吉村知事、「コロナ第2波」でも営業自粛は求めない 経済を止めるリスク言及

吉村知事、「コロナ第2波」でも営業自粛は求めない 経済を止めるリスク言及

「ほかの命」にも目を向ける知事

 現実と乖離した数理モデルを弄び、国の政策を左右して社会経済に甚大なダメージを与えた8割おじさんの轍は踏まぬ――。大阪府の吉村洋文知事は大いに吼え、そんな当たり前を明言した。

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 吉村知事が、「8割おじさん」こと西浦教授の数理モデルへの疑問を最初に口にしたのは、6月12日に開かれた「第2回大阪府新型コロナウイルス対策本部専門家会議」および、その後の囲み会見だった。

 第2波に備え、これまでの政策を検証すべく開催されたその会議には、オブザーバーとして大阪大学核物理研究センター長の中野貴志教授と、京都大学ウイルス・再生医科学研究所の宮沢孝幸准教授が出席。緊急事態宣言やそれに伴う自粛などには、感染者を減らす有意な相関は見られなかった旨を示され、知事はショックを受けた様子だった。

 だからというわけではなかろうが、早くも6月22日に「第3回」が開催された。吉村知事によれば、「社会経済へのダメージを最小化しながら、感染対策を最大化する」趣旨だという。そこでカギとなった「K値」について、オブザーバー参加した中野教授が語る。

「K値は感染拡大率の変化を測る速度計。ボールに高精度の速度計がついていると想像すればわかりやすいと思う。ボールを毎秒100メートルで打ち上げ、1秒後に毎秒90メートル、2秒後に80メートル、3秒後に70メートルになっていたとすると、打ち上げ10秒後に最高点に到達することが、容易に計算できる。時間間隔に比例しているので予測できるのです。K値で見ると日本もイタリアもフランスも、常にある傾きをもって直線的に落ちている。これがどういう速度で落ちていくのかがわかれば、翌日以降の感染者数は全部計算でき、実際、計算した結果が、感染者数の推移と合っていたのです」

 また、K値で見るかぎり、

「緊急事態宣言は効果がなく、あったとしてもK値では拾えないほど限定的だったと思います。一方、効果があったとわかるのは、武漢発の第1波を短期間で封じ込めたクラスター対策です。3月の3連休に気の緩みがあったというのも、K値で見るかぎり感染拡大に影響がなかった。3月中旬までの欧米からの感染源の流入とその時点までの行動変容で、日本の感染者の波はすでに決まっていた、というのが私の結論です」

 さて、第3回専門家会議を終えて、吉村知事は社会経済活動を進めていくためにも、「大阪モデルをヴァージョン・アップしたい」と述べ、こう語っていた。

「(感染増の)波のとらえ方に、K値を採用しようと思っています。中野先生のおっしゃるK値モデルは、感染の収束速度を計算して感染者数を想定するうえでは、かなり正確だと思う」

 では、それを第2波における感染防止策に置き換えると、どうなるか。

「感染が拡大したら黄、赤と警告を出しますが、黄信号では休業要請はしないと思う。赤信号に向かいそうな段階でお願いするかもしれませんが、全体にではなく、範囲をクラスターが発生し、感染が広がっている場所に戦略的に絞りたい。いよいよ赤信号で、このままでは医療崩壊だというときに範囲を広げるなど、段階的にやっていく」

 また、外出自粛を要請する際の課題について。

「明らかにリスクが高い人は見えています。70代以上の人、40代以上で基礎疾患がある人。そうしたコロナ弱者に限定してお願いするかどうか、考えどころだと思います。基礎疾患がない僕みたいな世代や中高生を全員ステイさせたら、あまり文句は出ないだろうけど、それって政治家の保身のためにやっているだけで、命を守ることにつながっていない。リスクの高い人に外出自粛をお願いするかどうか整理します」

 リスクの高低が人や場所ごとに明らかに異なるウイルスに対し、一律の対策を行ってきた愚は、国を挙げて検証すべきだが。


■映画館や劇場の「見直し」


 ところで、国の専門家会議はいまなお「新しい生活様式」の順守を訴え、安倍総理も同様だが、これに縛られるかぎり、社会経済活動が制限され、守られない命もある。それについて吉村知事は、どう考えているのか。本誌(「週刊新潮」)の問いに、次のように語った。

「ソーシャルディスタンスは基本的に必要だと思っていますが、社会的に大きなコストがかかる場面で、いま求めている措置が今後も必要かどうか、よく考えたいなと思います。たとえば映画館で左右2席ずつ空けるとなっても、1人が5人の入場料を払うわけではありません。映画館や劇場は何席空けろ、というのは国や業界でガイドラインを作っていますが、大きな社会的コストを伴うので、6月中は感染状況をよく見て、7月中にもどうするか判断したいと思います。ずっと何席も空けてやってください、と言っていたら営業が成り立たないので、詰めて座ってもそんなに感染が広がらないのであれば、徐々に対応していく必要があるだろう、という問題意識はもっています」

 そして、あらためて西浦モデルに対しては、

「オープンな場で議論を戦わせてほしい。今後の国家戦略のためにも、それをぜひ国にやってもらいたいな、と思います」

 と強調した。

 ところで、吉村知事が繰り返す社会、経済へのダメージの象徴であろう。大阪を代表する老舗ふぐ料理店、新世界や道頓堀の「づぼらや」が、緊急事態宣言を受けて自粛したまま、営業を再開できずに閉店する。店頭の巨大なふぐの提灯が外国人観光客にも大人気だったが、インバウンドが失われた状況を、吉村知事はどう評価しているのか。

「今後は水際対策が、すごく重要になってくると思います。一人ひとりへの検査を、僕はしっかりやってほしいと思っていて、大阪府には権限がないので、7月にも要望を国に出していきたいと思います。そもそも、陽性者を入国時に隔離できたら、国内では感染が広がらないわけですから。どこかで徐々に入国者も増えていくわけですが、なし崩し的に増やさないのが重要じゃないかと思います」

 しかし、現実にインバウンド消費は減っている。

「それで大きなダメージを受けているのは間違いないです。ただ、もう一つ言えるのは、日本から海外に行く人も減っているので、内需が増えると思う。いままでのアウトバウンドがない分、今後は内需の取り組みに力を入れたいな、と思っています。もともと旅行産業で言うと、22兆円くらいが国内需要で、インバウンドは4兆円くらい、アウトバウンドが2兆円くらいで、実は、日本国内の需要のほうが圧倒的に高い。インバウンドが戻ってくるまでは、国内の旅行者を大阪に呼び寄せる政策に、力を入れたいと思います」

 そして、こう締めた。

「全部シャットダウンしたときの犠牲は強烈で、逆に命を守れない、という問題意識です。これは国やほかの自治体もやるべきだと思うんですけどね。国に任せて感染者が増えてきたら同じことをし、“命を守るために必要だ”と言えば、 だれも反論できない。そのほうが僕らのリスクは小さいけど、社会、経済を止めることのリスクを追及し、感染対策と両立させる戦略や道筋を示すのが、政治の役割だと思います」

 実は吉村知事は、守るべき命には幅広く目を向けるべきだ、と訴えているだけである。いま日本に求められるのは、そんな常識を当たり前に受け入れる柔軟性ではないだろうか。

「週刊新潮」2020年7月2日号 掲載

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