中島大さんという方で、演技はかなりうまいと思います。

 そして。「ラララランドマーク」を見るたびに「ラララむじんくん」という1990年代のアコムのCMを思い出します。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

「週刊新潮」2020年6月11日号 掲載

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